ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-116

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 満を持し、部屋の中央で仁王立ちするドロプウォート。

『始めましょうですわ!』

 緊張した面持ちの仲間たちを硬い表情で見回し、
「「「「「「…………」」」」」」
 決意の「同意の頷き」を得た彼女は、

≪天世より授かりし恩恵を以て我は願う!≫

 その身を白銀の輝きに包み、

≪隔絶ッ!≫

 中世人の身でありながら、ラディッシュ直伝の「天世人の天技」を発動させた。
 室外の気配がまるで感じられなくなり、

「うぉほぉ~マジでやりやがったぁさ♪」

 からかい交じりではあるが、素直に感嘆するニプルウォート。
 天技に長けたフルール国随一の「天法使い」である彼女にそう言わしめたほど、ドロプウォートが完遂させた行為は常識外れであった。

 莫大な天法と精神力を消費する、天世人の御業。

 本来、中世人には行使も制御も不可能であり、しかも今回発動させた術に限って言えば、一般の天世人にさえ「行使不可能な御業」であった。

 他の仲間たちの力量も中世人の中では桁違いであるが故に忘れがちであるが、これが彼女の実力であり「英雄の先祖返り」と特別視、一部で危険視される由縁なのである。

 とは言え、負荷が全く無い訳ではない。
「ごめんね、ドロプ。無茶させて」
 ラディッシュが申し訳なく頭を下げると、
「大丈夫なのですわ、ラディ」
 ドロプウォートは疲労の色を滲ませながらも笑顔を交え、

「それに貴方には、チカラを温存していただきませんと。イリィと皇女様の身に万一があっては最悪なのですわ」
「うん。ありがとう」

 返す笑顔に、

『次は「ボクの番」なのでぇす♪』

 笑顔のパストリスが登場。
 ドロプウォートの完遂に「ボクも続く」と言わんばかりに腕まくりしながら「皇女イリスの亡骸」の傍らに屈んで両手をかざし、

≪天世より授かりし恩恵を以て我は願う≫

 その身を白銀の輝きに包み、

≪浄化!≫

 皇女の亡骸をも輝きで包み込んだ。
 地世の毒に汚染された体を清める間に、

『それじゃウチも準備にかかろうかねぇ~♪』

 ニプルウォートも「負けられないさ」と笑顔で腕まくり、
「タープ! イリィを隣に寝かしとくれぇ」
「あいよぉ」
 治療道具と称して担いでいた大荷物をターナップが広げると、中から出て来たのは、眠っているかのようなイリス。

 浄化中の皇女イリスの隣にそっと寝かせ、
「浄化が終わったなのでぇす♪」
 パストリスが額の汗を拭うと、

「さぁて次は「ウチの番」さぁ!」

 ニプルウォートが意気揚々、イリスと皇女イリスの額に右と左の手をそれぞれかざしたが、
「…………」
 眠っているかのように安らかな二人を前に、

(やっちまって本当にイイのかい……? ウチが天技を発動させた時点でラディ達が犯罪者に……)

 突き付けられた現実に息を呑み、緊迫の面持ちで肩越しにチラリと振り返り、

「本当にイイのか、ラディ? みんなも、さ。これがバレたらウチら罪人どころか「大罪人」として天世や中世から追われる身に、」
『僕は構わない』

 ラディッシュは問い掛けを遮るように答え、
「もう誰も失わない失わせないって、決めたから」
 表情からも揺るぎない決意を窺わせた。
 しかし、

「でも……」

 視線を次第に落とし、
「みんなを巻き込む事になったのは……ホントにごめん……」
 すると、

『何を今さら、なのですわ♪』
「!」

 軽やかな声を上げたのはドロプウォート。
 憂いを感じさせない笑顔を見せ、他の仲間たちも同じ笑顔で頷くと、ニプルウォートは自身が抱いた杞憂を自嘲気味に小さく笑い、
(ウチの不安は無用の長物だったさぁ)
 思い改め、

「一蓮托生ってヤツさなぁ♪」

 視線を手元に戻し、
「さぁて仕切り直しさぁ!」
 軽く気合を入れると、

≪天世より授かりし恩恵を以て我は願う≫

 その身を白銀の輝きに包み、

≪サーチッ!≫

 横たえた二人をも輝きで包み込み、
(先ずは皇女の記憶と比較して「イリィの改ざんされた記憶」を修正……フリンジのゲス野郎に追加され不要な記憶は徹底削除っと。そんで仕上げが……)
 一瞬、躊躇いを覚えるニプルウォート。

 穏やかな表情で横たえるイリスを見つめた後にチラリとラディッシュを、そして仲間たちを見回すと、みな一様に寂しげな笑顔で首を横に振り、
(…………)
 彼女も寂しげに小さく頷き返すと、視線をイリスに戻し、

(仕上げにイリィの中から「ウチ達の記憶」を削除ッ!)

 仲間たちが見守る前で自分たちの記憶を消し、
(幸せになりなよぉ、イリィ)
 努めて明るく、

『さぁて総仕上げさ!』

 イリスの中で「完成させた記憶」を皇女イリスに上書き保存。
 完了すると、

「出番だよぉラディ♪」
『うん!』

 ラディッシュはチカラ強く大きく頷き、

≪我がチカラ! 内なる天世のチカラを以て我は行使す!≫

 その身を眩き白き輝きに包み込みイリスの体に両手をかざすと、彼女の体の中から「淡い光を放つ球体」が浮き出て来て、彼はそれをありったけの想いと共に、

≪蘇れぇ!≫

 皇女イリスの体へ押し込んだ。
 ドクンと言う確かな鼓動と共に、徐々に精気を帯びる皇女イリスの美しさ寝顔。
 その一方でラディッシュの「保存の天技」を失い、肉体も限界を迎え、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 塵と化し、崩壊して逝くイリスの体。
 どの様な技術を用いた結果なのか、または証拠と言う名の遺体を残さぬ為に施した「意図した結果」であるのか、それは怒りを覚えずに居られない「実行犯フリンジ」にしか分かり得ぬ事。
 ラディッシュ達は一言では表現できぬ複雑な想い胸に、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 彼女の亡骸を静かに見送った。
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