ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第三章

3-53

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 七人が再び歩き始めた頃――

 古代ギリシアを彷彿とさせる、白ローブを羽織った人々が集まる一室。
 みなジョッキを手に、少し赤ら顔して食事をしているところから、酒場の様である。
 酒席にありながら品良く、和気あいあいと会話を交わす人々の中にあって、異色を放つ人物が一人。

 他者を寄せ付けぬオーラを纏うその男は、見た目年齢的には人生の折り返しを過ぎた位に感じられたが、大柄で、筋骨隆々中肉中背、ローブから出る引き締まった筋肉は見るからに鋼の様であり、その鋭き眼光は衰えを感じさせず、平時にありながら常在戦陣、戦場にいるが如き気迫を放っていた。

 一言で形容するなら武人、佇まいは抜き身の剣。

 酒席とは言え、その様な人物にあえて近づく「命知らずな者」など居る筈も無く、男は一人、黙々と酒を飲み、食事を喰らっていたが、そんな彼の下に、あえて歩み寄る強者(つわもの)が。
 男は、近づく何者かの気配に一瞥くれる事も、食事の手を止める事さえ無く、

「ワレに何か用か、スパイダマグ」

 歩み寄ったのは、元老院親衛隊隊長スパイダマグ。
 彼は食事中の男の傍らに立つと、一枚布で隠した顔から事務報告でもするが如く淡々と、

「カリステジアが死んだぞ、サジタリア」

 しかし「サジタリア」と呼ばれた男は眉一つ動かさず、

「そうか」

 食事の手も止めず、変わらぬ口調で、
「それを報告しに、親衛隊隊長であるワレがわざわざ来たのか?」
「そうだ」
「御苦労な事だな」
 サジタリアも淡々と返すと酒を一杯あおり、
「魔王が鳴りを潜めて以降、初めに死ぬのは、元より「ヤツだ」とは思っていたがな」
(実力がありながら、なまじ「歪んだ知略」に長(ちょう)があったが故に、足元をすくわれたか……愚かな)
 見ていたように「死したカリステジア」に苦言を呈し、ジョッキの中の水面を見つめながら、

「因みに誰にやられた?」

 するとスパイダマグは、
「中世に下り、それを調べてもらいたい」
(…………)
 鋭き無表情の眉の端に、感情を窺わせるサジタリア。

 それは不快感。

 それでも口調は淡々と、
「既に死したヤツの為に、ワレがか? それは御歴歴の指示か?」
(実に下らん)
 口にこそしなかったが、元老院への反発心を窺わせると、

「違う」

「?」

「自分の独断だ」

「なんと」

 彼は意外そうな驚きを以て、
「こいつは驚いた……ワレが、元老院の指示も無しに動くとは……」
 初めてスパイダマグの顔を見上げ、

「何故に仇人(あだびと)を探す? 仇討か? 縁故深き者(※カリステジアのこと)でもあるまいに」

 問われたスパイダマグは、

「…………」

 一枚布で隠された表情では「何を思っているか」を読み取るのは不可能であったが、黙した彼はやがて淡々と、

「自分の足(考え)で歩き始める、きっかけが欲しいのかも知れない」

 あまりに正直な、あまりに利己的な理由に、
「…………」
 一瞬黙するサジタリアであったが、変わらぬ眼光で、
「一つ問う。何故に、ワレに頼みに来た? 七草なら、他にも五人居ろうが?」
「不穏な動きを見せる中世のかく乱を狙い、カリステジアを向かわせたが、それは失敗だった。下(※中世)には、ヤツを背後から、無抵抗のまま一突きに出来る輩がいる」
「なるほどな……カリステジアとて、腐っても天世に仕えし七草が一人。それを、易々と屠れる程の「手練れ」となれば、ワレに声掛けして当然か」
「何より貴方は、強者、くせ者揃いの「天世の七草」の実質的頭目だ。配下の失態を野放しにしていては角も立つだろう。それに、」
「それに?」
「貴公も、変化を嫌い閉塞感の否めない「今の天世」に、辟易しているのでは?」
 するとサジタリアは、

(貴公も……か)

 スパイダマグが口にした、思い掛けない一言を反芻し、
「クックック……」
 小さく笑った途端、

『ワァーッハッハッハッ!』

 店内の誰もが、ビクッと身を震わせる程の大声で大笑い。
 感情を露わにするのは「恥」とさえ考える、侍の如き武人は、
「面白い!」
 愉快げに笑ったが、

「ただし!」

 鋭い眼光でスパイダマグを正面に見据え、
「何をどうするかは、ワレが、その場で、ワレの判断で、好きに決めさせてもらう!」
(!)
 同意を得られたと理解するスパイダマグ。一枚布で隠した素顔の口元に、微かな笑みを浮かべ、
「構わん」
 小さく一礼した。
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