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第三章

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 藪を突っ切りラディッシュ達が目にした物は――

 赤黒い目をした「熊の様な汚染獣」数頭に囲まれた、中年男性と幼女が一組。
 今にも襲われそうな、親子と思われる二人を目の当たりに、

『んのぉヤロォーーーッ!』

 真っ先に血相を変えたのはターナップ。
 かつての自身の姿とダブらせてか、ターゲットを変え襲い来る汚染獣たちに、先陣切って殴り掛かろうとしたが、ドロプウォ―トがすかさず、
「タープは御二人を守ってぇ!」
「な!?」
 足を止めた彼を追い抜きざま、

「怪我をしていたら治療ですわァ!」

 治療系の天法を、最も効果的に使えるのはターナップであるが故の判断であったが、頭に血が上った彼を「戦闘に参加させたくない」との目論見もありつつ。
 戦えない歯がゆさを抱きながらも、

「わっ、分かったっスぅ!」

 二人の下へ向かうターナップ。
 そんな彼を横目に、汚染獣たちに向かうパストリス、ニプル、そしてプルプレアが後に続く。
すると先陣を切っていたドロプウォートが、後続の二人(パストリスとニプル)に、

(「短縮の天法」をカルニヴァ(※プルプレアも含み)で披露する訳には、まだいきませんわ!)

 アイコンタクト。
 受けた二人も、
(ハイなのでぇすぅ!)
(分ぁてるさ! 剣技と武技のみで倒すさぁ!)
 走りながら目と目で語り合っていると、その様な会話が交わされていたなど露と気付かぬプルプレアも含めた四人の真横を、

((((!?))))

 黒い影が一瞬にして駆け抜けた刹那、

((((!))))

 足を止めるドロプウォート達。
 汚染獣たちの亡骸と、見覚えのある背に。

 それは見紛う筈の無い、ラディッシュの背。

 しかし、瞬殺、全滅させた亡骸を前にしながら、その異様とも思える「落ち着き過ぎた立ち姿」に、

「「「…………」」」

 声を掛けるのを思わず躊躇う、ドロプウォート、パストリス、ニプル。
 相手が汚染獣であったとは言え、今まで彼から感じた事の無い雰囲気、冷徹と言っても良い全身から滲み出る気配に、治療に当たるターナップも息を呑む中、

『自分を出し抜くなんてぇ流石じゃないかぁ、ラディ♪』

 懸念と惑いを全く感じさせない「賛辞の声」を上げたのは、プルプレア。
 彼との付き合いが短く、彼の人となりを理解していない「当然と言える反応」であったが、ラディッシュはその声に、
「そっ、そぅかなぁ?!」
 振り返った「照れ笑顔」は、いつもと変りなく、
「不器用な僕に、みんなが呆れず修行を付けてくれたお陰だよぉ~♪」
 控えめな物言いも、いつもと変わらず、ドロプウォートは自身に言い聞かせるように、

(か……考え過ぎですわね……)

 思い直し、パストリスとニプルも安堵した目を合わせ、ターナップも安堵の息を小さく吐いて治療を続けたそんな時、

『グォガァアァァ!!!』

 何の前触れもなく、藪の中から生き残りの一頭が。
 仲間を倒された復讐か、はたまた単なる狩猟本能か、狙いすましたように治療モード中のターナップと、非戦闘員の「か弱い親の子」の三人に襲い掛かり、

「しっ、しまった!」

 完全に虚を衝かれたターナップ。
 例え「短縮の天法」を用いても、今さら防御すら間に合わない。
 容赦なく振り下ろす丸太の様な腕に、

(やっ、やられる!)

 自身の未熟さを呪った刹那、

(ッ!)

 背中に走る、良く知る悪寒。
 それと同時、
 
 ドガァ!
 
 何かを受け止める、もしくは殴る様な音がし、
(!?)
 顔を上げると、

「タープさぁん大丈夫でぇすぅ!」

 そこにはパストリスの気遣う笑顔が。
 それなりの距離があった筈が、間を一瞬にして詰め、華奢に見える細腕で、汚染獣の振り下ろしの一撃を受け止めていたのである。
 様々な感情が入り混じった驚きの中、彼女の問い掛けに、
「あ、あぁ……」
 複雑思いの答えを漏らすと、パストリスは汚染獣の一撃を受け止めている最中とは思えない、屈託ない笑顔で、
「それは良かったでぇすぅ♪」
 いつも通りの笑顔をニコリと見せ、
「それならぁあとは「やっつけるダケ」なのでぇす!」
 二撃目の動きを見せる汚染獣に顔を向け直し、気合の入った表情で鼻から息を吸い込み、そして口から吐くと同時に半歩踏み込み、

『エイヤァアァアァァアァ!』

 腰の回転力をも上乗せし、汚染獣の水月(※一般的に言うみぞおち)に鋭い中段突きを撃ち放つと、衝撃波は背中から突き抜け、
「ガルぅ……」
 彼女の細腕を中心に体をくの字に折り曲げ、既に絶命しているかに見えたが、彼女は油断する事無く勢いそのまま、

「ウゥリャァアァァ!」

 森の奥へと投げ飛ばし、
 ズッズゥーン!
 地鳴りを上げて地面に落ちる汚染獣。

 身動き一つせず、生命活動を完全に停止した気配に、
「ふぅ!」
 残心を解くと、

「もぅ大丈夫でぇすよ♪」

 愛らしい笑顔を見せた。
 幼女の様な、あどけない少女が見せた汚染獣一撃撲殺の御業に、

「「・・・・・・」」

 あんぐり口が開いたまま、言葉が出ない親子。
 その傍ら、
「…………」
 仄暗い顔をするターナップ。

 己の未熟さを痛感していたのもあるが、
(あの時、あの一瞬の、あの気配……アレは間違いない……)
 彼は気付いてしまった。
 自身が彼女に抱いていた「違和感の正体(※正確には半分)」に。
 それは、

(地世のチカラァ!)

 衝撃を受けていた。
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