ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第二章

2-56

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 数日後――

 第二の故郷のように過ごした「フルール城」を後にするラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ターナップ、ハクサン、そこに加えてニプルの姿が。
 彼女は背にした城を感慨深げに見上げ、そのテラスにフルールとリブロンの姿を見つけた。

「…………」
「「…………」」

 互いに手を振り合う訳でもなく見つめ合いながら、
(嫌な事ばかりだったけどさ、いざ離れるとなると……それに……)
 ニプルは先日謁見の間で行われた、主要な騎士たちを集めての会議を思い返していた。

 女帝フルールが座する玉座の傍らに立つリブロン。
 いつもと変わらぬ凛とした表情で、跪く屈強な騎士たちを前に、

『ニプルウォート! 立ちなさい!』

 毅然と命じ、彼女がスッと立ち上がると、
((((((((((またか……))))))))))
 伏せた目に、嫉妬を滲ませる騎士たち。
 今回も「何かしらの特別扱いを受けるのか」と、心の中で揶揄する彼女たちであったが、次にリブロンが発した言葉が、彼女たちの眼を驚愕に変えた。

『本日を以てニプルウォートを近衛の任から外し! フルール騎士からも除籍します!』
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 水を打ったように静まり返る謁見の間。
 ニプルはその静けさの中、取り乱す様子も見せず平静に、
「謹んでお受け致します。今にちまで、誠にありがとうございました」
 たおやかに見つめる女帝に深々頭を下げながら、

(まぁ、ここの連中の(ウチに対する)反応はこんなモンさ、嫌われ者のウチが居ようが居まいが、むしろ清々して、)

 いるだろうと思った矢先、「平常心こそ美徳」とされるフルール騎士団において、

『除籍とは何故ですかァ!』

 一人の騎士が声を荒げ、ニプルが「え?」っと思ったのも束の間、
「任を解くまでは分かりますがァ!」
「何故に「移籍」ではなく「除籍」処分ですかァ!」
「納得のいく説明は頂けるのですかァ!」
 留まる事を知らず次々上がったのは、騎士たちの不平不満であった。
 女王の命とあらば、親に遭ったら親を斬り、姉妹に遭ったら姉妹を斬る、鉄の血束(けっそく)とでも言うべき結束と、鋼の主従関係で固められた組織の中、主(あるじ)に表立って異を唱えるなどかつて無く、ニプルが唖然とする一方で、彼女を擁護する騎士たちの姿を心の中で喜ぶリブロン。
 しかし表面上は、冷徹な程の毅然を貫き、

『静まりなさァァァいッ!』

 喚き立てる騎士たちを大喝。
 細身ながらも、倍の体躯を持つ彼女たちを鋭い眼光で静まらせ、

「これは「百人の天世人」様である、序列一位の「ハクサン様」の御意向を汲んでの事なのです!」

 先日の報復か、暗に「責任の全て」を彼に擦り付けると、騎士たちは、あろう事か同席していた「百人の天世人序列一位のハクサン」を物の様に指差し、

『何故に「あんな軽薄男」の為に、ニプルウォートが除籍処分を受けなければならないのです!』

 女尊男卑が残るお国柄とは言え、

『『『『『『『『『『そうだ! そうだ!』』』』』』』』』』

 大合唱に、
「あ、あのぉ、ぼくぁ一応「百人の天世人」なんですけどぉ……」
 軽く凹むハクサンと、「自業自得」と苦笑するラディッシュ達。
 すると毅然を貫くリブロンも「確かにそうなのですが」と前置きした上で、

『彼女は今日、この日より、勇者様と行動を共にする事になったのです!』

 高らかな宣言に、
『『『『『『『『『『おぉ~~~~~~!』』』』』』』』』』
 大きくどよめく騎士たち。

複数体のミノタウロスを一人で斬り伏せた武勇伝は、既に彼女たちの耳にも当然届いていて、勇者としての片鱗を示して見せたラディッシュに好情の声が湧き上がる中、褒められた事が皆無に等しい彼は、照れ臭く、赤面してうつむいていたが、その一方で、
「納得いかないんだけどぉ! ぼくぁ「天世人」だよ!? しかも「百人の天世人の序列一位」なんだぉおぉ!!!?」
 半泣きで憤慨するハクサンを、苦笑しながら宥めるターナップとパストリス。
 混沌と化す謁見の間。

 そんな中、玉座のフルールがやおら身を起こし、騒めく騎士たちを妖艶な笑みで以て見回しながら、
「妾のニプルは「フルールの騎士」から「中世の騎士」になったのじゃ。その誉、祝ぉうてやっても良いのではないかぇ?」
((((((((((!))))))))))
 騎士たちはハッと気付かされ、誰からともなく拍手が起こると、それはやがて全体に。
「…………」
 あからさまな嫉妬も、悪言も、全ては「彼女の実力を認めていたからこそ」と、初めて知るニプル。
 鳴り止まぬ拍手に、
(今さら持ち上げたって遅ぇんだよぉ、堅物どもぉ)
 感極まり、目元に薄っすら涙を浮かべた。


 テラスから、変わらぬ妖艶な笑みで娘(ニプル)の門出を見送る女王フルール。
 傍らで一言も発せず、顔色一つ変えずに見送るリブロンに、

「何も言わずに良かったのかぇ?」

 すると彼女は、無言で見上げるニプルを毅然と見つめたまま、
「良いのです。馴れ合いは、私たちらしくありませんので」
 孤児院時代から続く、ライバル関係を基にした「幾度となく繰り返した衝突」を思い返しながら、
「今回は、先を行かれてしまいました。私も精進しないと、」
「そぅでありんせ」
「?」
「勇者殿に「気が無いと言ったのは嘘でした」と、言わぬで良いのかぇ?」
 思いがけぬ指摘に、リブロンはボッと顔を瞬時に赤らめ、

「ひゃぁえ! そのぉ! わたぁ!」

 あからさまな狼狽えを見せたが、スグさま動揺から立ち直ろうと一呼吸、気持ちを整え、達観した表情で、

「今は、良いのです」

 ラディッシュからの贈り物であるネックレスの黒猫に、そっと手を触れた。
(「今は」かぇ)
 諦めではない事を悟り、小さく妖艶に微笑むと、
「そ、それより、陛下は、よろしかったのですか?」
「何が、かぇ?」
「その……四大殿に問われた、その……」
「「プエラリア」と「パトリニア」の名に、聞き覚えがないかと言う話かえ?」
 分かっていながらとぼけ、妖艶な笑みの中にからかいを滲ませたが、リブロンは困惑するでもなく、

「フルール国の古き資料に残る「かつての英雄の名」……封印されし名……」

 人目をはばかる様に呟やいた。
 すると何か思う所があるフルールは、変わらぬ笑みのまま、
「のぉ、リブロンや」
「……はい」
「世界は、妾たちの知らぬ所で動き始めているのやも知れぬぞぇ」
「…………」
 予言めいた彼女の言葉に、思わず息を呑むリブロン。
 一方、その様な会話がテラスで交わされていたなど知る由も無いニプル。

『そろそろ行こうか♪』

 ラディッシュの優しい声に、
「そうさな」
 微笑み頷き、そしてドロプウォート達も。
 春の暖かな日差しの下、足元には芽吹き始めたばかりの彩鮮やかな草花たち。
 歩き出した彼ら、彼女たちの旅は次なる地、カルニヴァ国へと移る。

 不安は数々あれど、意気揚々歩く。

 そしてラディッシュは気付く、
(あれ? そもそもカルニヴァの国境って、どうやって越えるの?)

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