ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
391 / 895
第六章

6-43

しおりを挟む
 呆気にとられる彼女たちを尻目に、ドロプウォートは気恥ずかしそうに顔を赤らめながら、

「だっ、だってぇ、これから向かうのは同人誌の総本山、フルール国ですわのよぉ! イリィが「同志となり得(う)る」か否かぁ、いかな嗜好が「琴線に触れる」のかぁ、気になるではありませんかぁ!」

 すると、
「プッ!」
 ニプルウォートが小さく噴き出し笑いをしたのを皮切りに、仲間たちは束縛から解放された様に笑い出し、

「へ?! え??! なっ、何ですのぉこの笑いはぁ???!」

 戸惑う彼女を前に、

『いやぁ~ドロプぅ~アンタぁやるさぁねぇ~アタシぁてっきりぃ♪』
『まさかぁ「この時宜」にぃ、流石のウチもそぅ来るとは思わなかったさぁ♪』
『ドロプさぁん、スゴ過ぎなのでぇすぅ♪』
『まったくにぃありんすなぁ♪』

 女同士のプライドを賭けた緊張の場は一転。
「え? え?? えぇ???」
 理解の追い付かない様子の彼女を置き去りに、明るい笑いに包まれ、その頃、筋書きのない愛憎劇に出演中のターナップは、

(もぅ勘弁してくれぇ~)

 オールアドリブでありながら、徹底したリアリティーを追及する演者兼監督チィックウィードからの厳しい演技指導の数々の下、いつ終わるとも知れない「生き地獄(おままごと)」に晒され、

(ラディの兄貴ぃ~助けてくれぇスぅ~)

 救いを求める視線を送ったが、飯の支度に取り組むラディッシュは、
(…………)
 済まなそうにサッと眼を背け、

(ゴメンなさいタープさぁん! 頑張ってぇ! 骨は、拾ってあげるからぁ)
(兄貴ぃ~そりゃ無ぇっスよぉ~)

 嘆きの眼をした途端、

『ヨソミはゲンキンなぉ! シュウチュウするなぉ!』

 チィックウィード監督からのダメ出しが。
(…………)
 精神的疲弊が著しいターナップ。

(姉さん方ぁ~早く帰って来て欲しいっスぅ~)

 空に向かって懇願していた時、イリスは少々お疲れモードで、
「・・・・・・」
 何かに、耳を傾けていた。
 彼女は、女子組から「推しの作家の作品」のプレゼンテーションを、代わる代わる受けている真っ最中だったのである。

 ドロプウォート(GL)、ニプルウォート(BL)、カドウィード(制服物)の順で、それぞれから神回(かみかい)を使った説明を受けながら「数ページ読む」を繰り返しながら、

(何がそんなに、イイのかぁねぇ~)

 今一つ心に響かない中、パストリスの番。
 仲間内からは「ハチミツに砂糖をまぶした様だ」と揶揄され、評判は芳しくなかったが、

(エルブの国の本屋さんで発掘したぁ、この新人作家「ユリユリさん」の本ならぁ間違いないのでぇす!)

 満を持してプレゼンテーションに挑み、熱く語り、そして尽くし、一仕事終えたような満たされた表情で、

『どぅ~でぇすかぁ、イリィ! そしてぇ皆さぁんもぉ♪』

 熱を以て語り過ぎ、少々呼気の荒いパストリスであったが、仲間たちは、
「ど、どぅと言われてましてもぉ……」
 ドロプウォートが口籠る一方で、ニプルウォートが少し青い顔して、

「ウチ、ちょっと胸ヤケが……大量の砂糖をまぶしたハチミツを煮込んで「更に濃縮した」みたいさ……」
「えぇ!? 何でぇなのでぇすぅ!」

 憤慨する彼女に、カドウィードも体調悪そうに胸元を擦りながら、

「聞いてる方が気恥ずかしくなるほどぉ……「ウブ過ぎ本」にぃありんすなぁ……」

「むぅ! ボクは皆さぁんの感性を疑うなのでぇす! 皆さんの心は穢れているのでぇすぅ!」

 パストリスは立腹したが、同志を求める彼女は「一転した笑顔」をイリスに向け、

「イリィは、どうでしたぁ♪」

 顔を寄せると、
「!」
 彼女は一瞬、ビクッとしてから、
「えっ、えぇ~と、さねぇ……」
 気マズそうに視線を逸らし、

「まっ、まぁ、好みは人それぞれ、さぁねぇ……」
『のぉ!!!?』

 慄くパストリス。
≪同志獲得ならず≫
 誰からの賛同を得られず、

「そぅ……なのぉでぇすかぁ……」

 寂しげに微笑んだが、この時イリスは、
≪ゴメンよぉ、パスト!≫
 何故、彼女が心の中で謝罪したのか。

 それは、プレゼンテーションされた数々の作品の中で、唯一心を、激しく揺さ振られたのが「彼女が推した本」だったから。
 イリスは、パストリスの同志としての扉を開いていた。
 イリスの心根は、パストリスと良い勝負の「無垢なる乙女」だったのである。
 無自覚に閉ざされていた彼女の扉は、今、「気付き」と「解放の時」を迎えたのであったが、

(いっ、言える訳が無いさぁねぇ!)

 その理由とは、
≪こんな「ガラッパチ」なアタシがぁ、何も知らない「純粋ド生娘」みたいな本がぁ、実は「大好物」だったなぁんてぇねぇ!≫
 当人が「自身のキャラ」を自覚しているが故に、そのギャップ差から打ち明けられずにいたのが真相であった。

 彼女は「目覚めてしまった嗜好」をひた隠し、
「ざぁ、残念ながらアタシの琴線に触れる本は、一つも無かったさねぇ~」
 聖典と気付いた本に対する罪悪感と、同志に対する自責の念に苛まれながら、表面上は平静を務めながら、プレゼンテーションの数々で凝った体をほぐす様に背伸びをしながら、

「さぁ~てぇ、そろぉそろぉ戻るとするさぁねぇ~」
「「「…………」」」

 些か残念そうな顔を見合わせるドロプウォート、ニプルウォート、カドウィード。
 パストリスと同様に、同志獲得とはならなかったから。

 しかし、内に隠した「秘め事」を晒した結果、イリスとの心の距離は確実に縮まり、

「ですわねぇ。チィちゃんが心配ですし、戻りましょうですわぁ♪」
「だなぁ。話し込んでたら、小腹が空て来ちまったしさぁ♪」
「旦様にぃ、焼き菓子でも用意して頂きんしょぅ♪」
「賛成なのでぇすぅ♪」

 女子組は、ラディッシュ達の下へ戻って行った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

処理中です...