ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-5

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 未入手の、数々の経典(新刊)を前に有頂天のドロプウォートであったが、対して「とある事実」に気付くニプルウォート。
 笑顔が止まない彼女に、

「なぁドロプ」
「なぁんでぇすのぉ♪」
「アンタの「ナイショの嗜好」ってさ……実は「親バレ」してんじゃないのさ?」

『へぇっ?!!!』

 固まる彼女に追い打ちをかけるが如く、新刊を手にしてホクホク顔したパストリスが他意無く、

「でぇすでぇすねぇ♪ そぅじゃなかったら、こんなイイお店を紹介してくれる筈がナイのでぇす♪ 流石はドロプの「ママさん」なのでぇす♪」

 驚愕の真実に、
(わっ、ワタクシの「GL系好き」が実は両親に知れていてぇ!!!?)
 秘め事を親に知られていた事実を知った時ほど恥ずかしい物は無く、何食わぬ顔した二人の顔が急に思い出されるや恥ずかしさは倍加し、

『いやぁああっぁぁでぇすわぁぁぁあっぁぁぁあぁ!!!』

 耳まで真っ赤に頭を抱えていた頃、男二人は、

『『はぁ~~~♪』』

 とろけた顔して湯船に浸かり、

「たまにはイイっすねぇ~、ラディの兄貴ぃ~♪」
「本当だねぇ~足を伸ばして湯船に浸かる……最っ高だぁねぇ~♪」

 至福の時間を過ごしていた。
 するとターナップが何かに目を留め、

「ラディの兄貴ぃ、アレぁ何スかねぇ?」
「ん?」

 視線の先を辿ったラディッシュは、何かの扉を目にして何の気なしに、

「サウナだねぇ」
「さうな?」

 聞き返されてハッとし、

「え? サウナって……何?」
「へっ?! いや、俺に聞かれても……」
(兄貴のあるある。たまにするこの反応、毎度返しに困るよなぁ~)

 思わず苦笑していると、扉が開き、解放された多量の湯煙と共に汗だくの男たちが続々と出て来て、
「あぁ~「蒸し風呂」っスねぇ」
 得心が行くターナップ。
 同時に何か思いついた様子で、

「ラディ兄貴ぃ!」
「?!」
「オレとぉ「我慢比べ」してみぁせんかぁ♪」

 ニヤリと笑う顔に、
「ふっふっふっ。面白そうだねぇ♪」
 ラディッシュも不敵な笑みを返し、

『『行(こう・きやしょう)か♪』』

 二人は湯船から上がると、サウナルームへ向かった。
 扉を開けると入室を拒まれるが如く、呼吸がし辛くなるほどの蒸気が鼻を、喉の奥を突いたが、それ以上に、

『!』

 思わず足を止め、石の様に固まるラディッシュ。
 気付いたターナップが振り返り、
「どうしたんスかぁ、ラディの兄貴ぃ?」
 すると青い顔したラディッシュが数歩後退り、

『ぼっ、僕やっぱり「のぼせそう」だから先に出てまぁすぅうぅぅ!』

 足早に、逃げる様に脱衣所へ一直線、風呂場から出て行ってしまった。
「?」
 ポツンと残されるターナップ。
(どうしちまったんだぁ兄貴は?)
 不思議そうに思っていると、

『おい、そこの兄ちゃん』

 サウナルームの奥からドスの利いた声が。
「?」
 振り向くと、そこには汗だくの「イカツイ顔」した漢達が所狭しと座り、
「入るなら入るで、早く閉めねぇか」
 鋭い視線を一斉に飛ばし、ラディッシュが逃げ出した理由は一目瞭然であったが、ターナップは平然と、批判は当然とばかり、

「悪りぃ悪りぃ、今閉めるわぁ」

 扉を閉め、何食わぬ顔して空き席に座り、
(にしてもぉ兄貴は急にどうしちまったんだ?)
 すると彼の「肝の据わり」が気に入ったのか、開けっ放しに気を悪くしていた漢達が幾分柔和になった物腰で、

「よう兄ちゃん、何処から来たんだぁ?」
「イイ体つきしてんなぁ、軍人か?」
「さっきの頼りねぇのありぁ、舎弟かぁ?」

 気さくに色々と話しかけて来た。
 話しかけられたターナップも、物怖じする様子も無く、
「南にある村からっスよぉ。ガラじゃねぇとはよく言われるんスけど、こう見えて俺ぁ司祭なんス♪」
 気さくに応じると、イカツイ漢の一人がニヤリと笑い、

「じゃぁ兄ちゃん、そろそろ勝負といくかぁ?」

 他の漢達もニヤリと笑うと、意図を察したターナップも「了解の意」を以てニヤリと笑い返しながら、

「イイんスかぁ? そっちはオレが入る前から入ってたのに? それとも負けた時の言い訳っスかぁ?」
「言うねぇ♪」

 漢達は愉快そうに笑い、

「俺達は常連だからなぁ♪」
「これ位の差を付けてやらねぇと、勝負にならねぇからなぁ♪」

 ハンデを宣言。
 余裕を見せつけられたターナップも「クックック」と不敵に笑いながら、

『後悔させてヤンぜぇ♪』

 その頃、風呂から逃げ出したラディッシュは一人、当てなく町を歩いていた。
(タープさんを置いて来ちゃったけど、良かったのかな?)
 今更ながら反省したが、
(でも、あの「イカツイおじさん達」とは気が合いそうだから大丈夫かぁ)
 真理を見抜きながら、

(そう言えば一人で町を歩くのって初めてな気がする……初めてぇ?!)

 ハッとした。
 周囲に知らない人しか居ない町中に、たった一人である事実に。

(僕は今一人じゃないかぁあぁ!)

 急に心細くなり、
(どっ、どどどどどどうしよぅ! だからって、お屋敷に戻ってチィちゃんが帰って居るかも分からないしぃ)
 心を落ち着ける場所に思い至らず立ち尽くしていると、

(ねぇ、ちょと、あれ勇者様じゃない?)
(ホントだ。勇者様だぁ)
(何をしてるんだろぉ?)
(誰か話しかけて来いよぉ)
(お前が行けよぉ)
(イヤだよぉ。お前が行けよぉ)

 周囲からのサワサワとした、小声の話し声が次第に耳に。
『!?』
 我に返り見回すと、そこには遠巻きに取り囲む、数え切れない人の眼が。

 悪意の目を向けられている訳では無かった。

 しかしラディッシュの動悸は次第に早まり、足は震え、言い知れぬ冷たい汗がとめどなく背をつたい、
(何?! なんだよコレぇ??! 僕の体はどうしたんだぁ???!)
 彼の体と精神に来した異常状態の要因を一言で端的に言い表すなら、それは「恐怖」であったが、先にイカツイ漢たちを目の当たりにした時や、合成獣たちと対峙した時とは明らかに違う感覚に、

(何なんだよぉコレぇ?!)

 それは消された筈の「頭の記憶」ではなく、体の奥底、骨身に染み付いた、拭う事の出来ない「心の記憶」。
 自分が「何に怯えている」のか理解は出来なかったが、

(にっ、逃げなきゃぁ!)

 反射的に思うと、頭が理由を見つけるより先、体は逃げ出していた。
 群衆のど真ん中から、転がる様に抜け出し走り去る「世界を救った勇者の背」に、
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
 キョトンとするしかない町の人々。
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