ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第九章

9-35

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 リンドウ周辺に不安を残すとある晴れた日の昼下がり――

 上機嫌で村を歩くインディカ。

(日課のキッツイ鍛錬も終わってぇオレっち「癒し時間」の始まりっスぅ♪)

 足取り軽く彼が向かった先は、村と呼ばれる場所に建つには少々不釣り合いな、堅牢さと、豪華さを兼ね備えた、四階建てほどに見える外観を持つ、石造りの建物。

 それは新設された図書館であり、ギルドが作り出す数々の製品の売れ行きにより税収が増えた結果の副産物で、中世の世界にて、それほど好評を博している表れでもあった。
 無論、リンドウのライブ目当ての来村者が村に落とすインバウンド消費が貢献したのも、言うまでもない事実ではあるが。
 
 好景気に沸く「村の現状」とは別に、書籍と無縁に思えるインディカが、
《何故、図書館を訪れたのか》
 それは、

(ヒレン様ぁこの時間、例の場所で読書中なんっスよねぇ~♪)

 ヒレン見たさから。
 読書中ゆえに当然の如く「話し掛ける」でもなく、それ以前に相手にされてもいないので、陰からそっと見るだけ。

 本人的には「見守っている」つもりであったが、はたから見れば単なるストーカー。
 思い込んだら一直線、客観性の無さや、デリカシーの欠如が、なんとも「彼らしい」と言えば、らしくもあるが。

 ちょっとしたイベントでも開けそうな館内空間に入って右手に受付カウンター。
 左手には読書スペースがあり、奥や、吹き抜け状の上階には、本棚がギッシリと置かれ、各種書籍をふんだんに、数多く扱っているのが、収められている本達の背表紙が織りなす色彩豊かな模様から窺える。

 蔵書数が豊富であるが故に、平日の昼であるにも拘らず利用者は意外に多く、読書スペースで「本の世界」に入り込んでいる人々を横目に、
「ふぅん♪ ふぅん♪ ふぅん♪」
 上機嫌のインディカは鼻歌交じりに素通りし、奥にある書籍スペースに入り、更に奥へ奥へと歩みを進め、
「…………」
 やがて足を止め、

「…………」

 人の背丈を優に超す本棚の陰から、

(この先に、いつも居るんスよねぇ~♪)

 更なる奥を、そっと覗き見た。
 そこは図書館の最奥であり、人が滅多に来ない場所でもあり、司書作業用の簡素な椅子と小さな机が置かれた、ちょっとした空間。

 ヒレンはそこで「人払いの天技」を弱く発動させ、本に読み耽(ふけ)るのが最近のお気に入りであった。

 人払いの天技を用いるほど「読書中の人の接近」を嫌っているにも拘らず弱く発動させているのは、同類(本好き)の為。
《天技を普通に発動させたら、探している本に辿り着けない人が出る》
 彼女なりの気遣いからであった。

 インディカのような、彼女の意図しない、対象外の、同類たちとは違った意味での「強い想いを持った者」まで辿り着けてしまう難点はあったが。
 本ではなく、ヒレンを目当てに、人払いの天技を突破する彼であったが、ヒレンの様子を窺い見て、

(ん?)

 彼女は居なかった。
 主(あるじ)の居ない、空の席。

(用足し?)

 他意無く、真っ先に手洗いを連想する辺りも、彼のデリカシー欠如の表れであったが、それに気付ける繊細さを持ち合わせて居たら、そもそもストーカーまがいの行為もしていないのである。
 しばし待てど戻らぬ彼女に、

(何処行ったんスかねぇ……読書の時間の筈なんスけどぉ……)

 周囲を見回し始めるインディカ。
 まるで館内を透視でもするが如くに。

 それは妖精ラミウムの過酷な扱(しご)きの中で身についた「気配察知能力」であり、用事があって離席したであろうヒレンにとって、この上なく「迷惑な能力の使われ方」であった。
 やがて宙を漂う彼の視線は、目では見えぬ上階の一点を見据えて止まり、

(居た!)

 二階の奥まった一角に。
 しかもヒレンの気配のすぐ近くには、知らない気配がもう一つ。

(狙われてるんじゃぁねぇっスかぁ?!)

 彼女の身に降り掛かる厄災を直感したインディカはスグさま、急ぎ足で上階へ。
 対象者に、気配を気取られないよう細心の注意を払い。
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