ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第九章

9-24

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 時は少し遡り――

 ラディッシュたち勇者組がサロワートの死を経て、プエラリア討伐に向かう少し前。
 古代ギリシアを彷彿させる白亜の宮殿。

《天宮》

 天世の政(まつりごと)の一切を仕切る建物の一室で、書類が山積みなアンティーク調の机から、

『ご苦労であった。下がって良いぞ』

 凛然と、淡々とした口調の中にも優しさを纏わせるのは天世の実質的ナンバーワン、オンリーワンの指導者となったチョウカイ。
 彼女のねぎらいに、

『はっ! ありがたき御言葉! 痛み入ります! では失礼致します!』

 跪いた状態からキビキビ答え退出して行ったのは、彼女の私設部隊であった「近衛」の制服を纏った、若い天世人。

 過去形で「私設部隊であった」と語るのは、チョウカイが天世のトップに立ったことにより私有ではなく、天世の警備の一切を担う公的な「公有部隊」へと昇格したから。

 天世の司法、立法、行政、国防、全ての実質トップに立ったチョウカイは、兵が部屋から出て行くなりアイスが熱で溶けたが如く、
「はぁ~~~」
 毅然を釈放、書類の山に突っ伏し、埋もれながら、先の若き近衛兵から手渡された書類を恨めしそうに見つめ、

「どうして私の考えを、素直に受け入れぬ者が居る……」

 内容は、天世で連日発生しているテロ行為の現況報告であった。
 元老院でクーデターを起こし、成功させ、権力掌握を成し遂げた彼女であったが、その真意は「単に権力欲した」のではなく、むしろリンドウ達の考えに近く、

《天世が置かれた現状を憂いた》

 なればこそ権力を掌握した今、天世のリーダーとして相応しくあろうと、山積みの書類が表すよう雑務までこなしていたのだが、馴れ合いの慣例を打破する強硬策が各所に軋轢を生じさせていた。
 それに加えリンドウ派が、

《皆で考え改善し、皆でより良い方へ》

 和(わ)を重んじる一方、チョウカイは、

《民は、優れた指導者(私)に導かれるべき》

 独善的と言える思想が基にあったから。
 とは言え民衆側にも、不動であった元老院にメスを入れた彼女の手腕に期待する者も。

 机に突っ伏したまま、
(私の言う通りにすれば、かつての天世の栄光を取り戻せるものぉ……)
 独裁と弾じて反発し、従わぬ存在が居る現状を憂いたが、

(そうだわ!)

 何事か閃いた様子で「ガバッ」と起き上がり、

(保管している勇者たちを使って反乱分子の一掃を!)

 早急なテロ沈静化の妙案を思い付いた晴れ晴れした顔を見せた。
 しかし、
(…………)
 起き上がって血の巡りが正常に行われると、

(何を考えてるの……愚策じゃない……)

 冷静を取り戻し、

(反抗組織の大半が一般天世人とは言え、ゴゼンを筆頭に「百人の天世人の一部」も加えた混成部隊。まかり共倒れになって、天世全体の戦力が落ちたところへ地世に攻め込まれでもしたら、民を守る事が……)

 天世に対する愛情は本物であったが、その愛は一方的であり、自身を唯一無二の指導者として見据えた「身勝手な歪み」の上に成り立っていた。
 愚策と気付いて深いため息を吐き、思い通りにならない現状に自嘲気味の笑いを小さく浮かべ、
「…………」
 机の書類に視線を落とす彼女であったが、落胆の姿勢はそのまま、目の端だけを一瞬鋭く、殺意が感じさせるほどに光らせると、

『覗きとは感心しませんわね、二代目』

 すると人の背丈を優に超す本棚の陰から、

『その呼び名は「お止め下さい」と、何度も申し上げていますでしょう、チョウカイさま』

 容姿端麗なメガネ男子が、薄っすら笑みを浮かべて姿を現した。
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