ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十章

10-34

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 村長が行った行為は「勇者ラディッシュと縁(えにし)の深い村」だからと言って許される行為ではなかったが、それ以上に老大人は「勇者ラディッシュの名での申請」を一蹴された事実に腹を立て、

「蹴ったじゃと?!」
「通らない事などあり得るのか!」
「その様な不敬があるのか!」
「中世を幾度も救った英雄ぞ!」

 怒りは収まらなかった。
 ラディッシュたち勇者組の存在は村の年長者たちとって、英雄である以前に、孫のような存在であったから。
 数々の功績を上げた「村の孫たち」を軽んじられた「村の祖父たち」が、黙っていられる筈もなく不快感を前面に、

『『『『『どう言う事なのじゃ!』』』』』

 まるで申請を通さなかったのが、村長であるかのような怒り様で。

 すると彼は勇者の名を勝手に語った後ろめたさが手伝ってか「まぁまぁ」と宥めたが、村の大恩人でもある勇者組を軽く見られたとあっては御歴々の腹の虫は治まらず、

「「「「「そもそもお主、何と言う名前で申請を出したのじゃ!?」」」」」
「…………」

 詰め寄りに村長は、途端に口籠り、

「「「「「ん?」」」」」

 怪訝な顔する御歴々。
 集まる視線に、やがて「逃げ場は無い」と悟った彼はバツが悪そうに、囁くように、
「ラディッシュ村……」
 その一言で「不快の怒り」は一斉鎮火。

 御歴々は先ほどまでの怒りようが嘘のような平静で、

「いやはやそれは」
「普通に考えて駄目じゃろ」
「却下もされるじゃろ」
「世界を救った勇者の名ぞ」
「しかも本人の許可も得ず勝手に」

 的を射たダメ出しの連続に凹む村長ではあったが、彼にも言い分が。
 それは、

『たっ、確かに後になって冷静に考えれば愚行、愚策の類いではありましたが、却下されるに至ったた理由はそこではないのです!』
「「「「「なんじゃと?」」」」」
「既に「商品名として登録された名」であり、それを村の名前にするのは出来ないとぉ!」

『『『『『なんじゃとぉお!?』』』』』

 鎮火した筈の怒りを以て慄く御歴々は、

「ゆっ、勇者様の名前を商品名にじゃとぉ!」
「勇者様の御名(おんな)で金儲けなどぉ!」
「なんたる無礼! なんたる不敬ぇ!」
「その様な欠礼がまかり通って良いのか!」
「勇者様御一行が御座(おわ)す、この村を差し置いてぇ!」

 怒りの一部に本音をのぞかせると、村長も役場でのやり取りを苦々しく思い返し、

「実はそれだけではないのです!」
「「「「「まだあるのかぁ?!」」」」」
「勇者様に関連した名前が他にも幾つも。既に登録されていたのでぇす!」
「「「「「なんじゃとぉ!」」」」」

『しかも「村の名として登録できない」のみならず、こちらが販売する商品に同名を使おうものなら登録者に使用料を逐一支払わねばならぬと!』
『『『『『そんなバカなぁ!』』』』』

 御歴々は激昂し、

「なっ、ならばよもや登録した者はぁ!」
「何もせずとも?!」
「まさか寝ていても金が入って来るとぉ!」
「その様な不条理が許されるのかぁ!」
「この村は勇者様方と苦労を重ね、ここまで来たと言うのに!」

 トンビに油揚げを横取りされたかの如き腹立ちを見せると、

「実は、それだけではないのです!」
『『『『『まだ何かあると言うのかぁ!?』』』』』

「役場の担当者にそれとなく探りを入れてみたのですが、本来は「勇者様の御名」のような「公的な名前」の私物化はできぬ取り決めになっていて、受付で却下される仕組みになっている筈と」
『『『『『なぁんと!』』』』』
「加えて「登録した名前」を使っての商業実績が無いと「不法取得」とみなされ、登録した権利をはく奪されるとも」

『『『『『オカシイではないかぁ!』』』』』

 御歴々の怒りは上昇し、

「ならば何故に審査は通ったのだ!」
「何故に権利がはく奪されぬのだ!」
「勇者様の御名(おんな)は公的では無いとでも言うのか!」
「活動実績があるようには聴こえなかったぞ!」
「いったいどういう事なのだ!」

 すると村長は「壁に耳あり障子に目あり」とでも言いたげに、急に声を潜めて、
「どうやら中央の受付の担当者が、登録者に懐柔されたようなのです」
 金銭を相手の懐に入れる仕草を見せ、

『『『『『買収じゃとぉお!!!』』』』』

 御歴々の怒りは頂点に。
 美味しい権利を横取りされた私怨も幾分はらみつつ、ここぞとばかりの正義を振りかざし、

『『『『『首謀者は分かっておるのか!』』』』』

 村長は即座に頷き、

「西の村の村長一派との、もっぱらの噂です」
『『『『『あの守銭奴一族か!』』』』』

 悪い噂が絶えぬ人物であるのか、得心が行った様子ながらも嫌悪感を露に、

「勇者殿と縁もゆかりもない西の村なんぞに金をくれてやるなどと!」
「その様な道理がまかり通って良いのか!」
「ワシらに出来る反攻は無いのか!」
「このまま黙って指をくわえて見ているしか無いのか!」

 怒りは心を一つに、

『『『『『勇者様はこの話を知っておられるのか!』』』』』

 御歴々からの切歯扼腕(せっしやくわん)、悔しさから歯ぎしりしながらの問いに村長は、
「…………」
 急に気勢を削がれた如くに意気消沈。
 ポツリと、

「知っておられる……」
『『『『『してぇ何とぉ!?』』』』』

 詰め寄りに、
「僕の名前って、そんなに有名だったんですねって、笑って居られました……」
「「「「「…………」」」」」
 絶句する御歴々。

 抱いた怒りは、名前を悪用された勇者ラディッシュの為でもあったから。

 名前を悪用されて「怒らないのか」とも思ったが、
(((((確かに言いそうじゃわい……)))))
 ある意味で納得し、そしてある意味で落胆。

 彼の性格を、冷静に思い返してみれば。

 傷付いた者の為ならば鬼にもなれる彼の、自身の事となると及び腰になる性格を。
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