ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-114

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 イリスが旅立ってどれくらいの日が経過したであろうか――

 暗闇の中から、
「う……うぅん……」
 ゆっくりと両眼を開け始める、とある女性。
(わたくし……眠っていまして……? 何か……何かとても長い夢を……)
 視界が開け始めると同時、

『おぉ~イリスやぁ! 私が分かるかぁ!』
『母が分かりましてぇ、イリスぅ!』

 感涙にむせぶ、豪奢な衣服を纏った年配の男女に、
「お父……様ぁ? それと、お母様?」
 目覚めた女性が記憶をたどる物言いをすると、年配の男女は喜びを堪え切れない様子で彼女に抱き付き、

「そうだよイリス! 私だ、父だぞ!」
「そうですよぉイリス! 母ですよぉ!」

 感動のあまり言葉が続かない様子で、二人はただただ涙した。
 目覚めた女性は、毒殺された筈のイリス皇女であった。
 しかし自身の置かれた状況が、今一つ把握できない皇女イリス。

「わたくしは……眠っていましたの?」
(どなた方と冒険をしていたような……あれは夢?)

 目覚めたばかりで夢と現実のはざまを惑う彼女に、父であるアクア王は驚いた様子で、
「何も覚えておらぬのか?!」
 王妃も、
「貴方は毒を盛られたのですよぉ、卑劣なディモルファンサの手によってぇ」
『毒を!?』
 慄く皇女イリス。

「なればわたくしは何故に生きておりますの?! お医者様方の御尽力?!!!」

 体に異状を感じず小首を傾げる愛娘に、国王は静かに首を横に振り、
「勇者様方の御蔭だ」
「勇者様……がた?」
 王妃も涙ながらに、
「そうなのですわぁ。勇者様方が、毒によって汚染された貴方の体を天法により浄化して下さり、命まで呼び戻して下さったのですわぁ!」
 母の言葉に上品に、

「勇者様が?!」

 驚き大きく開いた口を両手で隠し、
「それはなんと御礼を申せばよろしいのか……それで勇者様はどちらに?!」
「もう旅立たれてしまわれた」
「まぁ!」
「アクア国の現状をエルブ国国王と同盟諸国に伝え、我が国も傘下に加えるよう進言して下さるそうだ」
「ではアクア国も四国同盟の庇護下に?!」
「そう言う事じゃ。不安定な今の世情において、これほど心強い話は無い」
「素晴らしい事ですわぁ、ねぇお父様♪ お母様♪」
「あぁ、まったくじゃ」
「ですわね」
 喜びを分かち合う中、会った事も無い筈の相手に、

(勇者様……)

 何故か懐古にも似た感覚を覚え、
(これが「既視感」と言う物ですの?)
 皇女イリスは不思議な感覚を抱きつつ、窓から望む青空を見上げた。


 その頃ラディッシュ達は――

 同じ青空の下、アクア国国王が話していた通りエルブ国を目指し、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 乗り合いボートに乗って南下を続けていた。

 一先ず向かうは、アクア国国境。
 すっきりと晴れ渡った空に似た「陰りのない笑み」を浮かべながら。

 終点で下船し、次の乗合ボートの乗り場まで歩いて移動するさ中、ニプルウォートがおもむろ、からかいを多分に含んだ物言いで、
「しっかし、これで良かったのかラディ?」
「何が?」
「王様の願い通り城に残ったら、アクア国の次期国王に、逆玉狙いが出来たのにさぁ♪」
「あははは、よしてよニプルぅ♪」
 ラディッシュは困惑交じりに笑いながら、

「僕の柄じゃないよぉ~それに……」
「それに、何ですわの?」

 口籠った横顔を、ドロプウォートが覗き込むと、
「えぇと……その……」
 何ごとかを口にしかけて、

「ううん。何でもない♪」

 笑ってお茶を濁した。
「「…………」」
 女子二人も彼の複雑な心中を察して黙したが、空気を読まずに蒸し返す人物が、

『しっかし、ホントにこれで良かったんスかねぇ~』

 ターナップである。

((この脳筋男はぁあ!))

 気遣いの沈黙を破られた苛立ちを覚える女子二人を尻目に、彼は聞き耳を立てる第三者が周囲に居ないか確かめる「それなりの気遣い」は見せながら、
「俺はぁ何か後ろめたいっスよぉラディの兄貴ぃ~何せ、あの皇女様の正体は、」
 口にしかけた言葉を笑顔のラディッシュは、

「そこから先は言いっこなしだよ「タープさぁん」♪」

 あえての「さん付け」で制し、
「人が生きて行くには何かしらの「心の支え」が必要な訳で……この秘密は、僕達が墓の下まで持って行けば「誰も悲しまずに済む話」だよ♪」
 優しく諭す姿に、ドロプウォート達も同意を示すように大きく頷いたが、

「そ、そうかも知んねぇっスけど……」

 ターナップは割り切れない様子を窺わせた。
 それは彼の、聖職者としての惑い。

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