ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第八章

8-76

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 悲しみを以て諦めを促す仲間たちが、無言で何を訴えているのか、ラディッシュにも分かっていた。

 地世の世界の創造主、全知全能の神とでも称すべき初代魔王から、そのチカラの全てを引き継いだプエラリアが行使した地法を、百人も居る天世人の一人でしかない自分に「一朝一夕で真似る」など、不可能であるのを。

 それでも彼は彼女が逝ってしまうのを、何もせず、言われた通り、ただ黙って葬送するなど出来なかったのである。

 唇の端を噛み締め、

(何か手段はある筈なんだぁ!)

 自ら心を鼓舞して顔を上げたが、
「ラディ……」
「!?」
 悲し気に首を横に振る、ドロプウォートたち女性陣。
 サロワートの真意が、痛いほどによく分かる。

《朽ち果てた姿を「愛する人(ラディッシュ)」には見られたくない》

 同じ想いを彼に抱(いだ)く者として。
 残された時間も僅かであると。

 同じ立場であったなら、間違いなく「同じ願いを口にした」であろう事も。

 彼女たちがどれ程の心痛を抱え制しているか、混乱の渦中のラディッシュでも容易に想像でき、

「また……またなのか……また僕は、また…………」

 扉の前で無力感と悲しみに苛まれていると、閉ざされた扉の向こうから、

「悲しまないで、ラディ……」
『!』
「アタシは……アンタ達に会えて感謝しているの……」

 あえて「ラディッシュの名」を口にせず、

「アンタ達に会っていなかったら、アタシは未だに深い闇の底だったわ……♪」

 弱弱しくも、精一杯と思われる明るい声の後、
「もぉ限界……よ……お願い……ラディ……」
 声は次第に嗄(しわが)れていき、

「「「「「「「ラディ……」」」」」」」
「パパ……」

 ドロプウォート達の悲し気な声に、

「ラディの兄貴……」

 ターナップの悲痛に、
「クッ……」
 ラディッシュは苦悶の表情で、

「みんな……建物から離れて……」

 自身も家屋から距離を取ると、涙を振り払い、

《我がチカラァ! 内なる天世のチカラを以て我は行使す!》

 その身を白き輝きに包み、天世人の姿になると右手を扉に向け広げ、すると、

『!』

 悲しみに暮れるその手に、仲間たちも手を添え、
(みんな……)
 想いを受け取ったラディッシュは精一杯の凛然で、

《浄化の炎ぉお!》

 倒壊寸前の家屋を白き炎で包み込んだ。
 建物ごと白き炎に包まれる、体の崩壊が始まったサロワート。
 しかし燃えながらも、その表情は穏やかに、

(熱くない……温かいわぁ、ラディ……本当に、何処までも優しい人……)

 笑みを浮かべ、

(愛していたわ……アタシの、勇者……)

 最後まで口にしなかった、それが彼女の「最期の言葉」であった。
 燃え盛り、次第に崩れていく家屋に涙し、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 ラディッシュ達や村の人々が咽(むせ)ぶ中、

『(プエラリアは)何でぇこんなヒドイ事が出来るのしィイ!』

 涙ながらに激怒するリンドウ。
 彼女にとってサロワートとは「倒すべき相手」であったが、打ち解け、気の置けない間柄となった親友の一人であり、そこに「付き合いの長さ」など無関係。

『(サロワートは)勇者時代からのぉ仲間じゃなかったのしぃーーーっ!』
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 やり切れない怒りの咆哮は、勇者組や村人たちも同じであった。
 白き炎に浄化されて次第に崩れ逝く家を、

「…………」

 涙ながらの凛然で見据えるラディッシュ。
 サロワートと描いた、数々の思い出と重ね。
 そして想う。

(僕の考えが甘かった……プエラリアとも「共存の道」があるんじゃないかと、刃を交えるのを躊躇って……)

 仲間たちにさえ語っていなかった本心に、後悔を覚えた。
 しかしそれは、彼が勇者となって歩んで来た道程(どうてい)から導いた選択肢であり、互いにラミウムから勇者として見出され、互いに「彼女に想い」を寄せる、いわば『同志である』と、心の何処かで感じていたから。

 敵対ではなく、融和の道がある筈と。

 一方的な感情であったと言わざるを得ないが、サロワートを失った事で、

(この結果を生んだのは「僕の迷い」のせいだ! もっと早くに決断していたら違った未来が!)

 勇者ラディッシュの心の天秤は、怒りと悲しみから、

《プエラリア討伐》

 揺るぎなく定まった。
 
 
 
 物語は、次の章へと紡がれる。
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