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第五章
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卒業式から数日後――
真新しい軍服を着たミトラは緊張した面持ちで、石造りの町の中をとある場所を目指して歩いていた。
そんな彼の隣には、四角張った顔に二等辺三角形の鋭い眼を持った中年男性の姿が。
先日の卒業式の折り、講壇に立った校長と思しき年配男性に負けず劣らず「イカツイ顔」した男。
ミトラと同じデザインの軍服を着古しながらも、パリッと糊を利かせて身に馴染み、その様は歴戦の兵士であるのを窺わせた。
パラジクスは王都でありながら町中にポスターなどの広告は無く、街並みも煌びやかとは無縁な、簡素、質素、地味とも思える石造りで、二人はその様な、良く言えば「質実剛健」な町の石畳を無言で歩きながら、やがてとある建物の中に入って行った。
軋みの目立つ階段を二階へと上がり、廊下を進んで幾つ目かの扉の前で二人は足を止め、四角張った顔の真一文字に結ばれたままであった口が、やおら初めて開き、
「中尉、ここが今日から貴君が祖国の為に働く職場だ」
重々しくもメリハリの利いた物言いに、ミトラは改めてピッと背筋を伸ばし、
「ハッ! クスキュート中佐! 御期待を裏切らぬよう励みます!」
「うむ」
クスキュートと呼ばれた中年男性は静かに頷くと扉をノック。
中からの返事を待たずに扉を開け、
「クスキュートだ。新人を連れて来たぞ、キャシート・フィリィフォーム所長」
緊張を隠せぬミトラを連れ立ち、足を踏み入れると、
『グシッシッシッシ♪』
怪しげな笑い声と共に、窓辺に置かれた執務机の乱雑に置かれた書類の山の陰から、
「未だ吾が輩を「名と姓」で呼ぶか、中佐ぃ」
ボサボサ頭の半笑いを浮かべた年齢不詳の白衣の男が顔を覗かせ、フランクな対応を求めた。
しかし、
「軍属ではない貴君を、略称で呼ぶ訳にはいかん」
「グシッシッシッシ。久方振りの邂逅と言うに「堅物」は変わらぬかぁ」
小馬鹿を含んだ物言いで、彼の隣のミトラに目をやり、
「ほぉほぉ~その新人が、例の「特進の小僧」かぁ?」
少尉の階級を飛ばして中尉となった異例が、既に噂話として広がっている様子を窺わせたが「大志を抱く新人」は、臆する事無く半歩前に歩み出て敬礼し、
「ミトラと申します! 新人研修の短い期間ではありますが、ご指導ご鞭撻のほど! 祖国発展の為よろしくお願い致しまぁす!」
伸びた背筋を更に伸ばした。
その初々しい様を、
『グシッシッシッシ♪ 若いねぇ~』
キャシート・フィリィフォームは怪し気に笑い、
「ならぁ早速、書類整理から始めてもらおうかぁ」
何か含んだ物言いではあったが、一応許可を求めるようにクスキュートをチラ見。
見られた彼も顔色一つ変えず、
「構わん」
短く答えると、
「では私はこれで失礼する」
固い表情のミトラに訓示を与える事も、励ます事も無く、一瞥贈る事さえ無く、部屋から出て行ってしまった。
途端に静まる室内に、
「…………」
顔にこそ出さなかったが、不安がよぎる。
同期も居ない、見知らぬ場所にただ一人。
そんな弱気になった心を支えたのは、士官学校での努力の日々と、それに裏打ちされた結果の成績。
(信用されているからこそ「何も言われなかった」に違いない!)
そう思い改めると腹も据わって来た。
しかし、
バサッ!
唐突に書類束を、目の前の机に放る様に置かれ、
(!?)
落ち着き始めた心を揺さぶられると、
『グシッシッシッシ。その書類を整理しろ、チュウイ♪』
(ッ!)
横柄な言動に、若さも手伝い苛立ちを覚えたが、
(これも祖国の為の第一歩!)
気持ちを切り替えると平静に、
「了解しました。書類の整理に掛かります」
復唱して、書類束を手に取った。
するとキャシート・フィリィフォームは何を思ってか「グシッシッシッシ」と、再び怪し気に一笑いしてから、
「昨日行われた試験の総合結果が、一枚目に順位付けされて書かれてある。それに合わせ、二枚目以降の検体資料の並べ替えを先ずしろ」
(え? 検体の資料を成績順に並べ替える? 検体とは医療検査における「尿」などの検査材料の事で……尿の順位?)
違和感を覚えはしたが、新人研修の短い間とは言え、上司となった彼の命令は絶対であり、戦場において上官の命に疑いを持つは「死に直結」すると教えられて来たが故に、
「了解しました! 並べ替えを致します!」
ミトラは生真面目に復唱すると席に着き、一ページ目のタイトルを見るなり、
(なっ?!)
驚いた。
真新しい軍服を着たミトラは緊張した面持ちで、石造りの町の中をとある場所を目指して歩いていた。
そんな彼の隣には、四角張った顔に二等辺三角形の鋭い眼を持った中年男性の姿が。
先日の卒業式の折り、講壇に立った校長と思しき年配男性に負けず劣らず「イカツイ顔」した男。
ミトラと同じデザインの軍服を着古しながらも、パリッと糊を利かせて身に馴染み、その様は歴戦の兵士であるのを窺わせた。
パラジクスは王都でありながら町中にポスターなどの広告は無く、街並みも煌びやかとは無縁な、簡素、質素、地味とも思える石造りで、二人はその様な、良く言えば「質実剛健」な町の石畳を無言で歩きながら、やがてとある建物の中に入って行った。
軋みの目立つ階段を二階へと上がり、廊下を進んで幾つ目かの扉の前で二人は足を止め、四角張った顔の真一文字に結ばれたままであった口が、やおら初めて開き、
「中尉、ここが今日から貴君が祖国の為に働く職場だ」
重々しくもメリハリの利いた物言いに、ミトラは改めてピッと背筋を伸ばし、
「ハッ! クスキュート中佐! 御期待を裏切らぬよう励みます!」
「うむ」
クスキュートと呼ばれた中年男性は静かに頷くと扉をノック。
中からの返事を待たずに扉を開け、
「クスキュートだ。新人を連れて来たぞ、キャシート・フィリィフォーム所長」
緊張を隠せぬミトラを連れ立ち、足を踏み入れると、
『グシッシッシッシ♪』
怪しげな笑い声と共に、窓辺に置かれた執務机の乱雑に置かれた書類の山の陰から、
「未だ吾が輩を「名と姓」で呼ぶか、中佐ぃ」
ボサボサ頭の半笑いを浮かべた年齢不詳の白衣の男が顔を覗かせ、フランクな対応を求めた。
しかし、
「軍属ではない貴君を、略称で呼ぶ訳にはいかん」
「グシッシッシッシ。久方振りの邂逅と言うに「堅物」は変わらぬかぁ」
小馬鹿を含んだ物言いで、彼の隣のミトラに目をやり、
「ほぉほぉ~その新人が、例の「特進の小僧」かぁ?」
少尉の階級を飛ばして中尉となった異例が、既に噂話として広がっている様子を窺わせたが「大志を抱く新人」は、臆する事無く半歩前に歩み出て敬礼し、
「ミトラと申します! 新人研修の短い期間ではありますが、ご指導ご鞭撻のほど! 祖国発展の為よろしくお願い致しまぁす!」
伸びた背筋を更に伸ばした。
その初々しい様を、
『グシッシッシッシ♪ 若いねぇ~』
キャシート・フィリィフォームは怪し気に笑い、
「ならぁ早速、書類整理から始めてもらおうかぁ」
何か含んだ物言いではあったが、一応許可を求めるようにクスキュートをチラ見。
見られた彼も顔色一つ変えず、
「構わん」
短く答えると、
「では私はこれで失礼する」
固い表情のミトラに訓示を与える事も、励ます事も無く、一瞥贈る事さえ無く、部屋から出て行ってしまった。
途端に静まる室内に、
「…………」
顔にこそ出さなかったが、不安がよぎる。
同期も居ない、見知らぬ場所にただ一人。
そんな弱気になった心を支えたのは、士官学校での努力の日々と、それに裏打ちされた結果の成績。
(信用されているからこそ「何も言われなかった」に違いない!)
そう思い改めると腹も据わって来た。
しかし、
バサッ!
唐突に書類束を、目の前の机に放る様に置かれ、
(!?)
落ち着き始めた心を揺さぶられると、
『グシッシッシッシ。その書類を整理しろ、チュウイ♪』
(ッ!)
横柄な言動に、若さも手伝い苛立ちを覚えたが、
(これも祖国の為の第一歩!)
気持ちを切り替えると平静に、
「了解しました。書類の整理に掛かります」
復唱して、書類束を手に取った。
するとキャシート・フィリィフォームは何を思ってか「グシッシッシッシ」と、再び怪し気に一笑いしてから、
「昨日行われた試験の総合結果が、一枚目に順位付けされて書かれてある。それに合わせ、二枚目以降の検体資料の並べ替えを先ずしろ」
(え? 検体の資料を成績順に並べ替える? 検体とは医療検査における「尿」などの検査材料の事で……尿の順位?)
違和感を覚えはしたが、新人研修の短い間とは言え、上司となった彼の命令は絶対であり、戦場において上官の命に疑いを持つは「死に直結」すると教えられて来たが故に、
「了解しました! 並べ替えを致します!」
ミトラは生真面目に復唱すると席に着き、一ページ目のタイトルを見るなり、
(なっ?!)
驚いた。
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