ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-44

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 一夜明け――

 晴れ渡った青空の下、フルール国を目指してひた走る、勇者一行を乗せた馬車。
 その幌付き荷台の中では、

『かぁ~また負けたさぁねぇ~~~!』

 カードゲームに興じるイリスが、今日も連戦連敗街道を突き進んでいた。
 しかしその一方でゲームに付き合いながらも、
「「「「…………」」」」
 そこはかとなく「よそよそしい」と言えば良いのか、わだかまりの様な物を感じさせるパストリス達。

 その微妙な空気は荷台だけでなく、御者台の三人も。
「「「…………」」」
 異様な沈黙の中、ドロプウォートが場を気遣った作り笑顔で、

「きょ、今日も良い天気でぇ、良かったですわねぇ~ニプルぅ♪」

 反対側に座るニプルウォートも、ラディッシュを間に挟んで、

「お、おぅさぁ♪ 雨が降ったらカビが生えちまうからねぇ♪」

 微妙にかみ合わない会話。
「「…………」」
 そんな二人の間に挟まれた「無言のラディッシュ」こそが、この重い空気の発生源であった。

 二人の「お茶を濁した会話」も耳に届いていない様子で、前方の一点を見つめて手綱を握り、
「…………」
 少し暗い表情で何かに思い耽る姿に、イリスを除いた仲間たちは、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 掛ける言葉が見つけられず、

(((((ナニを、言われたんだろぉ……?)))))

 連敗に悔しがるイリスをチラ見、昨夜の出来事を思い返した。
 夕食後、女子会の効果か、イリスは和気あいあいとした女子トークに花を咲かせていたが、しばしの時間の後、

「さぁてぇ♪」

 やおら笑顔ですっと立ち上がり、弾んでいた会話の突然の中座に、
(((((?)))))
 女子組が「何事か」と見つめる中、彼女はラディッシュとターナップ男子組の下へ歩み寄り、

「なぁ、ラディ」
「?」
「ちょいと、ツラぁ貸してくれないさぁねぇ♪」
「う、うん……イイけどぉ……?」

 立ち上がるとイリスは森の奥へと歩き始め、彼も後に続いた。
 にわかにザワつき始める仲間達。

(な、何ですのぉ……?)
(何だい……?)
(なんなんでぇす……?)
(何でありんしょう……?)
(パパとイリおねぇちゃん、ケンカなぉ……?)
(兄貴……)

 何ごとか会話を交わしながら森の奥へと消えて行く二つの背を、心配、不安、嫉妬など、様々な感情を、五者五様に交えながら見つめていたが、

『『『『『!!!?』』』』』

 次の瞬間、五人はギョッとした。
 イリスが突然、ラディッシュの胸倉を掴み上げ、彼の背を巨木に叩き付けたのである。

 何がきっかけでその様な事態になったのか、聞き取れなかった会話からでは推測不明であるが。
只ならぬ二人の空気は何人(なんぴと)の介入も許さぬ気配を持ち、幼いチィックウィードでさえ、そのヒリついた空気に駆け寄る事が出来ずにいた。

 二人の間で、どの様な会話が交わされたのか。

 本人達が語らぬ以上、仲間たちに知る術(すべ)は無く、モヤモヤした気持ちを抱えたまま現在に至っていた。
すると重々しい空気の中、唐突に、

『昨日は悪かったぁさねぇ、ラディ♪』

 荷台のイリスが満面の笑顔で何の前振りもなく、御者台のラディッシュの背後から抱き付き、ドロプウォートとニプルウォートがギョッとした一方で、背中に感じた小ぶりながらも確かな二つの「柔らかな膨らみ」に、

『うわぁああぁぁあ!』

 驚いた彼は操作を誤り荷馬車は激しく揺れ、危うく振り落とされそうになる御者台の四人と、荷台で転がる仲間たち。
 しかし、馬車は辛うじて転倒を免れ、

『しっ、死ぬかと思ったぁさぁねぇ』

 真っ青な顔するイリスに、

『『『『『『『それはこっちのセリフだぁ!!!』』』』』』』

 勇者組は苦笑の一斉ツッコミ。
 すると彼女は、流石に少々バツが悪そうに「ははは」と笑って見せながら、

「いやぁ~凹んでるラディを励まそうと思ってさぁねぇ~、昨日ちぃとばっかキツめに叱っちまったからさねぇ♪」
((((((しかった?))))))

 仲間たちの疑問をよそに、ラディッシュは静かに首を横に振り、
「イリィは悪くないよ」
 前置きをした上で、

「僕こそ、暗い顔をしててゴメン。勇者が仲間たちを不安にさせちゃいけないよねぇ」

 仲間たち一人一人の顔を見回し、
「みんなに心配かけないように、勇者としてもっと頑張るから……って言っても何を、どう頑張れば良いかは分かんないけどね♪」
 いつも通りの笑顔に、

「「「「「「…………」」」」」」

 一先ずの安堵を得る仲間たちであった。
 とは言え、二人の間で何が話されたかは結局分からず仕舞い。
 馬車はそれぞれの想いを乗せ、フルール国を目指してひた走った。
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