ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第七章

7-23

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 奇行と思える仲間たちの感情の起伏に、ラディッシュが一人戸惑う中、

 コンコンコン!

 部屋の扉が小気味よくノックされ、

「ぇあっ、は、はい! どぉ、どちら様ですかぁ?!」

 虚を突かれた彼は、しどろもどろ。
 動揺を隠せぬ物言いであったが、扉の外からは、

『勇者殿! 自分はスパイダマグ隊長からの言伝(ことづて)を携え参った、親衛隊が一人であります!』

 ハキハキとした生真面目そうな声が返り、
「!」
 その声には、確かな聞き覚えもあった。
 しかし油断は命取りとなる昨今、

(…………)

 ラディッシュは「一応の警戒」を念頭に、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 仲間たちと無言で視線を交わし合った後、扉に向かって、

「開いてますので、どうそ♪」

 表面上は気さくな声を掛けた。
 すると扉の向こうから即座に、

『ハッ! 失礼致します!』

 固い口調が返り、扉が開くと同時、

「失礼致します!」

 親衛隊の制服を纏い、一枚布で素顔を隠した人物が素早く室内に入り、几帳面な動きで素早く扉を閉め、ラディッシュ達の方を向いて踵をカツンと鳴らし揃えて背筋を過剰に伸ばし、

『隊長より! 勇者殿方に南の森の調査に同行して頂きたく「明朝、日の出の時刻に村の南門で待つ」との言伝(ことづて)を預かって参りました! 因みに拒まれても「差し支えない」との事であります! 如何でしょうか!』

 あまりに唐突で急な誘いに、 
(((((((いきなり「いかが」って……)))))))
 面食らう勇者組の面々ではあったが、

「ひ、一つ、その、質問しても良いですか?」
『何でありましょ、勇者殿ぉ!』

 頑なまでの四角ばった物言いにラディッシュは思わず苦笑しつつ、
「きゅ、急なお誘いですけど、南の森で何かあったんですか?」
 すると隊員は、姿勢は微動だにせず、口だけが「別の生き物」のようにハキハキと、

『汚染獣の活発化と凶暴化が確認されております!』
「「「「「「「!」」」」」」」

 真っ先に思い出されたのは人里から離れ、穏やかに暮らす妖人(あやかしびと)の家族の姿。
(行かない訳にはいかない。あの家族にも、御世話になってるこの村にも、害が及ぶ可能性があるから)
 言葉を交わさずともラディッシュの思いは「仲間たちも同意」であり、表情を見れば以心伝心の仲。
 彼は仲間たちから口頭で了承を得る事も無く、

「分かりました」

 笑顔で頷くと、

「参加させていただく旨を、スパイダさんにお伝え下さい♪」
『!』

 快諾に、隊員は武者震い。
 急な依頼の叱責を覚悟でもしていたのか、一枚布では隠し切れない喜びを含んだ声色で、

『ありがとうございます! その旨、確かに隊長に御伝え致しむぅぁす!』

 任務完遂の言葉尻に、極度の緊張が緩んだのをチラと窺わせ、
(((((((ちょっとかんだぁ♪)))))))
 微笑ましさからクスリと小さく笑う勇者組。
 しかし当の本人は感情の昂りから気付いていないようで、

『ありがとうございます! 失礼致します!』

 爽やかで、清々しい明るい声を残して部屋から出て行った。
 扉が閉まって遠のく気配に、

「なんか真っ直ぐで、初々しくて、好感が持てるね人だったね♪」

 顔を綻ばせるラディッシュ。
「ですわねぇ♪」
「でぇすでぇすねぇ♪」
 ドロプウォート、パストリス達も笑顔を見せたが、仲間たちの中で一人、

「…………」

 浮かない顔の人物が。
 ニプルウォートである。

 何ごとか気掛かりな様子で怪訝な顔する彼女に、
「どうかしたのニプル?」
 ラディッシュがそれとなく声を掛けると、彼女は仲間たちが寄せる不安げな眼差しに気付き、

(!)

 何かを口にしようとしたが、
「…………」
 自嘲気味の笑みを小さく浮かべ、

「いや……何でもないさぁ♪」

 お茶を濁した。
 するとすかさず、

『秘密はイイけど隠し事は無しだよニプル♪』
(!?)

 穏やかな笑顔を浮かべたラディッシュは、少し驚いた顔の彼女を真っ直ぐ見据え、
「気になる事があるなら言ってよ、ニプル♪ 間違ってたって構わないんだ。それを責めるような仲じゃないでしょ、僕達はさぁ♪」
 その優しくも真摯な眼差しに、同じ目をして見つめる仲間たちに、

「どうにも参ったねぇ、ラディ達にはさぁ……」

 ニプルウォートは懸念を飲み込んだ自身の判断を小さく嘲笑い、
「ウチもウマくは言えないけどねぇ」
 訥々(とつとつ)と、

「起きた小さな事の積み重ねが、どぅにも気になっちまってさぁ……」
「小さな事ぉ?」
「いやぁ、だからぁさぁ、その、何て言うかぁ、何でこの時宜、タイミングって言うだっけ? に、支援要請なのかとかさ、何でスパイダが顔を見せに来ないんだとか、まぁ……箱の隅を突いた、さもしい話さぁ」

 気にし過ぎたと言わんばかりに笑って見せたが、

「何か「裏の意図がある」と、ニプルは言いますわの?」

 ドロプウォートに尋ねられ、
「まぁ「悪意を感じる」とまでは言わないけどさぁ……」
 自身の思いが感覚的であり、ハッキリとした形が見えていない事にモヤモヤしているのを窺わせながら、

「そもそもウチは、ロクな人生を歩んで来なかったからねぇ~他人を疑うのが「当たり前」として、この身に沁み付いちまってるのさぁ~」

 ため息交じり卑下してボヤキ笑った。
 すると、

『僕は、そうは思わないよぉ』
「?!」

 ラディッシュは少し驚いた顔をする彼女に笑みせ、

「他人を疑う事の全部が悪い訳じゃないと、僕は思うよ。疑いを向けられた相手だって人間なんだし、本人が間違いに気付いていない場合だってあると思うしね」
「…………」
「ニプルが過去にどれだけの苦悩を抱えて来たのか、それについて僕は「知った風な口」を軽々しく利くのは出来ない。けど、間違いを見つけて、指摘してあげる、ニプルのような「慎重な眼を培った人」は、とても貴重だと僕は思うよ」
(!?)

 過去において疫病神の如く扱われて来た彼女は、人から優しくされる事への耐性が未だに弱く、見つめる彼の優しい眼差しに、

(とても貴重……ウチなんかを……)

 思わず顔を赤らめた。
 しかしドロプウォートやカドウィード達女子組からのニヤニヤと眺める、からかいを多分に含んだ眼差しに、

(!)

 ハッと気付き、即座に、

『あっ、相変わらずラディは甘ちゃんさぁ!』

 照れを隠し切れていない顔した苦言で斜に構えたが、彼女の揺れる機微を何処まで理解しているのか、いないのか、ラディッシュは自嘲から程遠い緩んだ笑顔で、

「僕ってやっぱり「甘い」のかなぁ~♪」

 ケラケラと自身を笑って見せた。
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