ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第二章

2-35

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 高く強固な壁に囲まれながらも敷地内に広い庭を有するフルール城――

 冬の足音が近づく季節なれど、未だ多彩な花が咲き誇る庭園内を、ラディッシュ達はリブロンの先導で歩き、やがて木造二階建ての建物が何棟も並ぶ一角へとやって来た。
 彼女はそのうちの一棟の扉を開け、
「この建物群は有事の際、騎士たちが寝泊まりする兵舎です。有事に備え、必要な物は揃っていると思いますが、不足の品がありましたら申し出て下さい」
 いつの間に口調は、無感情で事務的な物に戻っていた。

 先の「ハクサンの申し出」を考えれば、当然の反応であろうか。

 建物は無骨な木造な上、有事の際にしか使わないとの説明であったが、ターナップの村の職人が作業小屋として使っていた建物のような「雨風をしのげれば感」は全く無く、「手入れが行き届いている感」があり、女性主体の国ならではの細やか気配りも感じられ、
(ここが僕たちの、少しの間だけど「家」になるんだぁ……)
 ラディッシュ達が感慨深げに室内を見回していると、

『ハイハ~~~イ! リブロンちゃん、早速不足しているものがありまぁ~す!』

 軽薄な声を上げたのはハクサン。
「なんでしょう」
 内心の嫌悪が滲み出た事務的口調であったが、彼は気にする風も無く、
「女子成分が不足していまぁ~す! なのでコレから町に、」

『申し訳ありませんが!』

 強い口調で二の句を遮り、
「陛下からは「賓客として丁重に」とは命じられておりますが、貴方方には、城内を勝手に歩く事、また「町へ出る事」を禁じさせていただきます」
 体の良い「軟禁」である。「賓客として」と言われれば聞こえは良いが。

「「「「「!?」」」」」

 ラディッシュ達に加え、巻き込まれた感のあるニプルも驚きを隠せず、ハクサンが不服顔をする中、リブロンは動じた様子も見せずに彼を睨みながら、
「小動物の群れの中に「悪食の肉食獣」を放つ訳にはいかないでしょうから」
「「「「「あぁ~」」」」」
 大きく頷くラディッシュ達と、この国でも「前科がある」だけに笑って誤魔化すハクサン。

 すると「十把一絡げ感」を否めないドロプウォートが不服気に、
「ならば(軟禁は)「彼だけ」で良いのでは?」
 もっともな問いに、リブロンは小さくため息を吐き、
「貴方方が出掛けてしまったら、誰が「コレ(ハクサン)」を見張るのです」
「これ……」
 苦笑するハクサン。
 そんな彼を尻目に、
「この国は「女性主体」の風土が故に「男性の数」が圧倒的に少なく、その……男性免疫の少ない女性が過度に多いので……その……」
 チラッとラディッシュを見た。
 
 ハクサンには使わなかった気遣いを見せるリブロン。
 目で、ラディッシュにも問題があるのを訴え、
「「「「「あぁ~」」」」」
 ハクサンを含め、大きく頷くドロプウォート達。
 ラディッシュの容姿と、噂に名高きイケメンスキルにより、虜にされてしまう女性多発を「懸念して」と理解し。
 一方、
「?」
 何故にチラッと見られたのか、どうしてみんなが頷いたのか、分からない無自覚ラディッシュであった。

 やがて「伝えるべき事」を全て伝え終えたリブロンは、
「では、また明日に。ニプル、後の事はお願いします」
 早々に立ち去ろうとすると、

『あっ、あの!』

 ラディッシュが声を上げ、
「何か?」
 事務的口調で振り返った彼女に、
「いっ、今から「フルールの天法」を教えてもらえないでしょうか!」
「!」
「「「「「!」」」」」
 唐突な申し出に戸惑うリブロンと、彼の「やる気」に驚くドロプウォート達。

 弱腰に見えた彼の、意志を感じる強い眼差しに、
(何か「急く理由」があるのですね……)
 リブロンが心中を察する一方で、彼がやる気を出せば出すほど、

(また「ラミィ」ですの……)

 胸に小さな棘が刺さって行くドロプウォート。
 しかし彼女の秘めた想いなど知る由も無いリブロンは、
「この国フルールは「研鑽を積むが美徳」とされる国……」
 短く一考すると、
「良いでしょう」
「ありがとう♪」
 笑顔のラディッシュに向き直り、
「ただし、やはり本格的な稽古は明日からとし、今は「貴方様の実力」を見せていただけますでしょうか?」
「ぼ、僕の……」
「はい。それにより、明日からの稽古内容を検討させていただきます」
(僕の、今の実力……)
 ラディッシュは、かつてないほど真剣な表情で腹を括った様子を見せ、その姿に、
(勇者様は本気の様ですね……)
 息を呑むリブロン。
(異世界勇者でありながら、ラミウム様のチカラを受け継いだ、新たな「百人の天世人候補」……その実力はいったいどれ程の……)
 そんな中、
 
(((((あ……)))))

 とある「重大事実」を思い出すドロプウォート達。
 とは言え緊迫した状況下、既に、その事実を今さら彼女に告げられる空気ではなく、
(((((…………)))))
 五人は庭へ出る二人の後に黙って続き、事の成り行きを見守った。

 庭の真ん中で、緊張した面持ちで佇むラディッシュ。
 両手を胸の前に突き出し重ね、
「じゃ、じゃぁやってみるね」
 意識を集中。
「…………」
 やがて周囲の植物たちなどから、キラキラとした白銀の光が流れ出し、ラディッシュの重ねた両手に集まり始め、
「…………」
(まずは天法の基礎中の基礎、初歩ですね……)
 リブロンが「次は何か」と見つめていると、

『ふぅ~上手くいったぁ♪』

 ラディッシュの「今の実力」の披露終了。

「・・・・・・え?」

 フリーズするリブロン。
 百人の天世人になろうかと言う人物が、天法開発が盛んなフルール以外の国の、幼子でも出来る「天法の初歩中の初歩」でよもや終了とは思いもよらず、
「な……」
 やっと開いた重い口で、見守るドロプウォート達に、
「何かの冗談……ですよねぇ?」
 機械仕掛けの人形のように振り向き問うと、

(((((…………)))))

 彼女たちはバツが悪そうに、一斉に視線を逸らした。

 その一方で(本人的には)やり切ったラディッシュは満面の笑顔で、
「リブロンさぁん、どうだったかなぁ♪」

『どぅもこぅもありませぇんわぁあぁぁぁあああぁ!!!』

 発狂リブロン。
「貴方は「異世界勇者」なのでしょ!」
 驚愕の表情で詰め寄り、
「ラミウム様から「チカラを継承された」のでしょ!!」
「あ、はい」
「何故にぃ! 何故に「中世の幼子」ですら息を吸う様に出来る事しか出来ませんのぉおぉぉ!!!」
 感情をあまり表に出さない印象であった彼女の咆哮に、
「あははは……」
 苦笑しながら頭を掻くラディッシュと、
(((((…………)))))
 恥ずかしながら、返す言葉も無いドロプウォート達。

 しかしその「あまりの無力さ加減」が、

『ならば、イイでしょう!』

 リブロンの中の「何か」に火を点け、
「私が明日から「みっちり」しごき倒してぇ差し上げますゥ!」
 あまりの気迫に、自ら特訓を志願しておきながら、
「え……」
 少々引き気味のラディッシュ。

 そして「彼の天法教育」に苦悩した経験を持つドロプウォートは、彼女の気迫に触発され、
(私の教育方針は「甘かった」のかも知れませんわ!)
 思い改め、恭しく彼を差し出すように、
「煮るなり焼くなり、よろしくお願い致しますわ」
「任せて下さァい! 「特級の天法使い」に仕上げて見せますゥ!」
 ともすれば他者に冷徹と思えるリブロンの両目は、炎のような決意で真っ赤に燃え上がり、ラディッシュは今さらながら、
(言わない方が良かったかな……)
 後悔するのであった。
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