ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
667 / 895
第十章

10-18

しおりを挟む
 バツが悪そうに逃げるように遠ざかる大男の背に、男は、

(たぁ……助かったぁあぁあぁ……)

 色々な意味でホッとして泣きだしそうな安堵を覚えていると、

『兄ちゃんスッゲェーーー!』
『大おとこをあいてにスゴイわぁ!』
『だよねぇだよねぇ!』

 子供たちの歓喜と賛辞の声が。
 今回は信奉者と無関係であったとは言え罪悪感も手伝い、
「…………」
 恐る恐る振り返ると、
(う……)
 向けられていたのは、感謝と尊敬のまなざし。
 
 良心に痛みを覚える中、無垢なるキラキラな六つの瞳に名を問われもしたが、信奉者たちの指示で三人を密かに監視していた彼に「名乗れる図太さ」があろう筈も無く、後ろめたさから、

『こぉたっ、大した事はしてないしぃ! 名乗るほどの事もしてないからぁ! じゃ、じゃあこれでぇ!』

 しどろもどろのそそくさで、その場から逃げるように立ち去るより他になかった。
 背後から聴こえる子供たちからの、

《名乗らないで立ち去るなんてヒーローみたいだ♪》

 賞賛を背に受けつつ。
 しかし持ち上げられれば持ち上げられるほど、

(うぅっ……心が痛い……)

 後ろめたさは増すばかり。
 故に、羨望の眼差しから逃れるように脇道の暗がりに足を踏み入れると、
 ガッ!
「痛ぁ!」
 背後から膝の裏を蹴られて地面に跪き、

『ッ!』

 首元には怪しく光る小刀の刃が後ろから。
「ヒィ……」
 突き付けられた死を前に男が短く小さい悲鳴を上げ、即座に「信奉者の報復」を思ったが、

{{そのままウゴかずナニもしゃべるな(なんぉ・なんのぉ)}}
(ちっ、違うぅ!?)

 仄暗い声は明らかに一か所から発せられているにも拘らず、子供二人分の声が二重に重なり聴こえ、その異様さに、
(ふぅっ、普通じゃなぁいぃ!)
 かつてない次元の違う恐怖を感じていると、背後の声は闇を纏った静かな物言いのまま、

{{サンニンへのテだしをくわだてた、オマエのヤトイヌシはシマツした}}
(しっ、始末でぇすとぉおぉ!?)

{{テサキとなっていたオマエも、タイショウ(なんぉ・なんのぉ)}}
(ヤッパリですかぁああぁぁ!)

 男は心で泣き叫んだ。
 死の間際でもないのに、脳裏に浮かんでは消える走馬灯。
 それほどまでに死をヒシヒシと感じていたのだが、背後の声は、

{{しかし、}}
(?)

{{オマエはヨワイのに、身をていして三人をまもった(なんぉ・なんのぉ)}}
(?!)

{{だから今回は見のがしてしてやる(なんぉ・なんのぉ)}}
(え!?)

{{生かされたイノチをどうつかうか、よく考える(なんぉ・なんのぉ)}}
(…………)

 首元から闇に消える刃先。
 それと同時、背に感じていた冷たい気配も一瞬にして消え、聴こえていた筈なのに聴こえていなかった「大通りの喧騒」も次第に耳に。
「た…………」
 男は脱出不可な仮想世界から現実世界に無事な帰還を果たせた者のように、

『助ぅ~かっ~たぁ~~~』

 膝から崩れ落ち、その場にへたり込んだ。
 極限の緊張から解放され。

 そして、
「…………」
 へたり込みながら、

《生かされたイノチをどうつかうか、よく考える(なんぉ・なんのぉ)》

 仄暗い声から呈された課題を思い、

(そんなの、答えは決まってる!)

 スクッと立ち上がった。
 陽の当たる大通りに向かって歩き始める男。

 憑き物が落ちたかのような毅然とした顔付きで、
(どれだけ辛くとも、苦しくとも)
 彼が行き着いた先は、

(人に胸を張って名乗れる人生を歩もう!)

 警備隊詰所。
 みそぎを済ませての、再出発を誓ったのである。

 出頭した彼は取調官に対し、自らが行った違法行為を真摯に、包み隠さず語った。
 教会で神父に、懺悔をするが如くに。

 とは言えこの世界において「地世に加担する」は例え小事であっても、天に唾する大罪である。
 自らの意志で捕縛されたとはいえ、どの様な厳罰、重刑が待ち受けているかも分からなかったが、彼はそれも承知で出頭した。
 この行いこそが「贖罪になる」と信じ。

 一方で当人さえも知らぬ、救いも。

 それは彼が出頭してのち、チィックウィードを筆頭に「中世の七草の連名」で出された、減刑を願う嘆願書。
 彼がそれを知るのは送検されて後、開かれた裁判にて裁判官から「本人想定外の軽罰」が言い渡された時であり、

(頑張りを見てくれている人は必ずいるんだ……腐らず、前を向いて歩こう!)

 深々と、再出発を改めて強く誓った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に失敗したと捨てられましたが、魔王の家政婦になりました。

藤 ゆみ子
ファンタジー
家政婦として働いていた百合はある日、会社の倒産により仕事を失った。 気が沈んだまま家に帰り、おばあちゃんの仏壇に手を合わせていると突然知らない場所にいた。 訳がわからないまま、目の前にいる神官に勇者の召喚に失敗したと魔王の棲む森へと捨てられてしまう。 そして魔物に襲われかけたとき、小汚い男性に助けられた。けれどその男性が魔王だった。 魔王は百合を敵だと認識し、拘束して魔王城へと連れていく。 連れて行かれた魔王城はボロボロで出されたご飯も不味く魔王の生活はひどいありさまだった。 それから百合は美味しいご飯を作り、城を綺麗にし、魔王と生活を共にすることに。 一方、神官たちは本物の勇者を召喚できずに焦っていた。それもそう、百合が勇者だったのだから。 本人も気づかないうちに勇者としての力を使い、魔王を、世界を、変えていく。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

処理中です...