ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第三章

3-17

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 その日の夜――

 暗がりに乗じて、教会に侵入する何者か。
 
 灯りが落とされ、ひと気が無くなった礼拝堂の先、主祭壇に足音を忍ばせ近づく。
 そこには、触れる事を許さぬ柵に四方を護られ鎮座する、直径十五センチほどの、淡い光を放つ水晶にも似た真球の鉱石が。
 村の「大切な御神体」であるのは誰の目にも明らかであったが、何者かは躊躇う事なく柵を乗り越え、無造作に球を手にし、
(コイツを持ちだして奴らに渡せば、俺は汚染獣に襲われる事も無く大金持ちだぁ♪)
 窓から差し込む月明りに、男が下卑た笑みを浮かべたその頃、

『そこまでするなど私は聞いてなァい!』

 声を荒げたのは現王カルニヴァの、異母の弟ビフィーダ。
 ひと気の無い、薄暗いとある一室で苛立ちを露わにすると、まるで部屋の闇に紛れているかの如く姿を隠す何者かが、
「革命は次の段階に入ったのですよ、ビフィーダ殿下」
 闇にいざなう、男の仄暗い声。

「しかし!」

 何事かに対し、異を唱えようとすると、
「すでに賽は投げられたのです」
 静かなれど「決意を求める物言い」に、
「…………」
 しばし黙するビフィーダであったが、やがて重々しく口を開き、
「そ……それは本当に……「アルブリソ卿」の指示……なのだな……」
「御意にございます」
 即応に、

「……分かった。ならば、私も覚悟を決めよう」

 決心を口にこそしたが、その心の内では、
(兄の失態と失脚を狙っての「謀の数々」ではあったが……今までと比較にならないコレを決断して、本当に良かったのか……)
 惑いを抱き、
(村ごと、勇者一行を汚染獣に襲わせるなど……)
 招くであろう惨劇に、自らが下した冷酷な決断に、恐怖して小さく身震いした。

 その時、

『そこに居るのは誰ですか!』

 毅然とした声と共に、薄暗い教会内で、右手に宿した「天法の灯り」を掲げたのは、村の司祭。

「やべぇ!」

 焦りの声を上げた不法侵入の男は、向けられた灯りを手で遮り逃げ出そうとしたが、暗がりに慣れた目で「天法の輝き」を直視してしまったが故に目が眩み、柵に足を取られ、
「うわぁ!」
 ド派手にこけ、こけた拍子に男の手から離れ宙を舞う、御神体の球。

『あぁ!』

 悲鳴にも似た声を上げる司祭。
 暗がりでも血の気が引いたのが分かる彼の目の前で、球は地に落ち、

 パァーーーン!

 無情にも、破裂するが如く粉々に砕け散り、

『何て事をぉおぉ!!!』

 嘆き叫ぶ彼を尻目に男は一目散、その場から脱兎のごとく逃走し、
「ヤベェヤベェ! この村にはもぅ居らんねぇ!」
 村からも飛び出し、
(早ぇとこ街道に出ちまえば、今ならまだ汚染獣にも!)
 出くわさないと思った矢先、

(!?)

 男の思考は終わりを遂げた。
 夜闇の中から不意に現れた、汚染獣の一撃で。

 屠った男の血を鋭い爪先から滴らせ、赤黒い両眼を闇に光らせながら、

『グゥルゴォアァアァァアァ!!!』

 雄叫びを上げる汚染獣。
 その背後の森の奥には、同じ光を放つ数え切れないほどの目が。
 村は、既に包囲されていた。
 まるで示し合わせていたかのように集まっていた、汚染獣たちによって。

 その頃、ラディッシュ達は宿の大部屋で明朝の出発に備え、談笑を交えながら準備作業をしていたのだが、

「「「「「「ッ!」」」」」」

 異変を素早く察知し、顔色を急変させた。
 しかし、
「?」
 気付けぬプルプレア。
 緊張を纏った表情に急変したラディッシュ達に、

「ど、どうかしたのか、みんな揃って?」

 少々気圧されたが、ハッと何かに思い至ると冗談めかして、
「もしかしてぇ、自分を脅かしてるつもりかぁ?」
 笑って見せたが、ラディッシュは余談許さぬ表情のまま、
「汚染獣の群れが来るよ」
「…………」
 それでも、現実感が持てないプルプレア。
 手の込んだ演技とでも思ったのか「ハハハ」と軽く笑い、
「この村は御神体で護られてるんだろぅ? ならぁラディッシュが昼間に心配してた話なんて、そうそう簡単に、」
 起きる筈が無いと言おうとした矢先、宿の外から、

 カァンカァンカァン! カァンカァンカァン! 

 けたたましい半鐘の音と同時、

『汚染獣の群れが四方八方から来るぞぉおぉぉおぉぉぉおぉ!』

 物見櫓からと思われる男の絶叫が、穏やかな夜更けを迎えつつあった村に響き渡った。
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