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第三章

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 一夜明け――

 この日は移動を早めに取り止め、各々の自由時間とした。
 色々なことが立て続けに起こった為、精神的休養日としたのである。
 しかし、

「放し飼いにして大丈夫ですの?」
「この辺は、村や町がねぇらしいっスから大丈夫じゃないっスか?」
「腹が減ったら帰って来るさぁ」
「聖武具防具も無しに無茶は出来ないでしょうし」

 怪訝な顔を寄せて話し合うは、ドロプウォート、ターナップ、ニプルとプルプレア。
 それは自由時間の「ハクサンの取り扱い」についてであり、

『何だい、この扱いはぁ!』

 半泣きで憤慨するハクサンと、そんな彼を憐れんだ眼差しで見つめるラディッシュとパストリスであったが、五分も経たないうち、
「♪」
 彼は久々の自由を謳歌するが如く、鼻歌交じりの上機嫌で足取り軽く、何処かへと出かけて行った。
((((((…………))))))
 ラディッシュ達の不安を一身に浴びながら。

 女子四人は食べ物、飲み物を詰めた籠を手に、
「私達は女子会を開きまして、ですわ♪」
 設営したベースキャンプから笑顔を残して去って行き、ラディッシュは、
「それなら僕は♪」
 竈を前に、新たな料理開発をしながら、傷みが目立ち始めた調理道具を修繕したり、作り直したり。
 そしてターナップは、
「俺ぁ最近、司祭なのにちょっとアレなんでぇ、ちぃっとばっか精神修行して来るっスぅ」
 己の心と向き合い直す為の瞑想に、森の奥へと消えて行った。

 森の中の、ポツンと開けた場所に辿り着く女子四人。
 草むらの上に敷き布を広げ、各々思い思いに座り、持ってきた食べ物を並べ、飲み物が注がれたコップを手元に置いて大きく深呼吸。
 久々のノンビリムードに笑みを浮かべ、

『なぁなぁ! やっぱ、こう言う時って「恋バナ」したりするモンなんだろぅ?!』

 口火を切ったのは、ニプル。
 しかし集まっていたのは、

「「「…………」」」

 職人級の、ボッチのプロの女子ばかり。
 普通の女子会の有りようについて問われても、

「そっ、そ、そ、そ、言う物ですのぉ?」
「そっ、そ、そぅなのでぇす?」
「おっ、男ばかりの中に居た自分に聞くなぁ!」

 女子会の恋バナは、

「「「「・・・・・・」」」」

 何ともギクシャクとした手探りで始まった。
 世間一般的には、自由に和気あいあい、忌憚なく言い合いする場であると思うが、少々特殊な部類の彼女たちに、その様な「コミュニケーションスキル」は皆無。

「「「「…………」」」」

 当然のように「進行役」が必要になり、当然のような、無言の視線の会話の中から「言い出しっぺのニプル」が進行役に選ばれ、そうなると、話題はもっとも話を振り易い、勇者パーティーに最も長く居るドロプウォートにおよび、ニプルは慣れない探り探りな物言いで、

「さ、最近はぁラディとはぁ、どうなのさぁ?」

 ぎこちない問い掛けに、

「けっ、剣技では、まだ負ける気はしませんですわぁ。ですが天法においてはぁ、」

『いやあぁ、そぅじゃなくてぇさぁ!』

 苦笑の即ツッコミに、

「え?」

 不思議そうな顔をすると、

「色恋的な話を聞ぃてんのさぁ!」

「いっ、色恋ぃいぃ!?」

 ボッと、火が付いた様に顔を赤らめるドロプウォート。
(((カワイイ♪)))
 他意無く思い、頬を緩めるニプル達を前に、「聞かれる話」と覚悟はしていた彼女であったが、改めて問われると動揺が収まらず、

「なっ、ななんなぁ何もありませんでぇすわぁ! わ、ワタクシは、今のワタクシはぁ、今は亡きラミィに代わりぃ、ラディを導かねばなりません立場なのでぇすわぁ! そ、そ、そ、その様な「邪な感情」などぉ!」

 照れが限界を迎えた彼女は堪らず助け舟を求めるように、

「ぱ、ぱぱぱぁパストはぁどぅでぇすのぉ!」

「ひぃう!?」

 丸投げすると、エンジンがかかり始めたニプルがすかさず、

「実際の話ぃ、アイツの事の方はどうなのさぁ!」
「あ、あいつぅ?」
「薄々アイツ(ターナップ)の気持ちには気付いてるんだろぅ?!」
「ひぃうぅ!」

 パストリスは耳まで真っ赤に頭を抱えたが、
「で、でも……」
 悲し気に囁く様に、
「ボクの……ボクの異質な存在が……タープさんを苦しめてるみたいなのでぇすぅ……」
「そんならさぁ」
「?」
「パスト自身は、どぅ思ってるのさ?」
「え?」
「ボクが……?」
 顔を上げると、
「そぅさ」
「ボクは……」
 ターナップの屈託無い笑顔が脳裏をよぎりはしたが、

「やっぱり言えないのでぇすぅ!」

 再び頭を抱え、

「にっ、ニプルさぁんはどぅなのでぇす! 本当にラディさんを諦めたのでぇすぅ?!」

「うっ、ウチかぁい?!」

 進行役と高を括っていたが故に虚を衝かれ、動じた様子を見せるニプルであったが、少し照れ臭そうな顔をしつつ、

「アンタ達が思いのほかマゴマしてるから、ウチにも「逆転アリ」かと思い始めてるところさぁ♪」

 笑顔の中の本気に、
「「!」」
 ドロプウォートとパストリスがギョッとした顔をすると、

『なんだぁ、結局みんな「ラディ狙い」なのかぁ』

 ヤレヤレ声を上げたのはプルプレア。
 暗に「自身は(胃袋は掴まれたが)心まで掴まれていない」のを、場の空気に当てられ、ほのめかしたつもりであったのだが、ドロプウォート、パストリス、ニプルは、いつの間の愛称呼びに、

『『『ラディ?!』』』

 慄き、新たなライバル出現との勘違い。

「いっ、いつからその様な(親密な)間柄になりましたのォ!」
「でぇすぅでぇすぅ!」
「やっぱりオマエもなのかぁ!」

 驚愕した表情で彼女に詰め寄ったが、

「待てぇ待てぇ待てぇ待てぇちょーっと待てぇえぇぇ!!!」

 プルプレアは異様に寄せる三つの顔を羞恥の半笑いで押し返し、

『誰が「ラディ狙い」だと言ったかぁ!』

「「「!」」」

 ハッと我に返る三人娘。
(((そう言えば……)))
 とある事実を思い出すと、からかいを交え、

『『『王様狙い(ですもの・なのでぇすよ・だもの)ねぇ~♪』』』

『ぉなぁ!』

 驚き焦った彼女は耳まで真っ赤に、

「ちっ、違あぁ! そ、そんなんじゃ! そんぁ畏れ多い! 自分はあくまでぇ!」

 慌てふためいたが、
「それに……」
 次第に言葉尻をすぼめ、やがて少し悲し気な笑みと共に、
「あの人は、昔から、自分を(一人の女性として)見てはくれない……あの人がいつも心に想うのは、ウト……」
 誰かの名前を口にしかけ押し黙ると、

『んならぁ王様も「想ってるダケ」なんだろぅさ!』

「え?!」

 驚く彼女の両肩をニプルはガシリと掴み、
「後発組のウチらにも「狙い眼はまだある」って事さぁ!」
 自身と彼女をダブらせ、

「諦めんのは、まだ早い! こう言うのを「わんちゃん」って言うらしいぜぇ!」

 同人誌作業で得た知識を披露すると、
「わんちゃん……」
 プルプレアは小さく呟き、

「自分にも……その「わんちゃん」は……あるのだろうぅか……」

「あるさぁ♪」

 ニプルは満面の笑顔で、
「と言う事で!」
 先発組のドロプウォ―トとパストリスに、ビシッと指差し、

「ウチら後発組は負けねぇからなぁ!」

 本気の満面の笑顔で宣戦布告。
 逃げ腰であったプルプレアの背中をポンと押した。
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