ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-54

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 連日漫画化作業に明け暮れて数日後――
 
 ラディッシュ達はフルール国と呼ばれるに相応しい芳しき香り立つ、色とりどりの花が咲き乱れる、城内に設けられた空中庭園に居た。
 暖かな陽射しが降り注ぐ青空の下、穏やかな表情でラディッシュが見守る前で「普通の女の子」と何ら変わらぬ笑顔ではしゃぐチィックウィードとパストリス。
 
 麗しい絵画の一枚となりうる光景であった。
 着ている服が、緑と青のジャージ姿でさえなければ。
 
 納期が迫るさ中ではあったが仲間たちも久々の休暇を謳歌するが如く、各々ゆったりとした時間を楽しんでいた。
 作業に連日追われ、疲労が蓄積していたラディッシュ達を気遣った、女王フルールの計らいである。
 無論、単なる慰労ではなく、疲労による作業効率低下が著しかったラディッシュ達の、作業効率回復を目論んでの計算も含まれてはいたが。

 愛らしい愛娘(仮)の楽しげな様子を、こじゃれたガーデンベンチに一人座って微笑ましく眺める緑ジャージのドロプウォート。
 そんな彼女の下へ緑ジャージのイリスがやって来て、

『よぅ、ドロプぅ♪』

 ニッと笑った笑顔でベンチの空き空間に、強引に尻をねじ込み、ドロプウォートは呆れ顔してため息交じり、
「淑女にあるまじき行為ですわよ、イリィ」
 横に移動しながら「大人の女性として」の苦言を呈すと、彼女は愉快そうに「シッシッシッ」と笑いながら、
「アタシが淑女ってガラさぁねぇ~♪」
 笑いながらも、急に、何の前振りも無く、

「それよりアンタ、ラディを諦めっちまうつもりなのさねぇ?」

『のぉほわぁ?!』

 素っ頓狂に驚くドロプウォート。
 何の「心の構え」もしていなかった核心に、いきなり踏み込まれ。
 動揺露わに狼狽えながらも、
「なっ、何を言ってますのぉ。わ、ワタクシは別に、」
 平静を装ったつもりが、

「ホラ出たさねぇ!」
「?!」
「今「ワタクシ」っつったさぁねぇ」
「!」

 彼女が一人称を「ワタクシ」と言う時は、平静な判断を失うほど動揺している証。
 指摘は以前にも受け、本人も分かっていたつもりが、分かっていてなお、無意識に発してしまった事が更なる動揺を呼び、

「いえぇ! あのぉ! そのぉ!」

 弁明の言葉さえ見出せずに居ると、イリスはそんな彼女をフッと小さく笑いながら、
「アンタが身を引こうが引くまいが、それぁ「アンタの勝手」さぁねぇ……だがねぇ」
 イリスは毅然とした目を彼女に向け、

「それが「アタシやラディの為」だとか思ってんならぁ、止めてくんないさぁねぇ」
(?)
「ソイツはアンタに「都合のイイ言い訳」でアタシにとっちゃぁイイ迷惑なのさねぇ」
(ッ!)

 ズバッと斬り捨てられギョッとするドロプウォート。
 堪らず、
「わっ、私は別に! 本当に……何も……そんなつもりでは……」
 次第にうつむき口籠ると、

「アタシにぁ「勝てない」と、踏んでの事かぁい?」
『ッ!』

 思わず顔を上げるドロプウォート。
 図星を突かれた勢いで期せずしてイリスの眼を見てしまうと、彼女は小馬鹿にした笑顔でありつつも、そこはかとなく優しさを感じさせる眼と声色で、

「アンタも大概「お馬鹿さん」さぁねぇ~」
「んなぁ?! わっ、私の何処が、」
「何処がじゃないさねぇ考えてもみぃなやぁ」
「え?」
「ラディが見ているのは、本当に「アタシ」なのかぁい?!」

「!」

「そうさねぇ、違うだろぅ? アイツが本当に見ているのは「アタシの影の方」さぁねぇ」

 小さい苦笑で以て、

「そんくらい、アタシぁ似てるんだろぅ?」
「…………」
「アタシぁ何処まで行っても永遠に「ラミウム様の代わり」なのさねぇ。ラディに「その自覚が有るのか」までは知らないけどねぇ。アタシぁそんなんは、まっぴら御免さぁねぇ」

 イリスは立ち上がり、

「今のアタシにぁそんな「御門違いな想い」を知った上で受け入れる覚悟、なんてモンはありゃぁしないのさぁねぇ~」

 辟易笑いで首を横に振りながら、
「まぁ、アタシが言いたかった事はそん位でぇ、」
 何かに目を留め、

「アンタも、たまにぁアイツくらい正直になってもイイんじゃぁないさねぇ?」

 見つめた先に居たのは、ナース服姿で白昼堂々ラディッシュに迫るカドウィード。
 そこへ、困惑笑いで後退る彼を救うべく僧侶ターナップが駆け付け「人としての有りよう」を、とくとくと説法を開始。
 すると、ため息交じりの彼女は一瞬にして「ナース服⇒チャイナ服」に衣装替え、再びラディッシュに迫ろうとし始め、
 
『そこ(服)の問題じゃねぇ!!!』

 即ギレするターナップ。
 その様を目の当たりにしたイリスは、

「まぁ……そぉ……なんだ……あそこまで「成り下がれ」とは言わないがねぇ……」

 参考にしろと言った事に後悔を感じさせる物言いで振り返り、

「後はアンタの、好きにおし」
「…………」

 言い残すと、パストリスと戯れるチィックウィードに、

『チィ坊ぉ! 花冠の作り方を教えてやろうかぁ?』

 笑顔で去って行き、
「…………」
 その背を、黙って見送るドロプウォート。
(私は別に諦めた訳でも、身を引いた訳でも……ただ……ただ?)
 ただ何であるのか「頭と心の整理」がつかず、自身の真意を見つけられずにいると唐突に、

『イリスぁ自覚があるのかねぇ~?』
「?」

 ニプルウォートがやって来て、

「気付いたか、ドロプ」
「何をですの?」
「アイツさっき「今のアタシには」って言いやがったさ♪」
「!」
「自覚して言ったとしたら、とんだ「強敵の登場」さ」

 ケラケラと笑う彼女に、ドロプウォートは毒気を抜かれた様子でクスッと小さく笑い、

「貴方は強いですわね、ニプルぅ」
「そうかい?」
「だって何やら嬉しそうですものぉ」

 すると彼女はニカッと笑い、

『おぅさ! フルール国のオンナは敵が強いほど「燃える」のさぁ♪』

 女傑集団の元騎士らしい気概を見せた。
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