ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第二章

2-13

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 それから一週間ほど後の早朝――

 教会のダイニングで、困惑の笑みを浮かべてテーブルを囲む、パストリスとターナップ、そして迷惑そうな顔するドロプウォート。
 そんな三人を前で、

『ちょっとラディ、飯はまだなのかぁい?』

 不服声を上げたのは、ニプル。
 朝食作りに励むラディッシュを急かしたのであるが、厨房からは、
「ごっ、ごめんねぇ! もっ、もうスグできるからぁ♪」
 むしろ、楽し気な声が。

 最愛と気付いたラミウムを失った悲しみは易々と消えるモノでは無かったが、重ねた努力が報われ「ドロプウォートから一本取れた」のをきっかけに、徐々にかつての元気を取り戻しつつあったのだ。
 そこに、占い師の男が残した「希望の光」もあったのは、言うまでもない話ではあるが。

 ラディッシュの手料理が来るのを今や遅しと心待ちに、ニコやかなニプルと相反し、ムッとした顔するドロプウォート。
 
「何故に貴方が、ココにいますのぉ」

 当然の様に同席する彼女を露骨に煙たがり、
「それに、出会って、数日で、「ラディ」などと、気安くぅ……私ですら何日も……」
 ブツブツと、嫉妬を多分に交じえた文句を言い始めたが、ニプルはどこ吹く風で聞き流し、
「固ぇえ事を言ってんなぁよ「先祖返り」ぃ~共に死線を抜けた仲だろぅ?」

「私の名前は「ドロプウォート」ですわ!」

 憤慨すると、ターナップが「まぁまぁ」と二人を宥めながら、
「イイじゃないっスか、ドロプの姉さぁん♪」
 パストリスも同席を好意的に受け止め「うんうん」頷く中、
「聞けば名前も「ニプルウォート」で似てる上に、落ち込むラディの兄貴を「言葉攻め」にし合った仲じゃないっスかぁ♪」
 軽い気持ちで二人の共通点を上げ連ねたつもりが、
 
「たっ、タープさぁん! それは言っちゃダメでぇす!」

 慌てるパストリスに、
「あ、いけねぇ……」
 失言に気が付いたが、時すでに遅し。
『『…………』』
 暗い顔してうつむく女子二人。
 
 大切な人を失い、失意の底に居たラディッシュを奮い立たせようと、良かれと思って行った「言葉攻め」ではあったが、自分の行った振る舞いをよくよく考えてみれば、侮蔑や蔑みなど、悲しみに暮れる人を更なる奈落へ「突き落としたダケ」の行為に思え、今更ながらに猛省していたのであった。
 
 ターナップの発言は、正に傷口に塩。

 数日経っても自身の行為を「悪」と引きずる二人は、性根が「とても優しい」のである。
「「…………」」
 落ち込む女子二人を前に、苦笑うしかないパストリス。
 
 禁句を言ってしまったターナップも「どうしたものか」と頭を抱えていると、そこへタイミング良く、
 
『ナニナニ? 何の話ぃ?』

 救世主登場。
 笑顔のラディッシュが完成した料理を手に、
「朝食を食べながら話そうよ♪」
 厨房からやって来た。
 
(兄貴ィ最高ッスぅ!)

 ここぞとばかり、
「俺も運ぶの手伝うっスよ♪」
 体よく厨房に逃走。
 
 すると彼の目算通り、並べられたラディッシュの手料理を前に、
((♪♪♪))
ドロプウォートとニプルウォートはすっかり上機嫌。

 なんの変哲も無い、普通に見える目玉焼きを二人は同時に一口頬張り、
 
『『んふぅうぅぅぅううぅぅ♪』』

 満面の笑顔で両頬を押さえ、
「「ラディが作るとぉ(何故に・なんで)、こんなに美味しい(ですの・のさぁ)♪」」
 声を揃えて歓喜。
 
 どうしてニプルが同席するに至ったか。
 
 その話は、ラディッシュがドロプウォートから「初の一本を取った日」の、二、三日後にさかのぼる。

 教会の勝手口から外に漏れ漂う、甘く、香ばしい、端的に言うなら「美味そうなニオイ」に導かれ、勝手口の扉を開けたのはニプル。
 しかし厨房に目を留めるなり、
(なぁんか、ウマそうなニオイがすると思って来てみれば……)
「ヘタレ勇者かぁい……」
 露骨に、期待外れの顔。
 
 もし調理していたのがパストリスであったなら、態度は違ったか。
 
 とは言え、元より全てにおいて「他人から期待などされない」と思い込んでいるラディッシュは、向けられた残念顔を気にする風もなく、
「こんにちは、ニプルさぁん♪」
 軽やかな笑顔を返し、ニプルも、他人の顔色など気にしていた「キリがない人生」を送って来たが故に、放言を気にする風もなく、
 
「何を作ってんのさぁ?」

 作業の手元を訝し気に覗き込み、
「ん? 焼き菓子……かぁい?」
「うん。自分勝手に落ち込んでた間に、みんなに散々迷惑をかけちゃったから、その「お詫びを」と思って♪」
「ふぅ~ん、律儀な話さねぇ」
(勇者からのお詫びの品が「焼き菓子」って……)
 心の中で「気遣い女子かよ」と、ツッコミを入れるニプルであったが、そんな彼女の呆れに気付かず、
「冬を前に「食材の無駄遣いかな」とか思ったんだけど、」
 ラディッシュは照れ笑いしながら作業の手は止めず、
 
「世情が落ち着いて来たのと、村が豊作だったのと、あと「縁を持った商人さん」の頑張りのお陰で、村の備蓄にゆとりが出来た話を聞いてね、それなら「お礼を」と思って。僕に出来るのは、これ位だから♪」
 
 屈託ない笑顔に、
 
「まぁ、ヘタレなオマエさんにぁお似合いかもねぇ」
(と、言っても所詮は素人料理。城の「料理人が作った焼き菓子」に比べれば「勇者が作った焼き菓子」なんてぇねぇ)

 たいして期待もせず、話のネタ程度の軽い気持ちで、ニプルは焼き上がりの一つを勝手に摘み、
 
『あっ! ソレは窯の温度を見るのに焼いた「試し焼き」の!』

 制止も聞かずにパクリ。
 
「ッ!」

 そして彼女は、その日の日記にこう記す。

≪ウチの胃袋はぁ、白馬に乗った勇者さんにぃ、連れて行かれたのぉ♪≫

 日記の中身は、良く言えば「個性的なポエム調」であり、勝ち気な言動が目立つ彼女の「秘めた乙女」の集合体。

 しかし嗜好は、人それぞれ。

 他人に「迷惑が掛からない範囲」であるなら「何を好むか」は自由であり、それに口出しするのは野暮と言うモノである。
 
 彼女の「明かされる事の無い秘め事」は一先ず横に置くとして、この瞬間を境に、彼女もまたラディッシュの手料理の虜となり、食事の時間になると呼ばれてもいないのに参席するのが常となっていた。
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