ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十章

10-32

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 自身の命を粗末に扱う男女に不機嫌であったカドウィードのガス抜きが出来たことにパストリスは喜んだ一方で、

「それにしてもなのでぇす……」

 両手の黒球をしげしげ見つめ、

「これは何なのでぇす? 合成獣化を強制させる黒球とは違う気がするのでぇす……」
「ほぅ、パストにぃも分かりぃんすかぁ?」
「ハイなのでぇすぅ。でも、何となくなのでぇすぅ」
「…………」

 流行に乗っかっただけの男女が地世信奉者から貰った物など興味は無く、
(警備隊に丸投げしてしまえば良きにぃと思いんしたがぁ……)
 しかし興味を示したパストリスの一言で気が変わり、

「パスト、少々寄り道を良きにありぃんすかぇ?」
「?」

 彼女を脇道へと誘った。
 天技に長けたフルール国の元騎士としての「勘が働いた」とでも言えば良いのか。
 立ち止まり、

「黒球を、少し見せるにぃありぃんす」
「の? ハイ、なのでぇす?」

 言われた通り、取り敢えず差し出すパストリスから黒球を受け取ると、
「…………」
 無言でしばし見つめた。
 
 男女が持っていた黒球に、事も無げであった彼女から一転した真剣に、
「…………」
 思わず息を吞むパストリス。
 
「やっ、やっぱり、何かあるのでぇす?」
「…………」

 応えないカドウィード。
 問い掛けにも気付けない程の「高い集中」を見せた彼女であったが、やがて黒球か目を離して短く「ふぅ」と息を吐くと、

「カディが感じ、パストが気付いた通り、合成獣化を強制する術式は見ぇんせぇんが……」
「見えんしたが?」
「適当な術式が幾つも重ねてありぃんす」
「それって?」
「…………」
「…………」

 カドウィードは静かに頷くと満を持し、
「本命の術式を隠しているようにぃでぇ、ありぃんす」
「隠すぅ……」
「「…………」」
 二人は謎の黒球に、不気味を感じずには居られなかった。

 そして結論として、
《設備が整った王都エルブレスの機関で解析してもらう》
 迂闊な手出しは何が起きるか分からず、周囲にどの程度の被害を及ぼすかも未知数であったから。

 天技のスペシャリストは黒球を「極めて危険な代物」と分類したのである。

 二人は警備隊に黒球を渡すと同時に事の次第を告げ、引き継いだ警備隊は他にも居ると思われる「黒球の所有者」の捜索を緊急で開始した。

 黒球の解析は王都エルブレスの専門機関が行い、他の所有者の捜索は警備隊が行い、とある喫茶店で、
『『…………』』
 放心のパストリスとカドウィード。

 見事に無職に返り咲き。
 振り出し状態。
 
 警備隊から、
《あとはこちらで行いますので仮装パーティーを楽しんで下さい》
 誤解もありつつ、捜査から体よく追い出され。

 組織だった動きをする相手を調べる時には、調べる側には緻密で繊細な連携が必要とされ、存在自体が目立つ七草に居られては「捜査に支障をきたす」と判断されたのである。

 警備隊に他意はないのであるが、昼時近くなり客が増え、店内を慌ただしく走り回る店員たちを横目に、
「「…………」」
 再び何もする事が、何も無くなった二人。
 
 しばし放心。

 やがてカドウィードがポツリ、と、
「本でも……出しぃんしょうか……」
 パストリスも惰性に流され、
「そぅでぇすねぇ……」
 半ば冗談であった思い付きは現実に。

 期せずして同意の二人は村の名店巡り、グルメガイドを作る事となった。
 暇つぶし故の、素性を隠しての、自費出版ではあるが。

 しかしこの世界において、地元をアピールする意図を持ったグルメ本は珍しい物。
 暇を持て余した結果の産物であったとは言え本は「物珍しさ」も加わり、好評を博し、重版に重版を重ね、同盟国以外でも販売されるようになり、観光客の増加に一役買い、村の更なる発展に大きく貢献することとなった。

 あれよあれよと言う間に、
「「…………」」
 二人はベストセラー作家の仲間入り。

 誰が呼び始めたか、神出鬼没で正体不明の《仮装の美人グルメライター姉妹》として、中世の人々の注目を集めた。
 無銭飲食目当てなどの、ニセ者が出るほどに。

 しかし本が売れれば売れる程に「グルメライター姉妹」としての名声ばかりが高まり、

『(ボク・カディ)の本職は七草なの(でぇす・でぇありぃんすぇ)!』

 ジレンマを抱えた二人であった。
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