ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第二章

2-42

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 波乱からの一夜が明け――

 フルール城「謁見の間」にて、妖艶な笑みを浮かべ、横長玉座にしな垂れ掛かる女王フルールの傍らには、凛然とした表情のリブロン。
 その前には、恭しく跪くラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ターナップ、ニプル、そして一応身分を隠している身であるが為に、体裁的に、形式的に跪く天世人ハクサンの姿が。
 六人を前にリブロンは、まるで何事も無かったかのような、いつも通りの事務的口調で、

『昨日は些か取り乱し、大変失礼を致しました』

 眉一つ動かさず、頭すら下げず。
 初めて会った時を思わせる不愛想ともとれる姿に、ラディッシュ達(+フルール)は昨日目の当たりにした「彼女の乙女な姿」とのギャップから、

(((((((いささか???)))))))

 思わず心の中でツッコんだ。
 この場が「謁見の間」と言う公式な場であるが故に、口には出さず。
 とは言え以前とは違う、小さくも、確かな変化も。

 彼女は目の端にラディッシュをチラリと入れるなり、小さくポッと顔を赤らめ、心境の変化を窺わせた。
 しかし本人的には「見事に隠せている」つもりらしく、口調だけは毅然とした物言いで、
「今日お集りいただいたのは、「先日の件(ラディッシュの発現)」について、今後どの様に対応するかを話し合う為です」
(((((((…………)))))))
 ツッコミたい気持ちを、グッと堪えるニプル達(+フルール)。
 彼女が毅然と振る舞えば振る舞うほど、見ている側には「芽生えた恋心」を懸命に隠そうとしている様にしか見えなかったから。
 愛らしくさえ思える「真面目過ぎる彼女」を「恋バナでイジル」のは、少々可哀そうに思えたのもあり。

 そんな中、
『ハイハぁ~イ、学級委員長ぉ!』
((((((!))))))
 ニプル達(+フルール)の気遣いを台無しにする声を、ハクサンが右手と共に上げた。
 
 それは学園モノに登場する「恋愛下手な委員長キャラ」と、恋心をひた隠す「生真面目彼女」をダブらせての「からかい」であったのだが、堅物であり、恋愛初心者でもある彼女には幸いにしてその意味が伝わらず、

「誰が「学級委員長」ですか!」

 額面通りの受け取りツッコミに、
((((((…………))))))
 内心で「ほっ」と胸を撫で下ろすニプル達(+フルール)。
 まかり気付いてしまった時の彼女の狼狽ぶりを想像し。

 その一方で、ちょっと残念そうな顔する「イジワルハクサン」。イケメン風に前髪をたなびかせると、

「この国には、新しく開発された「偽装の天法」があるよねぇ♪ それを使えば、ラディの天法を誤魔化せるようになるんじゃないかぁい?」
((ッ!))

 表情にこそ出さなかったが、驚きを隠せない空気を滲ませる女王フルールとリブロン。
 顔に出してしまっては「それが事実と認めた」のと同意であったから。
 逆に言えば、それ程の「国防に関する切り札」であり、「国家機密」であるのを物語ってもいた。

「「「「「偽装の天法?」」」」」

 聞き慣れない「天技(てんぎ)」に、目を丸くするドロプウォート達。

 女王に近い近衛のニプルでさえ知らなかったのか戸惑いを見せる中、ハクサンは「いやらし気」にニタニタと笑いながら、

「い~けないんだ、いけないんだぁ♪ 新しく開発した天法、天技は「逐一天世に報告しないと」いぃ~けないんだ♪」

 小馬鹿にしたように歌いながら、
「その代わりに四国(フルール、エルブ、アルブル、カルニヴァ)は、数々の特権を得ているんだからぁね♪」
 目の奥に、微かな闇を宿し、
「これが天世に知れたらぁ、フルール国はどぅなっちゃうのかなぁ?」

『臣民を人質に陛下を脅すおつもりかァ!』

 リブロンが血相を変えると、
「そぉ~んなつもりはないよぉ~♪」
 薄く笑い、
「ぼくぁフルール国の、今までの天世に対する献身には「敬意を表す」し、これからも「友好的にありたい」と思っているよぅ?」
「クッ!」
(「今までの」だと!)
 苦々しく、眉間にシワを寄せるリブロン。

 彼の言い分を有り体に言えば「今後は分からない」との意の裏返しであり、上位の立場を利用した、含みを持たせた脅しにしか聞こえなかったから。

 百人の天世人ハクサンとフルール国の対峙。

 対応を一つ間違えれば母国への影響も起こりかねない状況下、ドロプウォート達は容易く口を挟めず、事の成り行きを固唾を呑んで見守ることしか出来ず、
「「「「「…………」」」」」
 ハクサンに対する不信感ばかりが増す中、彼は、

「あぁ~誤解はして欲しくないんだけど、」

 イケメン風スマイルで前髪をたなびかせ、
「ぼくぁ別に「天世に開示しろ」とか、言うつもりは無いからねぇ♪」
「「?!」」
 驚いた表情を見せるフルールとリブロンに、
「知っているのは「ぼくぅダケ」だしぃ、国を護る為に「切り札を隠し持つ」って言うのは、当たり前の事だからねぇ~」
(元老院のジジィどもの為に告げ口する気なんて、サラサラ無いしね♪)
 もったいぶった物言いに、痺れを切らしたリブロンが眉間に深い溝を刻み、

「では結局、貴方は何が言いたいのです!」

 するとハクサンはフッと小さく笑い、

「ラディ達にダケでイイから、それを無償で教えてあげて欲しいのさぁ♪」
『エルブの四大(ドロプウォート)にソレ(最重要国家機密)を教えろと言うのかァ!』

 火の出そうな勢いで激昂したが、
「ふぅ~ん、確かにその懸念は「もっとも」だよねぇ……」
 彼は動じる様子もなく一考し、
 
「ドロプちゃんは、どぅ思う?」

 視線を送られたドロプウォートは凛としつつも癪に障った色を滲ませ、
「その呼称は止めて下さいですわ」
 ひと釘刺してから、地世の導師の策略により傷付いた母国を思い、
「確かに……リブロンが焦りを覚えるほど有用な物でしたら、我が国としても「是非に欲しい天技」ではありますわ……」
 前置きした上で、

「ですが!」

 苦渋の決断を迫られ「苦悩を浮かべるリブロン」を真っ直ぐ見据え、
 
「エルブ国の何人にも「教えぬ」と、私の「騎士としての矜持」に賭けて誓いますわ!」

 言い切った表情に、一切の濁りも無かった。
 彼女の答えに、笑みを浮かべるラディッシュ、パストリス、ターナップ、そしてニプル。
 信じていた通りの答えであったから。
 リブロンも、未だ短い付き合いとは言え「彼女の人となり」を、それなり理解していたが故に、笑みを見せかけたが、
(!)
 自身の「フルール国最高参謀」としての立場を思い、気の緩みをコホンと咳払いをして誤魔化して後、

「ならば問いますが、貴方は「何ゆえ」そう思うのです?」

 毅然とした視線を向けると、ドロプウォートは静かに頷き、
「国防が「如何に大事であるか」は、身を以て知っているつもりですわ」
 先の「地世の導師」との激戦を思い出しながら、
「そのうえで、」
 ハクサンを強烈に批判するジト目で見据えながら、

「国家間の「協議の上で」ならまだしも、この様な「恐喝まがいの搾取は」私の騎士としての矜持に反しますのですわァ!」

 刺すような眼差しに、
「あは、あははは」
 バツの悪さを笑って誤魔化すハクサンと、国家機密を明かさねばならぬ相手が彼女であった事に、リブロンは内心で小さく、ほっと胸を撫で下ろした。
 当然の如く女帝フルールから許可が下り、この日からラディッシュ達に対する「偽装の天法」の教育が開始され、そしてハクサンは、この日を境に姿を消した。
 誰にも理由を告げずに。
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