ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
352 / 896
第六章

6-4

しおりを挟む
 すっきりと晴れ渡った青空の下――

 どんよりと、足取り重く、渡されたメモを頼りに書店を目指すドロプウォート、パストリス、ニプルウォートとカドウィード。
 行きたくもない店に向かわなければ苦痛に加え、幼きチィックウィードの姿も無く、先陣切って歩くドロプウォートは当然の如く、
 
「はぁ~」

 不景気なため息。
 すると後に続くパストリスが、気遣いを交えた苦笑をしながら、

「仕方ないのでぇすよぉ、ドロプぅ」

 巻き添えである筈のカドウィードも、

「そうですわよぉ。そんなに気にしたところで、子供とはそう言うものですわよぉ」

 何かしらの気遣いを見せたがニプルウォートは容赦なし。
 巻き添えを食わされた仕返しとばかり、

『しかしぃさ、あん時のアンタの「驚き顔」ぉったら、アハハハハ! 今思い出しても笑っちまうさぁ♪』

 噴き出し笑うと、気遣いを見せていた筈のパストリスとカドウィードも「ぷぷっ」と思い出し笑いを必死に堪え、ドロプウォートは羞恥で顔を真っ赤に、

『何も可笑しくありませんのでぇすわぁ!』

 恥ずかしさを憤慨で誤魔化した。
 彼女たちが屋敷を出る時、チィックウィードも一緒に行こうとしていた。
 しかし向かう先が、大人向けの書店と言う事もあり、ドロプウォートの両親から、

「「チィちゃんは「じぃじとばぁば」と御留守番してようねぇ~♪」」

 留守番を勧められたのであるが、ドロプウォートと離れ離れになる事にチィックウィードは即答で、

『イヤなぉ!』

 断固拒否。
 駄々をこねて見せる大泣きに、母ドロプウォートと父ラディッシュは、

「困りましてですわぁ~」
「男風呂に入れる訳にもいかないし困ったねぇ~」

 困惑を口にするも、そこはかとない「嬉し顔」。
 親として慕う娘に離れ離れを「泣くほど拒否」されては嬉しくない筈が無く、二人は「泣くほど懐かれている事実」に目尻を下げたが、ドロプウォートの父親が次に語った一言が、状況を一変させた。

『チィちゃん、じぃじとお買い物に行かないかい?』
(!)

 ピタリと泣き止むチィックウィード。

((え?))

 驚く両親(仮)を前に幼子は、涙目の上目遣いで、

「ばぁばもぉ?」
「モチロン、わたくしも一緒ですわぁ♪」

 ドロプウォートの母親は笑顔で頷き、

「チィちゃんが欲しい物を、何でも買いに行きましょうねぇ♪」

 すると、

『パパぁ! ママぁ! いってらっさぁ~い♪』

 満面の笑顔で両親(仮)に手を振り、ドロプウォートの両親にしがみついた。
 愛娘からの見事な掌返しに、

『『ッ!?』』

 絶句するラディッシュとドロプウォート。
 ニプルウォートは、この時の「彼女の驚き顔」を思い返して愉快そうに笑いながら、
「まぁチィの承諾も得たんだぁ今日は久々、大人だけで楽しくやろうさぁ♪」
 憤慨顔の彼女の肩に腕を回したが、何かに目を留め、

「まぁ、その、なんだ……「楽しめれば」の話しだがなぁ……」

 急激に表情を曇らせ、

「「「「…………」」」」

 立ち尽くす女子四人。
 物言いたげな表情で見上げた先にあったのは、ドロプウォートの母親から紹介された書店。
 貴族御用達の書店とは聞いていたが、店構えは想像以上の重厚な作りで、重厚な中にも洒落た模様や、装飾が施してあり、喫茶スペースも兼ねているのか、店の前にはこじゃれたテラス席までも。
 眩いばかりのセレブ感満載の店構えに、

((((…………))))

 気圧され、尻込みする、心は庶民のドロプウォート、パストリス、ニプルウォートにカドウィード。
 しかもタイプは各々違えど、根は「共通したコミュ障」であり、

「「「「…………」」」」

 誰が先陣を切って入店するか、押し付け合いのアイコンタクトで激しい鍔迫り合いを展開していると、
「!」
 気付いたメイド服姿の店員が扉を開け、

『お帰りなさいませぇ、お嬢様方ぁ♪』

 その光り輝く、春の太陽の如き温かな笑顔に、

(まっ、眩し過ぎでぇすわぁあぁ!)
(ボクと住んでぇる世界が違うのでぇすぅうぅ!)
(ウチの穢れた心が浄化されて逝くようさぁあぁ!)
(ここはアタシが足を踏み入れてぇ良い場所ですのぉおぉ!)

 後退ったが、「コミュ障」が「リア充」に「どうぞ」と扉を開けられて逃げ出す勇気がある筈も無く、
((((…………))))
 互いの顔色を窺い合った四人は身を小さく縮め、恐縮し合いながら静々と入店した。
 明らかに挙動不審な女子四人。
 メイド服姿の店員は満面の営業スマイルながら、

(えぇ~と……お店に入れて大丈夫なお客様……?)

 一抹の不安を覚えていた。
 店の中も、外観と同様に重厚な作り。
 本棚も庶民街の書店にある様な、重さに耐え兼ね「歪んだ棚板」など有る筈も無く、枠には優美な彫刻まで施され、置かれた棚の中は様々な書籍が隙間なく詰まっていた。
 加えて、店内に居る客も一目見ただけでソレと分かる、セレブリティーな層の女性の面々。
 圧倒的セレブ感を前にしたドロプウォートは小声で、

(も、もぅお腹いっぱいですわぁ……)

 こぼす様に呟くと、

(珍しく気が合うねぇ、ウチもさぁ……)

 ニプルウォートも同意を示し、カドウィードも早々に疲弊した様子で、
(アタシも、)
 頷こうとしたがパストリスの姿が見当たらず、

(パストさぁんは?)

 店内を見回すと、
((居ない?))
 気付かされた二人も店内を見回し、

(((!)))

 一人離れ、一冊の本を食い入る様に読みふける彼女の姿に目を留めた。
(((?)))
 傍らに歩み寄るニプルウォートたち、女子三人。
 小声で、
(何か面白い本でもあったのかぁい? こぉんな御堅そうな店にさぁ♪)
 セレブ感に対する皮肉を込めた物言いで横顔を覗き込むと、パストリスが驚きを交えた顔を上げ、

「まっ……」
「「「ま?」」」
「マツムシソウ先生の新刊……なのでぇす……」
「「「…………」」」

 言われた言葉に、思考が追いつかない三人。
 同人誌と無縁な世界で生きて来たカドウィードが「は?」となるのは当然であるが、その一方で、

『『何でぇすとぉ!!!』』

 衝撃を受ける、ドロプウォートとニプルウォート。
 先入観から見るのも憚(はばか)っていた本を、食い入るように見るなり、

『オミナエシ先生の新刊ですワぁ!』
『こっちはオトコエシ先生の新刊サァ!』

 同人誌に造詣が深い女子三人は「まさか」と思いつつ、店内に置かれた書籍を片っ端から我も忘れて確認して回り、

(((同人誌ばかりぃいぃぃ!!!)))

 悦に入り、

『『『ここは楽園(なのでぇす・ですわ・さぁ)♪』』』

 店構えからは到底想像も出来なかった「同人誌専門店」であるのを知った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...