ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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 話は数時間前に遡る――

 周囲から聞こえる、言葉として聞き取れない程の激しい喧騒。それは「喚き」とも「悲鳴」とも取れ、
(うるさいなぁ……)
 少年は次第に意識を取り戻し、
(何をそんなに騒いでるんだよぉ……)
 苛立ち交じりに戻った意識の中で眼を開けると、

「なっ!?」

 猛スピードで迫る海面が両目に飛び込んで来た。
 断崖絶壁の間を縫う様に一直線に急落下する少年。眼下で荒れる狂う白波と、ゴツゴツとした黒い岩肌へと向かって。
 不可避の死は瞬く間に、目前に迫っていた。
 しかし少年は怯えもせず、

(僕、落ちてるんだ……何でだろ……)

 ありのままを受け入れたかのように、悟りでも開いたかのように、

(まぁそれでも良いか……)

 淡々と、静かに目を閉じると、
(何の未練もないし……)
 するとそれはあまりに唐突に、何の前触れもなく、

≪少々、お話を伺ってもよろしいでしょうか?≫

 駅前で、勧誘でもするかの様な女性の声が。
(?)
 少年は再び目を開け、

「えぇ!?」

 驚きのあまり二度見した。
 傍らに立つ「たおやかな笑み」を浮かべた美しい女性を。

 アメジストの様な瞳に、薄紫色の長い髪。全身に白い一枚布を巻き纏い、透き通る様な白い肌を持った女性はまるで後光が差しているかの様に見え、一言で形容するなら『女神』。
 とは言え、今は高所から落下の真っ最中。
 理解不能の状況に気は動転し、

「だ、誰ですかぁ?!」
「驚かれるのも無理はあり、」
「ここはもぅ天国ぅ?!!」
「いえ天国では、」
「僕もぅ死んでるのぉ?!!!」
「いえ、そうではなく、」
「お姉さんはもしかして死神ッ?!!!!!」
「ですかぁ、」
「じゃあ何なのぉ!!!!!!!」

 答えを待たない矢継ぎ早の質問に、美しき女神のこめかみに怒りが浮かんだ次の瞬間、

『テメェ! ゴチャゴチャゴチャゴチャうっせぇんだよォ、コゾウゥがぁあぁ!』
 ゴォンッ!

 ヤンキー張りのイキ顔で頭をひと殴り。
「痛ってぇ~」
 頭を擦る少年の胸倉を掴み上げ、

「黙ぁってアタシの話を聞けやァ! 捻り潰すぞォ、ゴルラァアァ!」
「はひぃ!」

 少年は条件反射的に飛び退き、即正座。
 するとヤンキー女神は腹立たし気に舌打ちし、

「ハナから大人しくしろってんだァ!」

 薄紫のストレートロングヘアを振り乱し、
「荒ぇ口調で勧誘したのが上にバレたら「強要した」とか何とか難癖付けられてぇ、アタシの給料査定に響くんだよォ!」
(給料査定……)
 意外な言葉にキョトンとしていると、女神が傍らにヤンキー座りして不敵にニヤリ。

(何か、イヤな予感が……)

 不穏な空気を感じ取る少年に、
「オマエぇ」
「はっ、ハヒイィ!」
「さっき「死」を受け入れてたよなぁ?」
「ハヒィ! 受け入れちゃってましたぁ!」
「ならよぉ、ちぃ~~~とばっか、アタシのノルマに協力してくんねぇかぁ?」
「のっ、ノルマ? それは先程の「勧誘」と、」
「おぅさね! 話が早くて助かるわぁ!」
 ヤンキー女神は「カッカッカッ」と高笑いを一つ上げ、

「いやぁ実はな、誰か一人を「アッチの世界」に連れてかねぇとマズかったんだけど、タルくてサボってたら期限になっちまってよぉ、このままだと仕事をクビになっちまうんだわぁ」
「あまり深刻そうに見えませんが……」

 思わず小声でツッコんだ途端に、ガシッと肩に腕を回され、

「ヒッ! ごめんなさぁい!」

 頭を抱えると、
「謝んなくてイイからよぉ」
 不敵な笑顔のヤンキー女神は、少年の前にA四サイズの一枚の用紙をチラつかせ、
「この同意書に、ちょちょ~っと指を押し付けて拇印してくんねぇかぁ? それで済むからよぉ」
「あ、あの……」
「おん?」
「つかぬ事を伺いますが「あっちの世界」って……やっぱり「あの世」、」
「バァ、違ぇよォ!」
「ヒッ!」
 怯える少年に顔を近づけ、勿体付ける様に、

「そこは「異世界」ってヤツよ」
「い、異世界ぃ?! それは、もしかしてぇ猫耳とかエルフとかぁ!?」
「おっ、おぅよ!」

 若干含みを持たせ笑顔に、急に警戒心が頭をもたげ、
「りょ、両親からは、知らない人について行ってはいけないとぉ……」
「あぁ?」
 有無を言わさぬイキ顔に、

「何でもありましぇん!」

 こわばった笑顔で背筋を伸ばし、
「いっ、異世界に送られた僕は、いったい何をすれば良いのでしょうかぁ?!」
 するとヤンキー女神は満面の笑顔で、まるで少年の不安を笑い飛ばすかのように、

「聞いて驚けぇ! オメェは、あっちの世界で『勇者』になんだよォ!」
「ゆっ、勇者ぁあぁ?!」

 ともすれば「陰りを感じる少年」が見せた自然な驚きに、
「おぉよ! スンゲェだろぉお!」
 二言返事で同意を得られたと思いきや、

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無」
「『無理無理』ウッセェ!」

 ヤンキー女神は少年の頭を苛立ち交じりに一殴り。
 ゴォン!
「痛ぁ!」
 少年は頭を抱え、
「そんなの「無理」に決まってるよぉっぉぉ!」
 最後に一押し、

「だって勇者ってぇ、モンスターと戦ったりするんですよねぇ?!」
「おぅさ! カッケェだろぅ!」

 ヤンキー女神はヒーローに憧れる少年の様な笑顔を見せたが、少年は自虐的な笑みさえ浮かべ、
「僕なんかじゃ、バトルが始まった途端に秒で終わりですよ、秒でぇ」
 吐き捨てる様に言うとヤンキー女神の眼の色がギラリ。胸倉をガシリと掴み上げ、

「テメェの人生の岐路で『僕なんか』って物言いをスンじゃねぇよ!」
「へ?」
「オメェは自分で自身を隅に追いやって、自分が可哀想だとは思わないのかァい!」
「!」
「オマエの人生では「オマエが主人公」なんだよ!」
 叱咤激励であると理解はしつつ、
(そんな事、言われても……)
 少年は向けられた真っ直ぐな眼差しからスッと眼を背け、

「そんな風に思えるほど、僕は「アナタみたいに」強くないんです……」

 不貞腐れた態度。
「あぁ、そうかい。確かにそぅかもな!」
 歯がゆそうに、怒り交じりに奥歯を軽く噛み鳴らしたが、ヤンキー女神は心に残した数パーセントの冷静さを頼りに、
「だがねぇ、「何もしないで後悔する」のと「やるだけやって後悔する」の、どっちがイイと思うさねぇ?」
「…………」
 何も答えない横顔に、
(チッ)
 忌々し気に小さな舌打ち。胸元から手を離したが、

(!)

 とある考えが思い浮かび、悪い企み顔でニヤリ。
「そうかいよぉ。だが良いのかい?」
(何を言われたって僕なんか……)
 ひねた顔を背ける少年に、
「オマエさんは、肝心な事を忘れてんよ」
(……肝心な事ぉ?)
 振り返ると、ニヤケ顔したヤンキー女神は足下を指差していた。
(下……?)
 促されるまま眼下を見た少年は、

「ヒィヤァ+*%”&’#&”*+#&“‘#(#’&#‘@#+*なぁッ!!!」

 言葉にならない悲鳴を上げた。
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