ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
167 / 895
第二章

2-50

しおりを挟む
 驚く彼女の視線先、迫るミノタウロス達に向かって対峙する、ラディッシュの背が。
 一見すると「正気の沙汰とは思えない勇ましさ」を見せる彼ではあったが、この時、彼の頭の中には何者かの「声?」「言葉?」「思い?」が響き、意識はそちらに囚われていた。
 それは以前に聞こえた自身の声より仄暗く、感じる闇は更に深く、

{世の全ては理不尽……ならば立ち塞がる理不尽の全て、思うままに斬り伏せろ……}

 悪魔の様な囁きに、
 
『違う!』

 ラディッシュは強く拒絶を示し、
「僕は「守る為」に戦うんだ!」
 絡みつく怨念を浄化させるような思いで叫んだが、

{それを見ても同じ事が言えるのか?}

 ハッと我に返った彼は、
「ッ!!!」
 絶句した。

 目の前には、いつの間に斬り倒したのか、ミノタウロス達の亡骸の山が。
 血の池に佇み、
(こ、これを……全部……僕が……)
 折れた剣を握る血染めの両手を見つめ、愕然とするラディッシュ。
 意識がある中で行われた諸行であれば、また違った反応であったのかも知れないが。
 そんな中、多量の赤に染まった地面に転がる、開いてしまったペンダントに目が留まる。
 仲睦まじい男女の姿が。
 そして思い出される、
(そうだ……この牛人(うしびと)達は……)
 エルブ国の惨事に、

(中世の人達じゃないかぁあぁ!)

 自らの所業に恐れ、震撼した。
 無意識下で、何人もの中世人を手に掛けた現実に。
 わななく彼の下へ、

『今近づくのは危険だ!』

 誰かが叫ぶ制止声と、その声を振り切るように駆け近づく足音が。
 目に映ったのは、

(!)

 ペンダントの中の女性。
 悲しみの涙を流し駆け迫る姿から、彼が斬り伏せたミノタウロスのうちの一体が、寄り添う男性の変わり果てた姿と容易に想像でき、
「…………」
 掛ける言葉が見出せない。
 何を言っても「言い訳にしか聞こえない」と思えたから。

 面罵される覚悟を以て、
「あ、あぉ、僕……」
 声を絞り出した途端、彼女は悲しみに歪めた唇をギュッと噛み締め、

『ありがとうございましたぁ! あの人を救ってくれて!』

 それは痛哭を必死に堪えた上での謝意。
(え……)
 思考が停止するラディッシュ。
 よもや感謝されるなど思ってもおらず、戸惑いを隠せずにいる中、
「斬っていただいていなかったら、我を失った彼は町の人達を何人その手に掛けていたか知れませぇん!」
「ち、違……」
(僕は感謝されるような思いで剣を振ってなんか、)
 いなかったと思いかけた矢先、
「ありがとうございました!」
「助かりました!」
「九死に一生を得ました!」
「ママをたすけてくれてありがとう!」
 鳴り止まぬ感謝の声が続々と。

 町の人々は彼を恐れて近づかなかった訳では無かった。
 汚染獣の脅威が日常である「この世界」において、恐怖していたのは「ミノタウロス達が活動を停止したかどうか」であり、活動停止が確認された今、逃げ惑っていた人々は四方八方から集まり、ラディッシュに感謝を捧げた。

 しかし、感謝をされればされるほど、
(違う、違う違う違うんだぁ!)
 正体不明の「心の闇」に囚われ剣を振るっていたダケの彼は、

(違うんだぁあっぁぁぁあぁぁあ!)

 自責の念に駆られ苦悶するのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に失敗したと捨てられましたが、魔王の家政婦になりました。

藤 ゆみ子
ファンタジー
家政婦として働いていた百合はある日、会社の倒産により仕事を失った。 気が沈んだまま家に帰り、おばあちゃんの仏壇に手を合わせていると突然知らない場所にいた。 訳がわからないまま、目の前にいる神官に勇者の召喚に失敗したと魔王の棲む森へと捨てられてしまう。 そして魔物に襲われかけたとき、小汚い男性に助けられた。けれどその男性が魔王だった。 魔王は百合を敵だと認識し、拘束して魔王城へと連れていく。 連れて行かれた魔王城はボロボロで出されたご飯も不味く魔王の生活はひどいありさまだった。 それから百合は美味しいご飯を作り、城を綺麗にし、魔王と生活を共にすることに。 一方、神官たちは本物の勇者を召喚できずに焦っていた。それもそう、百合が勇者だったのだから。 本人も気づかないうちに勇者としての力を使い、魔王を、世界を、変えていく。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

処理中です...