ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十一章

11-52

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 天世の過酷な現実を知らされ無言となった勇者組の様子から「理由は察してもらえた」と判断したアブダは自嘲気味の笑みを浮かべながら、

『ワシら八部衆は、その者らの怨念と共に生きておるようなモノなのじゃ』

 闇を抱いたその笑みに、
 闇を背負ったその笑みに、
 ラディッシュは息を呑み、

「代理の復讐……なの?」

 するとアブダは少し考え、

(どうじゃろうなぁ……)

 おもむろ口を開き、

「(八部衆の)面々の言動からしてその様に高尚なモノではなく、虐げられて来た意趣返し、単なる仕返しの類にも思えるがのぉ~」
「「「「「…………」」」」」

 淡々と語る彼女の笑顔の裏に潜む危うさに沈黙する勇者組。
 天世の破壊と言う目的が成し得なければ暴発しかねない、自暴自棄にさえなり兼ねない危うさに。

 しかし短くもアブダと行動を共にし、彼女と親交を深め、彼女の中にある「彼女なりの優しさ」を見て来たラディッシュは、
(死なば諸共なんてぇ絶対に言わせない!)
 その想いは仲間たちも等しく、

「今のコマクサさんは! 八部衆の長のコマクサさんはどう思ってるのぉ!」

 追従するようにリンドウも、

「そぅし! チョウカイの意にそぐわぬ天世の崩壊を、あのオンナに心酔するアレが指示するハズは無いのしぃ!」

 しかし彼女は歯切れ悪く、

「どうかのぉ~」
「「「「「?!」」」」」

 困惑笑いで首を横に振り、

「御館様(おやかたさま)の本意が何処(いづこ)にあるか、それは八部衆のワシ等にも分からぬじゃて」
「「「「「?」」」」」
「何せ「あの御方」も、ワシ等と同じ地世の因子を持っておいでなのじゃから」

『『『『『!?』』』』』

「故にワシは先代(コマクサ)より教育係を命ぜられたのじゃ。世渡りの知恵の無い童(わらべ)は、時に誰ぞに、素性を明かしてしまう恐れがあったからのぉ~」
「「「「「…………」」」」」

「処世術を身につける程に成長するまで表には出せぬ存在だったのじゃ。それは元老院の実質的な長たる先代の「沽券に関わる問題」なのじゃから」
「「「「「…………」」」」」

 当代コマクサが内に抱えている闇の一端を見た気がした勇者組であったが、彼女が更に語った話に一行は慄いた。

「坊は、先人の英知による生まれ変わりで生(せい)を享(う)けた訳ではナイのじゃ」
「え? それって、もしかして……」

 ラディッシュ達の戸惑いにアブダは静かに頷くと、

「天世では珍しく、オナゴから生まれたのじゃ。しかも先代が興味本位で手籠めにした下女からのぉ」
「そんな……」

 お人好し勇者は激しく狼狽したが、彼女は現実を受け止めてもらう為にあえて淡々とした物言いで、

「妊娠と言うのモノが稀なこの世界において、若い天世人であったムスメには精神的にも肉体的にも余程の衝撃であったのであろう……出産と同時に息を引き取り、その魂は生まれ変わりの川へと消えて逝った……」

 その眼には、平静な口調と反する憐れみが浮かび、
(願わくば魂に闇を抱えず、再び天世に生まれて欲しいものじゃが……)
 先人の英知により地世に落とされないのを、心で祈るアブダであった。

『なぁんてぇ事したのしぃアノ爺ィイ!』

 怒りを新たに叫ぶはリンドウ。
 同様の怒りを覚えた仲間たちを尻目に堪え切れぬ怒りで拳を握り、

『もっと早くにアーシがソレを知ってたらぁ! アーシがぁ血祭りに上げたのシィイ!』

 その怒りようは凄まじく、圧(あつ)に気圧されたラディッシュは自身が抱いた怒りまで飲み込まれ、むしろ苦笑気味に、

「そぉっ、そんな経験をした今のコマクサさんが、どうして元老院のチョウカイさんには傾倒したのぉ? せ、接点は無いように思えるけど?!」
「「「「「…………」」」」」

 同じ疑問を持ったニプルウォート達も答えを求めてアブダに視線を集め、怒り心頭の御様子であったリンドウも矛を一旦収めて彼女を見ると、
「…………」
 アブダはパチパチと音を立てて燃える焚火の炎の揺らめきを、遠い目をして見つめながら、

「そうじゃのぉ……」

 ゆっくりと語り始めた。
 生まれた時から不幸を重ね着した、幼少の彼の身に起こった更なる不幸を。
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