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第四章
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小雨がサァサァと降りしきる夜闇の中――
両足を泥だらけにしながら立ち尽くす、
「「…………」」
キーメとスプライツ。
全身ずぶ濡れでうつむき、表情さえ見えない二人の前にあった物、それは最近焼け落ちたと思われる、倒壊寸前のとある屋敷。
言うまでも無く、幼い二人が共に泣き、笑い、過ごした王都アルブレスにあるカデュフィーユ団長の邸宅である。
深夜とは言え、異様な静けさ。
雨が、全ての音まで洗い流しているかのよう。
おもむろ、
「おとうさまは、」
「ホントに、」
口調は淡々と、上げた顔は無表情で、目は虚ろに、容赦なく降りしきる雨のせいで泣いているのかさえ分からない中、二人は、
「「もぅ、イナイんなぉ……」」
囁くように呟いた。
二人は道中で、既に不穏な噂話を耳にしていた。
≪カデュフィーユが強盗団の夜襲を受けて命を落とした≫
信じたくなかった。
懐が深く、豪胆な父が、強盗如きの手に掛かって命を落とす事など有り得ぬと。
耳にした噂を、自分たちの眼で見て、直接確認するまで。
しかし目の当たりにした現実は過酷。
二人がカデュフィーユと共に育てた、多種多様な美しい草花で彩られていた庭の門も無残に焼け落ち、二人は星一つ見えない、真っ暗な、漆黒の雨空を見上げ、
「「お父さまとはじめてあった日も、こんなふうに雨がふってたなぉ……」」
思いは時を遡り、そんな二人の下に物陰からひたひと近づく幾つもの人影が。
数年前――
アルブル国の北方に隣接する、とある国。
共和国を謳い、全ての人々が平等な共産主義的理念を掲げながらも、その実は一党独裁、国民を「等しく支配下」に置いたその国で、キーメとスプライツは育った。
否。
正確には実質的支配下に置いた同盟国より拉致され、特殊な任を帯びた機関で戦闘要員として、同様の境遇を背負わされた「多くの子供たち」とともに育成された。
名前さえ、与えられずに。
その任とは、暗殺や破壊工作。
幼い容姿で敵を油断させ目的を遂行する、子供たちの人権と未来を踏みにじった、卑劣極まりない機関である。
そこでアサシンとしての日々を重ねた「名無しの双子」に与えられた新たな任とは、
≪アルブル国の英雄的人気を誇るカデュフィーユの暗殺≫
アルブル国の騎士兵士たちの精神的支柱である彼を屠る事により、国を弱体化、混乱の機に乗じて攻め込もうとの企てであった。
とは言え、アルブル国とて天世より武器開発を一任される程の強国。
隣国に「その様な機関」があるのも、「その様な企て」があるのも、情報として先刻承知済み。
疑わしき各所に人員は配置済みで、対策は万全であったが、その逆もまたしかり。
幼児二人を暗殺者として放った国も情報漏洩に気付き、混乱の機に乗じる突入部隊は撤収済みで、それと知らぬは、きっかけを作る実行役の幼い二人だけ。
澄み切った青空の下、かりそめの自国に「既に見捨てられた」とも知らず与えられた任に従い、アルブル国の子供を装い、無垢なる笑顔で花束を手に、総大将カデュフィーユに近づく。
そんな憐れな二人を待っていたのは、
「「…………」」
アルブル国の騎士兵士たちによる包囲網であった。
しかし、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
遠巻きに取り囲んでおきながら、近づくのを躊躇う騎士兵士たち。
敵国の情報を得んが為に目論んだ、策略を逆手に取った「生け捕り」の包囲網ではあったのだが、二人が所属していた機関は「自らの死」すらいとわない、自爆攻撃的機関であり、何を隠し持っているか分からず、彼らもそれを知っているが故に、迂闊に近づく事が出来なかったのである。
そして何より幼い容姿の二人が向ける、
「「…………」」
無垢なる笑顔から変容した、穴でも開いた様な仄暗い目に、薄気味悪さを覚えて息を呑んだ。
それはまるで、死人の眼。
両足を泥だらけにしながら立ち尽くす、
「「…………」」
キーメとスプライツ。
全身ずぶ濡れでうつむき、表情さえ見えない二人の前にあった物、それは最近焼け落ちたと思われる、倒壊寸前のとある屋敷。
言うまでも無く、幼い二人が共に泣き、笑い、過ごした王都アルブレスにあるカデュフィーユ団長の邸宅である。
深夜とは言え、異様な静けさ。
雨が、全ての音まで洗い流しているかのよう。
おもむろ、
「おとうさまは、」
「ホントに、」
口調は淡々と、上げた顔は無表情で、目は虚ろに、容赦なく降りしきる雨のせいで泣いているのかさえ分からない中、二人は、
「「もぅ、イナイんなぉ……」」
囁くように呟いた。
二人は道中で、既に不穏な噂話を耳にしていた。
≪カデュフィーユが強盗団の夜襲を受けて命を落とした≫
信じたくなかった。
懐が深く、豪胆な父が、強盗如きの手に掛かって命を落とす事など有り得ぬと。
耳にした噂を、自分たちの眼で見て、直接確認するまで。
しかし目の当たりにした現実は過酷。
二人がカデュフィーユと共に育てた、多種多様な美しい草花で彩られていた庭の門も無残に焼け落ち、二人は星一つ見えない、真っ暗な、漆黒の雨空を見上げ、
「「お父さまとはじめてあった日も、こんなふうに雨がふってたなぉ……」」
思いは時を遡り、そんな二人の下に物陰からひたひと近づく幾つもの人影が。
数年前――
アルブル国の北方に隣接する、とある国。
共和国を謳い、全ての人々が平等な共産主義的理念を掲げながらも、その実は一党独裁、国民を「等しく支配下」に置いたその国で、キーメとスプライツは育った。
否。
正確には実質的支配下に置いた同盟国より拉致され、特殊な任を帯びた機関で戦闘要員として、同様の境遇を背負わされた「多くの子供たち」とともに育成された。
名前さえ、与えられずに。
その任とは、暗殺や破壊工作。
幼い容姿で敵を油断させ目的を遂行する、子供たちの人権と未来を踏みにじった、卑劣極まりない機関である。
そこでアサシンとしての日々を重ねた「名無しの双子」に与えられた新たな任とは、
≪アルブル国の英雄的人気を誇るカデュフィーユの暗殺≫
アルブル国の騎士兵士たちの精神的支柱である彼を屠る事により、国を弱体化、混乱の機に乗じて攻め込もうとの企てであった。
とは言え、アルブル国とて天世より武器開発を一任される程の強国。
隣国に「その様な機関」があるのも、「その様な企て」があるのも、情報として先刻承知済み。
疑わしき各所に人員は配置済みで、対策は万全であったが、その逆もまたしかり。
幼児二人を暗殺者として放った国も情報漏洩に気付き、混乱の機に乗じる突入部隊は撤収済みで、それと知らぬは、きっかけを作る実行役の幼い二人だけ。
澄み切った青空の下、かりそめの自国に「既に見捨てられた」とも知らず与えられた任に従い、アルブル国の子供を装い、無垢なる笑顔で花束を手に、総大将カデュフィーユに近づく。
そんな憐れな二人を待っていたのは、
「「…………」」
アルブル国の騎士兵士たちによる包囲網であった。
しかし、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
遠巻きに取り囲んでおきながら、近づくのを躊躇う騎士兵士たち。
敵国の情報を得んが為に目論んだ、策略を逆手に取った「生け捕り」の包囲網ではあったのだが、二人が所属していた機関は「自らの死」すらいとわない、自爆攻撃的機関であり、何を隠し持っているか分からず、彼らもそれを知っているが故に、迂闊に近づく事が出来なかったのである。
そして何より幼い容姿の二人が向ける、
「「…………」」
無垢なる笑顔から変容した、穴でも開いた様な仄暗い目に、薄気味悪さを覚えて息を呑んだ。
それはまるで、死人の眼。
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