ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第五章

5-3

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 書かれていた表題は、

≪戦闘力評価試験≫

 以下項目は、識別番号ならびに「総合得点」が書かれ、続けて「反応速度」や「対応力」などといった小項目に関する得点が記載され、
(何だコレ?!)
 思わず、

『きっ、キャシート・フィリィフォーム所長殿! 質問があります!』

 血相を変えた新人に「予想通りの反応」とでも思ったのか、彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、
「何かね、チュウイ♪」
「さ、先に所長殿は「検体」と申されておりました。しかし検体とは医療検査における検査材料の「血液や尿」などの事であり、しかしここに書かれた、」
「二枚目以降を読んでみなさぁい♪」
「にっ、二枚目以降ぉ?!」
 促されるままページをめくった彼は、

「なっ!」

 更なる驚愕を隠す事が出来なかった。
 そこにあったのは見た目年齢四、五歳くらいの男児を描いた、絵付きの資料。

 内容は、男児の外見的身体的特徴や、医療における検査結果、性格分析など多岐に渡り、以降のページも性別関係なく、男児女児の資料が続き、

(こっ、これじゃまるで「人体実験」じゃないかァ!)

 人並みの感情を持つ者なら、誰しもが抱くであろう正義感であり、嫌悪感から、
「この様な行いが!」
 許される筈が無いと言い放とうとしたが、キャシート・フィリィフォームはむしろ愉快げに、

「これが「祖国発展の為」なのだよ、チュウイ♪」
「ッ!」

 愛国心を馬鹿にされた気がし、相手が上官と同等の人物であるのも忘れ、

「何を根拠に!」
「信じられないなら検体どもの「国籍」を見てみたまえよ、チュウイ♪」
「国籍?!」

 怪訝な思いで個別資料を改めて見直し、
「!?」
 三ページ、四ページ、五ページと次々めくり、

(ぱ、故国パラジットと共和国を成す、近隣諸国の子供ばかり!?)

 資料を持つ手が震えた。
 自国の闇を目に驚愕する彼を、キャシート・フィリィフォームは愉快げに眺めながら、

「検体どもはこの国の発展の為、戦闘要員や暗殺要員、薬物実験など、多岐に渡って有用されておる」
「しっ、しかし御言葉ですが共和諸国民も我が国の同胞であり!」
「…………」
「この様な蛮行など倫理的にも許される事では!」

『いい加減に黙れぇ若造がぁあぁ!』

 食い下がりを一喝し、
「これは国が認めた「国是」なのだ!」
「!」
「キサマは軍人の身でありながら、国の指針に逆らうと言うのか!」
「そっ、それは……」
 返す言葉を失うミトラ。
 人間としての「道義」と、軍人としての「責務」の間に挟まれ、
(お、俺は、どぅしたら……)
 思考が迷走すると、

『帰れ!』
「そ!」

 肩を突き押されて官帽が床に落ち、落ちた帽子がはずみで踏みつけられると同時に思考は完全停止。

「…………」

 立ち尽くす背を、キャシート・フィリィフォームは容赦なく押し、

『故国の為に働けぬ「用無し」などに構っているヒマは無ァい!』

 更に押して扉を開け、落ちた官帽ごと廊下に追い出すと、

『国家の秘密を知った以上は「監獄か従順」か、家に帰って頭を冷やして選ぶがいい!』

 怒り任せに扉を「バァン!」と勢いよく閉め、鍵を「ガチャッ!」と掛けた。
 死人の如き生気の失せた顔で、放心するミトラ。
「…………」
 やがて床に転がる官帽をのらりと拾い、ふらふらとした足取りで失意の中、帰路に就いた。

 希望に満ち溢れていた「祖国の為の第一歩」は、突き付けられた現実を前に半日と持たず、蜃気楼の如くに消え、チカラ無く官舎に戻ると、うつむき加減のまま自室に入って静かに扉を閉めた。

「…………」

 物音一つ聞こえて来ない、静寂。
 通常勤務時間帯であるが故に、他の部屋に人は居ない。
 そんな中、不意に沸々と「言い知れぬ怒り」が沸き上がって来て、玄関先からリビングルームに駆け込んだ彼は怒りで顔を真っ赤に、

『アレが人のする事かアァアァァァッ!』

 踏まれて汚れた官帽を、床に激しく叩き付けた。
 しかし、どれ程の怒りを有しようとも、嫌悪を抱こうとも、キャシート・フィリィフォームが吠えた通り、国の中枢の暗部を知ってしまった彼に、従う以外の選択肢は無い。

 何故なら、事は本人だけに限らず、親兄弟、親類縁者にまで害が及ぶ可能性があったから。
 パラジット国とは「国民に平等」を謳う半面、国の枠からはみ出たモノを「容赦なく処罰」する、狂気の面を持ち合わせていた。
 愛国心が先に立っていた時は気にも留めなかった「故国が持つ負の面」が、レリーフのように浮き上がって見え始め、

(全てが「踏み絵」……だったのか……)

 床の上で、いびつな形に歪んだ軍帽を悲し気に見つめた。
 今になって思い返してみれば、何もかもが異例であったから。
 
 卒業と同時に「中尉」と言う階級を与えられたのも、卒業したての新人の研修先が、国の中枢に最も近いと言われる「特務機関」であった事も。
 
(全ては成績優秀者を逃さず、縛る為の、足枷(あしかせ)……)
 たった半日で、目に見えていた世界が反転してしまった。
 そして一夜明け、彼の選んだ結論とは、

『おはようございます!』

 追い返された特務機関の事務所に、快活な笑顔で入って行くミトラ。
 しかし彼は、安易な従順を選んだ訳では無い。

 眼の下に作った「強いクマ」が物語るように、悩みに悩んだ末に導き出した答えは「対抗」。

(捕えられた子供たちを、一人でも多く守ってみせる! 自分に何が出来るのか、今はまだ分からないが!)

 この日から、彼の孤独な戦いは始まった。
 人事を異動されてしまっては元も子もない為、表面上はあくまで従順に仕事を学び、子供たちを守る為に必要不可欠な知識を掻き集め、腹の底では最善手を探し求める日々。
 
 その中で彼が気付いたのは、戦闘要員として「不適合」の烙印を押された子供たちは薬物投与反応などの「生体実験」に回され、二度と彼の眼に留まる事が無かったと言う事実。

(今の自分に出来るのはコレだ!)

 ミトラは試験場で収集された数値データの一部に、改ざんが露見しない範囲で手を加え、子供たちが実験場送りとなるのをギリギリのラインで食い止め続けた。

 とは言え、全ての子供たちが「不合格扱い」から救える訳でない。
 加えて、不合格を免れた子供たちも、いつ終わるとも知れない過酷な戦闘訓練に従事するに他ならず、
(俺がやっている事は、単なる自己満足なんじゃないのか!?)
 疑問が首をもたげる日もあったが、
(生きていればこそ!)
 彼は自身の、内なる弱さとも戦い続けた。

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