ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
331 / 895
第五章

5-45

しおりを挟む
 大人数での賑やかな調理の後――

 足りない分のテーブルや椅子を増やして全員が席に着くと、親衛隊の面々はラディッシュ達と共に両手を合わせて、
『『『『『『『『『『いただきまぁす♪』』』』』』』』』』
 食事を始める前の挨拶を、日本式で行った。

 幼いチィックウィ―ドから、予めレクチャーを受けたのである。
 和やかな空気の中で合同食事会は開始され、初めてラディッシュの手料理を食べた隊員たちは、

『うんまぁ!』
『なぁんだぁコレはぁ!?』
『こんなウマイ料理、食った事が無いぞ!』
『元老院の御歴歴は、これ程の料理を食さず斬って御捨てになろうとしていたのかぁ?!』

 感嘆を口々に漏らし、
「喜んでもらえて、何よりです♪」
 照れ臭そうな笑顔を見せるラディッシュに、スパイダマグは改めて頭を下げたが、
「それはそうと……」
 不思議そうな物言いで頭を上げ、

「勇者殿」
「?」
「これらの食材は「天世の物」ですよね?」
「そうですよ」
「あれ程までに味が薄かった天世の野菜に、何故にこの様な濃い味が……やはり中世からお持ちになられた「調味料の御蔭(おかげ)」なのでしょうか?」
「それも理由の一つですけどぉ」

 笑顔を見せながら、

「一番は、弱火で煮詰めて味を濃縮したからなんですよ。なるべく「自然な味」を活かしたいんで」
「つまり味が薄い「天世の野菜」でも、要は使いようだとぉ?」
「そう言うことですね。中世にだって、手を加えないと美味しくない野菜は幾らでもありますから♪」
「なるほど……」

 彼は黙考すると、

「しかし天世の野菜は、何故にこうも味が薄いのでしょう? 雑草は刈り取られ、天法の恵みにより、生育の妨げとなる病気にならず、水分も摂れていると言うのに……やはり先に話された「肥料のひと手間」なのでしょうか?」

 するとラディッシュは「天世と中世の文化の違い」と思い、天世の村ではあえて黙っていた「思い当たる理由」を、諭すのではなく、あくまで個人の見解として、

「それも含めて、土地が疲れて、痩せているからじゃないかな♪」

 穏やかに語った。
 思いもしなかった理由に、

「と、土地が疲れて痩せる?」

 キョトンとした顔をすると、パストリスがクスッと笑いながら、

「連作は良くないのでぇす♪」
「れっ、れんさく、ですと?」
「ハイなのでぇす。同じ作物を、同じ場所で、何度も栽培するのは良くないのでぇす♪ 中世だったら連作障害が起きてるのでぇすぅ♪」
「しょ、障害???」
「病気に罹り易くなったりぃ、出来が悪くなったりぃ、成長が鈍くなったりぃ、だから収穫量も落ちるのでぇすぅ♪」
「なんとぉ! その様な事が?!」

 感銘を受けた様子に、ラディッシュは見解のまとめとして、

「天法で全ての障害を補完して、見た目上の収量を確保するのも考え物ですね♪」
「…………」

 スパイダマグは、食事の手が止まらない様子の部下たちをチラ見し、
(天世の人々にも、この悦びを味わっていただきたい……)
 思い立ち、

「なれば、どうすれば良いのでしょう、勇者殿?」
「そうですね……面倒かもだけど、少なくとも連作は止めて、肥料もあげて、収穫の終わった土地を元気にしてあげるだけで、随分違うと思いますよぉ♪」
「なるほどぉ……」
(しかし肥料とは……いったい、どうすれば手に……いや、それより現状に満足してしまっている農家の人々を「如何に説得する」のか、そちらの方が遥かに難しそうだ……)
 食事も忘れて深く思い悩んでいると、

「スパイダマグさんは「今の天世を変えたい」って、思ってるんですね」
(!)

 ラディッシュの笑顔の問い掛けに彼はハッとし、

「いえいえいえいえ! 自分は、その様に大それた事など!」

 慌てて謙遜して見せ、
「ただ……」
 次第に視線を暗く落とすと、
「天法とプリズニアに全てを任せて、朝に起きて、食べて、祈って、食べて、夜に寝てを繰り返すだけの天世は、毎日に何の変化も無く「いつか自壊してしまうのでは」と、危惧はしているのです……」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「変えようと試みる者も少なからず居りました……しかし権力を恒常的に有して離さない一部の者たちが、その者らの事を、皮肉を込めて「変わり者」と呼称して歯牙にも掛けず……皆、現状に「満足」と言うより「諦め」を覚えてしまっているのです」

(そして自分は、宮内(くない)で素顔を晒す事も認められぬ「身分の低い人間」……)

 立場にないが故の「もどかしさ」と「歯がゆさ」を抱きつつ、
(なればこそ! なればこそ勇者殿には「百人の天世人」の御一人になっていただき、今の停滞した天世に楔を打ち込んで!)
 秘めた思いは口から溢れ出そうになったが、

『僕達は近くに居られないけど、良い方に変わるように応援してますね♪』
(!?)

 スパイダマグは「ラディッシュの言葉のニュアンス」と、ドロプウォート達の達観した笑顔から、とある事実に気が付いた。

「か、帰って、しまわれるのですか……?」

 窺う様な物言いに、ラディッシュは突き放すような言い方ではなく、申し訳なさげに、
「深刻な被害を受けた「アルブル国」に「パラジット国」……それに建て直し中の「エルブ国」や「フルール国」、そして「カルニヴァ国」の事が心配で……それに……」
「そ、それに?」
「天世人でもない僕達が天世に居る続ける事で生じた「天世の波風」が、中世に帰る事で少しでも収まればとぉ」
 黙々と食事を続けるチィックウィードを、親目線で微笑ましく見つめた。

「…………」

 押し黙るスパイダマグ。
 即座の否定は「虚しい気休め」にしかならないと、理解しているから。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に失敗したと捨てられましたが、魔王の家政婦になりました。

藤 ゆみ子
ファンタジー
家政婦として働いていた百合はある日、会社の倒産により仕事を失った。 気が沈んだまま家に帰り、おばあちゃんの仏壇に手を合わせていると突然知らない場所にいた。 訳がわからないまま、目の前にいる神官に勇者の召喚に失敗したと魔王の棲む森へと捨てられてしまう。 そして魔物に襲われかけたとき、小汚い男性に助けられた。けれどその男性が魔王だった。 魔王は百合を敵だと認識し、拘束して魔王城へと連れていく。 連れて行かれた魔王城はボロボロで出されたご飯も不味く魔王の生活はひどいありさまだった。 それから百合は美味しいご飯を作り、城を綺麗にし、魔王と生活を共にすることに。 一方、神官たちは本物の勇者を召喚できずに焦っていた。それもそう、百合が勇者だったのだから。 本人も気づかないうちに勇者としての力を使い、魔王を、世界を、変えていく。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

処理中です...