ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
114 / 895

1-114

しおりを挟む
 戦場の最後尾の櫓の上――

 一人だけ取り残されたラディッシュは「空になった椅子車」と共に、戦場をタダ見つめていた。
(ラミィにドロプさん、気後れしてたパストさんだって戦ってるに……)
 無力さから思い出されるのはターナップに言われた一言。

≪無茶する姐さんの事を、よろしく頼むッス≫
「…………」
(僕はここで……何をしてるんだ……)

 意味合いを見出せなくなり視線を落とすと、

(流石はラミウム様だよな)
(本当だよ。ついさっきまで立つ事が出来なかったのが、嘘のみたいだ)
(あの眩い輝きは、まるで「魂の煌めきの如き」だよな)

 衛兵たちが賛辞を言い合っているのが聞こえたが、
≪魂の煌めき≫
 その一言が、ラディッシュの不安に火を点けた。

 何に代えても守りたい「大切な何か」が、まるで両手の指の隙間からこぼれ落ちて行くような感覚。
(ラミィ!!!)
 矢も盾もたまらず櫓から一気に駆け下り、

「「「「「勇者様ぁ!」」」」」

 衛兵たちの驚きの制止も聞かず、
(ラミィ! ラミィ!! ラミィ!!!)
 言葉にならぬ想いと共に、戦場へ駆け出して行った。
 卑下や打算、纏わる余分な感情の全てをかなぐり捨てて。


 何のチカラも持たないラディッシュが死地へ足を踏み入れた頃――

 総師団長アスパーは自身の戦場を移し、人狼、サイクロプスの掃討に苦戦を強いられていた一団に加勢していた。
 黒狼パトリニアが相手では、自身が「一兵卒程度にしか役立たない」と理解しての英断であった。

 彼が持つ、戦士としての経歴に端を発する「些末なこだわり」より、戦場を俯瞰で眺め、勝つための合理性に重きを置いた切り替えの早さこそ、エルブ国を数々の戦勝へ導いた原動力でもあった。

 裏を返せば、生きる伝説「総師団長アスパー」が転戦を繰り返さなければならないほどの苦境であるとも言えるが。
人狼相手に剣を振るいつつ、
「ラミウム様が戦いに集中なされるよう! 我らは雑魚の一掃に励むのダァアァ!」
 自軍を鼓舞するアスパーであったが、強敵ばかりの戦地を転戦し、戦いながら指揮して来た彼自身も、その実、精神的にも、肉体的にも疲労の蓄積が隠せなく、

(クッ……歳は取りたくないモノだ)

 描いた動きに体がついていかない自分に、苛立ちを覚えていた。
 しかしこの余分な苛立ちこそ、集中力の欠落の現れであり、そこに油断を生んだ。
 戦場では「強き者」の所へ、「強き敵」が引き寄せられるように集まる。

『アスパー団長殿ォオォォッォォォォオォォッ!』

 誰かの悲痛な叫びが戦場に響き渡り、ハッと我に返るアスパー。
 気付けば山の如き大きな人影に覆われ、
「ッ!」
 ソコには、アスパーに向けて巨大な棍棒を大上段に高々振り被る、一つ目サイクロプスの巨大な立ち姿が。
 死を悟る総師団長アスパー。
 自身の油断が招いた結果であり、母国の勝利を目にすることなく命を落とすのを恥じ、

(わっ、我はここまでなのかァ!)

 見下ろすサイクロプスを悔し気に見上げた。
 目一杯のチカラを込め、容赦なく振り下ろされる棍棒の一撃。
「クッ!」
 歯ぎしりしながら死を受け入れた次の瞬間、

(!?)

 彼を横切る、黒き疾風。
 その刹那、

 ズドォオォォォォォォオオォ!

 ド派手な打撃音と共に、頑強な巨石を六つ合わせた様なサイクロプスの腹筋に深々めり込む黒き何か。その衝撃波は背中を突き抜け、たまらず白目をむいた巨体がくの字に折れ曲がり、前のめりに倒れ始めると、

『ドロプゥウゥ!』

 パストリスの叫び声が上がり、青空を背に大ジャンプしていた白銀の輝きを纏うドロプウォートは、

≪火、木、鉄の恩恵よ、我が手に宿れぇ!≫

 空中で日本刀を用いて弓術の様な構えをし、
『行きますわよパストォ!』
 重力落下を始めながらサイクロプスの巨大な背中に向け、

≪穿てぇえぇぇぇ!≫

 眩いばかりの白銀の光の矢を放った。

 大空を舞う神々しき彼女の姿は、まるで神話の世界の戦女神ブリュンヒルデ。
 腹に強烈な一撃を加えたのはパストリス。

 彼女は前のめりに倒れつつあるサイクロプスの懐から風の如き速さでアスパーにタックルすると、勢いそのまま巨漢の彼を、まるで一枚布でも運ぶかのように軽々と持ち運び、安全圏へ離脱。
地面に倒れる寸前であった「意識を失ったサイクロプス」は、巨大化した白銀の光の矢を背中に直撃され、激しい地響きを伴う土煙を上げて大地に縫い付けられ、巨大なクレーターを作り絶命した。

 正規の騎士と兵士が束になって掛かって、足止めをするのが精一杯であった相手を、たった二人の少女が討ち取った、信じ難き現実を前に、
「な、なぁんとぉ……」
 呆然と立ち尽くすアスパー。

 そんな彼を前にパストリスはニコリと笑いながら、

「戦場で油断してちゃダメでぇすよぉ、おじさぁん♪」
「お、おじぃ?」

 ギョッとするエルブ国総師団長。
 戦場で「近所のおじさん扱い」されるなど初めての経験であり、驚きのあまり目が点になっていると、地上に降り立ったドロプウォートが苦笑しながら、

「パストぉ、その物言いは如何なモノかと思いますわよぉ」
「え? あ、年上の人に失礼な、」
「ではなく、彼は「エルブ国の総師団長」さん、ですわよぉ~♪」
「ひぃへぇ?! っそっ、総師団長さんだったでぇすぅーーーっ!!!?」

 知らなかったが故に慌てに慌て、

「ごっ、ゴメンナサイでぇす! ゴメンナサイでぇす! ゴメンナサイでぇす!」

 強大なモンスターの意識を、根こそぎ刈り取った少女とは思えない平身低頭で何度も頭を下げ、その姿に、
(からかいが過ぎましたかしらぁ)
 クスクス笑うドロプウォートは、

「次に行きますわよぉ、パストぉ♪」
「えっ、あっ、はっ、ハイでぇす、ドロプぅ!」

 パストリスはアスパーに、申し訳なさげに重ね重ね頭を下げながら、彼女と共に次なる戦地に向かって行った。
「…………」
 ポツンと残される、総師団長アスパー。
 嵐のようにやって来て、台風の様に去って行った二人の少女に圧倒され、しばし棒立ちしていたが、
(あの時……)
 パストリスがサイクロプスと接触した瞬間を思い返し、彼女の頭に、尻に、耳が、尾が、生えた影を見た気がし、
(妖人ッ!)
 戦場で敵に向ける、鋭い眼光を放ったが、

「…………」
(頑ななまでに「全てにおいて潔癖」であったドロプウォート嬢が、平然と背中を預ける少女……)

 それは確かな「信頼の証」であり、芽生えた敵意をスグさま払う様に首を振り、一瞬とは言え「人」を見ず、「肩書き」で差別した自身に当て付ける様に、
「成長されましたなぁ、ドロプウォート嬢は」
 孫の成長を喜ぶ祖父母の様な表情で目を細めた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...