ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第三章

3-51

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 愛らしく変わった自身の容姿に喜んでいる場合ではなく、

(そうだ……自分は身代わりを立て……この国に……居場所はもう……)

 愛する人々、そして愛する国との「決別の現実」を突き付けられ、
「自分は……」
(行き場も……経歴も、何もかも、無なくなった……)
 自分を自分たらしめる全てを失った彼女は、

(これからどう生きたら良いんだ……)

 再び視線を落とすと、

『なんで落ち込んでるの?』

 ハクサンの不思議そうな声が。
「え?」
 上げた顔に、
「プレアちゃんには一緒に来てもらうよぉん♪ 勇者の仲間の一人として、ね♪」
 嬉しくもありながら、

「いや、でも、それは、」

 咄嗟に拒むプルプレア。
「自分の力量では足手まといにしか……」
 本音はついて行きたかった。
 これから一人で生きて行く「不安から」と言うより、そばに居るのが当たり前となっていたラディッシュ達と「別れ難かった」から。

 しかし彼女の示した懸念も、また事実。
 魔王に近づけば近づく程、苛烈を増すであろう戦いは容易に想像でき、先の戦いですら避難誘導しかしていない彼女は、揺れる二つの想いの狭間で、
(ラディ達は今の話を聞いて……どぅ感じているんだろぅか……)
 恐る恐る顔色を窺おうとすると、仲間たちの顔色を確認するより先、

『大丈夫だよぉん♪』
(!?)

 ハクサンは彼女の不安を遮り、
「プレアちゃんは「新たな勇者の一人」として生まれ変わったから これから皆みたいに強くなるよぉ~♪」
(…………)
 持ち上げられている感は、否めなかった。
 それでも、

(自分が、皆の様に強く……)

 示された可能性は「希望の光」に見え、武者震いにも似た思いで打ち震えていると、
「それにねぇ」
「?」
「ラディが、王様に大見得を切っちゃったしね♪」
「おおみえ?」

『ちょ、ハクさぁん! それは!』

 慌てて止めに入るラディッシュであったが、時すでに遅し。
 ハクサンは二枚目風のポーズまでキメながら、当日のラディッシュを真似て、

≪目覚めた彼女は、僕が貰って行きます。男としての「ケジメ」ですから≫

「ぼっ、僕、そんな格好つけて言ってないよぉ!」

 赤面顔で、必死に取り繕うラディッシュ。
 背中に冷たく刺さる、
「「「…………」」」
 ドロプウォート、パストリス、ニプルの視線を感じながら。

「それに、そこまで言ってもいないしぃ!」

 否定もして見せたが、当のプルプレアは生まれて初めての「彼女扱い」に、心の中は有頂天。彼の取り繕いなど全く耳に入らず、今にも昇天しそうな満面の笑顔で、

『あぁ。ラディがぁ「自分ぉ為に」ぃ、そぉんなことぉ~~~』

 悦に入った恍惚とした表情をすると、すかさずハクサンが過剰に神妙な面持ちで、
「プルプレアちゃん、いけませぇんねぇ~」
「ほぇ?」
 苦言を呈するように、
「これからプレアちゃんは「別人として生きる」んだから、「漢」を意識した口調も直さないと~」
「なっ、何故に「自分が」そこまで?!」
「口調で素性がバレちゃうかも、だよぉ?」

「のッ!?」

「素性がバレたら、王様たちに「多大な迷惑」が掛かるんだよぉ???」

「のぉッ!!!?」

 激しい衝撃を受ける、素直で生真面目なプルプレアであったが、容姿のみならず、天世から受ける「恩恵の質」さえ変異した今の彼女が「プルプレアと同一人物である」など、事情を知る者以外で誰が判定できようか。
 彼の「過剰過ぎる真顔」からも分かるように、

(((((絶対に面白がってる……)))))

 からかいであると知るラディッシュ達ではあったが、
(((((でも……)))))
 真に受け、うろたえる彼女の姿に、

(((((面白そうだから少し黙ってよぅ♪)))))

 ちょっとイジワルくもあった。
(!)
 仲間たちの表情から「許可を得た」と認識するハクサン。
 水を得た魚のように、そして流暢に、
「もし「プレアちゃんが生きてる」のが敵に知れたらぁ、王様の威厳はぁ、立場はぁ、どうなっちゃうかなぁ~?!」
「そっ、それはっ……」
 追い詰められ、言葉に詰まった彼女に容赦なく、更に畳み掛ける様に、
「因みに「新しい名前」は、もう決めてあるんだよぉ。「カドウィード」ってね♪」
「か、かどぉっ、てぇ?!」
 気持ちの整理がつく前に、埋められて行く外堀。
「ハぁイ、新たな名前で自己紹介ぃ♪」
「なっ!? えっ?! そんぁ急に……」
 信仰対象でもある百人の天世人の、しかも「序列一位ハクサン」に名前まで(押し)付けられてしまっては拒む訳にはいかず、加えて仲間たちから「期待の眼差し(※面白がっているダケ)」を向けられては、もはや逃げ場は無いと悟り、ヨレた気持ちを立て直すようにコホンと短く咳払い。

 腹を括って、

「じっ、自分の名前は、」
『ハァイ、ダメぇザマズゥ!』

 すぐさま二の句を遮るハクサン。
 掛けてもいない眼鏡の端を、神経質風に手で上げるフリまでして見せながら、

「貴方ぉ一人称は、今から『私(わたし)』で、ザマスぅ」

『ぅえぇえぇ!?』

 過剰に慄くプルプレア、名を改めカドウィード。
 典型的な男社会のカルニヴァ国の中で王のソバに居る続ける為、「誰より強くあろう」と、幼少よりあえて避けて来た、しなやか一人称。
 それを、今更の様に強要されては動揺せずに居られなかったが、
 
≪これも「カルニヴァ王家」と「カルニヴァ国民」の為、なんだよぉ?≫

 ハクサンの一声に、
「うっ……」
 思わず呻き声が漏れた。
 彼が「からかい半分」で言っているのに気付いても、背後でラディッシュ達がクスクス笑っているのに気付いても、ソレを言われてしまっては抗う事は出来ず、
「わ、分かったよぉ……」
 深呼吸してから渋々と、

「わ、わぁ、わた、わたぁ……」

 気恥ずかしそうに、真っ赤に染め上げた顔して、
「・・・・・・」
 言葉に詰まった挙句、

『もぅ「アタシ」で許してつかぁさぁいぃぃぃぃいいぃ!』

 羞恥が臨界突破。
 耳まで真っ赤に両手で顔を覆い隠すと、ハクサンは平然と何食わぬ顔して、

「まぁ、以前と違えば何でも良いんだけどねぇ♪」
『んなっ!?』

 恨めしそうな驚き顔を上げるカドウィード。
 しかし獲物を見つけた彼のイジリは歩みを止めず、
「さぁて一人称も決まった所で、」
「えっ?! いやっ、そ、それはっ!」
「あとは練習あるのみぃ♪」
「練しゅ!?」
(この上、まだ恥をぉ!?)
 ギョッとした驚き顔で逃れようとするも、憐れコーナーポストに追い詰められた彼女に、選択権は無し。
 
 苦手を立て続けに強要される彼女は少し可哀想に見えたが、今回ばかりはハクサンの言う事に一理あり。
 からかいに端を発したとは言え、彼の言う通り、重罪人として処刑された筈の彼女が生きているのが世に知れたら、国民の怒りが再燃して王族の崩壊は免れず、国家の足元が揺らげば機を窺う諸外国からの侵略も受けかねず、発覚のリスクの芽を一つでも多く摘んでおくのは、確かに得策であった。
 それも分かるが故に、ラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ターナップ、ニプルは、

(((((がんばれぇ)))))

 生温かく見守り、ハクサンは「仲間たちの支持」と、素性を隠さなければならない「実理」を笠に、

「はいはぁ~い♪ りぴーとあふたみぃ♪ ぼくぃ続いてぇ~「わ・た・し」ぃ♪」

 満面の笑顔で「しなやか口調」を、恥じらいマックスの彼女に強要。
 そんな彼のホクホク顔に、

(((((鬼だな……)))))

 苦笑するしかない五人であった。
 そしてこの日から数日後、元々極刑を言い渡されていたプルプレアと容姿の近い重罪人が彼女の身代わりとして、ドロプウォートの施した「偽装の天法」と共に火刑台送りにされ、一連の騒動は「首謀者プルプレアの死」を以て幕引きとなった。

 アルブル国が暗躍していた証拠は何一つ掴めず、何とも言えない後味の悪さを残しつつ。

 補足ではあるが、刑が執行された後、じぃやは職を解任、恨みを抱く暗殺者から身を守る為に、監視を名目とした現王カルニヴァの保護の下で隠居生活を送る事となり、働いていた従者たちは、裏事情を知る「カルニヴァ国国王直属騎士団団長四人衆」の下へそれぞれ移籍し、家は断絶。
 ウトリクラリアは真実の性別と共に「苦悩の生い立ち」を公に明かされ、騙され、利用され、記憶まで失った悲劇のヒロインとして国民に受け入れられ、一方のプルプレアは「鬼女の代名詞」として、後世まで語り継がれる事となった。
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