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第六章
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イリスが旅立ってどれくらいの日が経過したであろうか――
暗闇の中から、
「う……うぅん……」
ゆっくりと両眼を開け始める、とある女性。
(わたくし……眠っていまして……? 何か……何かとても長い夢を……)
視界が開け始めると同時、
『おぉ~イリスやぁ! 私が分かるかぁ!』
『母が分かりましてぇ、イリスぅ!』
感涙にむせぶ、豪奢な衣服を纏った年配の男女に、
「お父……様ぁ? それと、お母様?」
目覚めた女性が記憶をたどる物言いをすると、年配の男女は喜びを堪え切れない様子で彼女に抱き付き、
「そうだよイリス! 私だ、父だぞ!」
「そうですよぉイリス! 母ですよぉ!」
感動のあまり言葉が続かない様子で、二人はただただ涙した。
目覚めた女性は、毒殺された筈のイリス皇女であった。
しかし自身の置かれた状況が、今一つ把握できない皇女イリス。
「わたくしは……眠っていましたの?」
(どなた方と冒険をしていたような……あれは夢?)
目覚めたばかりで夢と現実のはざまを惑う彼女に、父であるアクア王は驚いた様子で、
「何も覚えておらぬのか?!」
王妃も、
「貴方は毒を盛られたのですよぉ、卑劣なディモルファンサの手によってぇ」
『毒を!?』
慄く皇女イリス。
「なればわたくしは何故に生きておりますの?! お医者様方の御尽力?!!!」
体に異状を感じず小首を傾げる愛娘に、国王は静かに首を横に振り、
「勇者様方の御蔭だ」
「勇者様……がた?」
王妃も涙ながらに、
「そうなのですわぁ。勇者様方が、毒によって汚染された貴方の体を天法により浄化して下さり、命まで呼び戻して下さったのですわぁ!」
母の言葉に上品に、
「勇者様が?!」
驚き大きく開いた口を両手で隠し、
「それはなんと御礼を申せばよろしいのか……それで勇者様はどちらに?!」
「もう旅立たれてしまわれた」
「まぁ!」
「アクア国の現状をエルブ国国王と同盟諸国に伝え、我が国も傘下に加えるよう進言して下さるそうだ」
「ではアクア国も四国同盟の庇護下に?!」
「そう言う事じゃ。不安定な今の世情において、これほど心強い話は無い」
「素晴らしい事ですわぁ、ねぇお父様♪ お母様♪」
「あぁ、まったくじゃ」
「ですわね」
喜びを分かち合う中、会った事も無い筈の相手に、
(勇者様……)
何故か懐古にも似た感覚を覚え、
(これが「既視感」と言う物ですの?)
皇女イリスは不思議な感覚を抱きつつ、窓から望む青空を見上げた。
その頃ラディッシュ達は――
同じ青空の下、アクア国国王が話していた通りエルブ国を目指し、
「「「「「「「…………」」」」」」」
乗り合いボートに乗って南下を続けていた。
一先ず向かうは、アクア国国境。
すっきりと晴れ渡った空に似た「陰りのない笑み」を浮かべながら。
終点で下船し、次の乗合ボートの乗り場まで歩いて移動するさ中、ニプルウォートがおもむろ、からかいを多分に含んだ物言いで、
「しっかし、これで良かったのかラディ?」
「何が?」
「王様の願い通り城に残ったら、アクア国の次期国王に、逆玉狙いが出来たのにさぁ♪」
「あははは、よしてよニプルぅ♪」
ラディッシュは困惑交じりに笑いながら、
「僕の柄じゃないよぉ~それに……」
「それに、何ですわの?」
口籠った横顔を、ドロプウォートが覗き込むと、
「えぇと……その……」
何ごとかを口にしかけて、
「ううん。何でもない♪」
笑ってお茶を濁した。
「「…………」」
女子二人も彼の複雑な心中を察して黙したが、空気を読まずに蒸し返す人物が、
『しっかし、ホントにこれで良かったんスかねぇ~』
ターナップである。
((この脳筋男はぁあ!))
気遣いの沈黙を破られた苛立ちを覚える女子二人を尻目に、彼は聞き耳を立てる第三者が周囲に居ないか確かめる「それなりの気遣い」は見せながら、
「俺はぁ何か後ろめたいっスよぉラディの兄貴ぃ~何せ、あの皇女様の正体は、」
口にしかけた言葉を笑顔のラディッシュは、
「そこから先は言いっこなしだよ「タープさぁん」♪」
あえての「さん付け」で制し、
「人が生きて行くには何かしらの「心の支え」が必要な訳で……この秘密は、僕達が墓の下まで持って行けば「誰も悲しまずに済む話」だよ♪」
優しく諭す姿に、ドロプウォート達も同意を示すように大きく頷いたが、
「そ、そうかも知んねぇっスけど……」
ターナップは割り切れない様子を窺わせた。
それは彼の、聖職者としての惑い。
暗闇の中から、
「う……うぅん……」
ゆっくりと両眼を開け始める、とある女性。
(わたくし……眠っていまして……? 何か……何かとても長い夢を……)
視界が開け始めると同時、
『おぉ~イリスやぁ! 私が分かるかぁ!』
『母が分かりましてぇ、イリスぅ!』
感涙にむせぶ、豪奢な衣服を纏った年配の男女に、
「お父……様ぁ? それと、お母様?」
目覚めた女性が記憶をたどる物言いをすると、年配の男女は喜びを堪え切れない様子で彼女に抱き付き、
「そうだよイリス! 私だ、父だぞ!」
「そうですよぉイリス! 母ですよぉ!」
感動のあまり言葉が続かない様子で、二人はただただ涙した。
目覚めた女性は、毒殺された筈のイリス皇女であった。
しかし自身の置かれた状況が、今一つ把握できない皇女イリス。
「わたくしは……眠っていましたの?」
(どなた方と冒険をしていたような……あれは夢?)
目覚めたばかりで夢と現実のはざまを惑う彼女に、父であるアクア王は驚いた様子で、
「何も覚えておらぬのか?!」
王妃も、
「貴方は毒を盛られたのですよぉ、卑劣なディモルファンサの手によってぇ」
『毒を!?』
慄く皇女イリス。
「なればわたくしは何故に生きておりますの?! お医者様方の御尽力?!!!」
体に異状を感じず小首を傾げる愛娘に、国王は静かに首を横に振り、
「勇者様方の御蔭だ」
「勇者様……がた?」
王妃も涙ながらに、
「そうなのですわぁ。勇者様方が、毒によって汚染された貴方の体を天法により浄化して下さり、命まで呼び戻して下さったのですわぁ!」
母の言葉に上品に、
「勇者様が?!」
驚き大きく開いた口を両手で隠し、
「それはなんと御礼を申せばよろしいのか……それで勇者様はどちらに?!」
「もう旅立たれてしまわれた」
「まぁ!」
「アクア国の現状をエルブ国国王と同盟諸国に伝え、我が国も傘下に加えるよう進言して下さるそうだ」
「ではアクア国も四国同盟の庇護下に?!」
「そう言う事じゃ。不安定な今の世情において、これほど心強い話は無い」
「素晴らしい事ですわぁ、ねぇお父様♪ お母様♪」
「あぁ、まったくじゃ」
「ですわね」
喜びを分かち合う中、会った事も無い筈の相手に、
(勇者様……)
何故か懐古にも似た感覚を覚え、
(これが「既視感」と言う物ですの?)
皇女イリスは不思議な感覚を抱きつつ、窓から望む青空を見上げた。
その頃ラディッシュ達は――
同じ青空の下、アクア国国王が話していた通りエルブ国を目指し、
「「「「「「「…………」」」」」」」
乗り合いボートに乗って南下を続けていた。
一先ず向かうは、アクア国国境。
すっきりと晴れ渡った空に似た「陰りのない笑み」を浮かべながら。
終点で下船し、次の乗合ボートの乗り場まで歩いて移動するさ中、ニプルウォートがおもむろ、からかいを多分に含んだ物言いで、
「しっかし、これで良かったのかラディ?」
「何が?」
「王様の願い通り城に残ったら、アクア国の次期国王に、逆玉狙いが出来たのにさぁ♪」
「あははは、よしてよニプルぅ♪」
ラディッシュは困惑交じりに笑いながら、
「僕の柄じゃないよぉ~それに……」
「それに、何ですわの?」
口籠った横顔を、ドロプウォートが覗き込むと、
「えぇと……その……」
何ごとかを口にしかけて、
「ううん。何でもない♪」
笑ってお茶を濁した。
「「…………」」
女子二人も彼の複雑な心中を察して黙したが、空気を読まずに蒸し返す人物が、
『しっかし、ホントにこれで良かったんスかねぇ~』
ターナップである。
((この脳筋男はぁあ!))
気遣いの沈黙を破られた苛立ちを覚える女子二人を尻目に、彼は聞き耳を立てる第三者が周囲に居ないか確かめる「それなりの気遣い」は見せながら、
「俺はぁ何か後ろめたいっスよぉラディの兄貴ぃ~何せ、あの皇女様の正体は、」
口にしかけた言葉を笑顔のラディッシュは、
「そこから先は言いっこなしだよ「タープさぁん」♪」
あえての「さん付け」で制し、
「人が生きて行くには何かしらの「心の支え」が必要な訳で……この秘密は、僕達が墓の下まで持って行けば「誰も悲しまずに済む話」だよ♪」
優しく諭す姿に、ドロプウォート達も同意を示すように大きく頷いたが、
「そ、そうかも知んねぇっスけど……」
ターナップは割り切れない様子を窺わせた。
それは彼の、聖職者としての惑い。
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