ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第二章

2-39

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 しかしオトコエシは慄く彼女を前に、
 
「いやぁ~済まぬ済まぬ、済まぬでゴザルよぉ」

 何事も無かったかのように作業を再開し、
「驚かせるつもりは無かったで、ゴザルよ♪」
(え?)
 違う意味で驚きを隠せぬ彼女を尻目に、
「さぁさ作業を再開するでゴザルよ。締め切りに間に合わなくなってしまうでゴザル♪」
 にわかには信じられない反応。

「…………」

 立ち尽くすパストリス。

 当たり前の様に作業を再開したオトコエシ(フルール)を、疑念に満ちた眼差しで見つめ、

「ぼ、ボクがぁ、こ、怖くはないでぇす……?」

 すると彼女は気にする素振りも見せず、
「何がでぇゴザルぅ~?」
 作業を続け、
「ぼ、ボクは……妖人でありながら「妖人ではない容姿」を持った、異質な……」
 自虐的で、卑屈とも思える物言いをするパストリスであったが、そんな彼女にオトコエシは一瞥くれる事も無く、作業の手も止める事さえ無く、あっけらかんと、
「パストリス殿の中に、ラミウム様の「強い天法の輝き」を感じる……それが答えの全てでゴザルぅよ♪」
「ラミィさんが……ラミウム様がチカラを分け与えたなら「信用出来る」……とぉ?」
「そこまで分かっていて「相手に答えさせる」と言うのは、些か「野暮」と言う物でゴザルよ♪ 妖人であろうが無かろうが、この世界に人間は二種類しかいないでゴザルゆえ♪」
「二種類?」
(男の人と女の人?)
 抱いた素朴な疑問から首を傾げると、オトコエシ先生はニッと笑って、

「悪党か、そうでないか、でゴザルよ♪」
(!)

 未だ心のザワつきは収まらなかったが、その言葉の音色からは「嘘」、「偽り」の類いの感情は感じられず、
「…………」
 パストリスが静かに席に戻ると、
「ただ、興味はゴザルなぁ~」
「え?」
(興味?)
「(妖人の)パストリス殿が如何にして、ラミウム様から直々に「特別な加護」を受け、エルブの四大(ドロプウォート)と、異世界勇者(ラディッシュ)と、旅をするに至ったかは、でゴザルよぉ♪」
 作業の手は止めず、上目遣いでチラリとパストリスを見て、ニコリと小さく笑った。

 そのある意味で裏表のない笑顔に、
 
(この人は、ラミィさんと一緒で信じられるヒトでぇすぅ……)

 そう直感してしまったパストリスに、もはや警戒心は無かった。

 彼女はオトコエシに、盗賊村の生い立ちからラミウム達と出会って現在に至るまで、自分が体験した全てを、包み隠さず語って聞かせた。
 全ての話し終えた頃には、

『タイヘンでゴザったなぁ~パスト殿ぉおぉ!』

 オトコエシは涙ながらに、それでも右手は作業を続け、左手は原稿を涙で濡らさぬように手拭いを使って涙を拭い、
「その小さなム……」
 ■眼鏡の奥で「パストリスの何か」を見て一瞬黙り、口にしかけた言葉を一旦呑み込んでから、
「その「小さな肩」にぃどれ程の苦労を背負って来たでゴザろぅかぁ~」
 感涙した。
 明らかな言い直しと共に。

(ボクの(ささやかな)胸を見て言葉を呑んだでぇす……)

 例え「涙の彼女の右手」が「男性同士の絡まるシーン」を描き続けていようとも、彼女の「想い」や「言葉」に嘘偽りは無く、彼女の「人となり」と言うモノを僅かながらでも知ったが故にパストリスは「無用の気遣い」に些か腑に落ちない面も残しつつ、
 
「確かにタイヘンな時もあったでぇすけどぉ、みんなのお陰でぇ、何とか乗り越えられて来たでぇすぅ♪」

 少し照れ臭そうな笑顔で語る彼女の右手は、リアルに描かれた男性の局部を■で、ほど良く塗り潰していた。
 
 同じ釜の飯を食い、互いの秘密を共有し合った二人。
 そんな二人が「神(作家)」と「信者(愛読者)」の関係から『同志』に昇華するまで、さほど時間は要しなかった。

 即売会開催日に向け、阿吽の呼吸で作業を進める女子二人。

『このコマの「剥き方」はアマイでゴジャルよ、フル(フルール)殿ぉ! もっと一瞬でぇ「裸(ら)」になる位の衝撃が必要でぇゴジャルぅ!』
『何を言うでゴザルぅ、パス殿ぉ! 脱がされそうで脱がされない「半裸」こそ、正義でゴザルぅ!』

 傍から見ればどちらでもイイ意見を、作業の手は止めず、時に激しく、時に熱く、ぶつけ合う緑ジャージと赤ジャージ。

 それは▼眼鏡をしたパストリスと、▼眼鏡をしたオミナエシ先生バージョンのフルール。
 作業部屋に降臨する「二柱」。
 そんな、ある種の「特殊な濃密時間」を過ごす二人の下に、突如として事件が起こった。

 それが、ラディッシュの覚醒である。

 二柱は「熱の籠もった見解」を激しくぶつけ合うさ中、強大な「天世のチカラ」を感じ、
「こ、これはッ!」
 豊かな胸を揺らしながら▼眼鏡を外して自席から立ち上がるオミナエシ先生と、ささやかな胸の奥から湧き上がる「懐かしき天世のチカラ」に小、ではなく、控えめな胸を抑え、
「熱い……」
 呟くアシスタント。

 フルールは現状から、ラミウムのチカラを受け継いだラディッシュの身に何かが起きたと即断し、

『修練場へ急ぎんす、パストォ!』
『ハイでぇすぅ!』

 二人は作業部屋から駆け出した。
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