ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
761 / 895
第十一章

11-55

しおりを挟む
 襲撃者六人の姿勢は撤退へと変わり、一人が語った「アブダに対する誉め言葉」は一聴すると単なる負け惜しみとも聞こえたが、彼の言葉が負け惜しみなどではなく「切り札を隠し持って」の言葉であったのを示すよう懐に手を入れ、

『!』

 不穏を感じ取るアブダ。

 負傷により動きの鈍った体で怯える男児を即座に抱いた。
 自身の体を盾に、次なる攻撃に備えたのである。

 しかし六人の賊徒は彼女の懸念に反し何をするでもなく、先の不意打ちで壊れた窓から外へと逃走、
「?!」
 言行不一致に、

(な、何なのじゃ……?)

 戸惑いを覚える二人の前に、
「ッ!」
 外から何かが投げ込まれた。
 
 直感的な危機を覚えた彼女の目にスローモーションで空中に放物線を描くは、大人の拳ほどの「黒き球」。
 それが「何であるか」まで即座の理解に及ばなかったが、背中に走った激しい悪寒が、

(これはマズイのじゃ!)

 積み重ねて来た経験が命の危急を告げ、火事場の馬鹿力よろしく、

(くッ!)

 球が床に着く寸前、満身創痍の体で男児を抱えて外に飛び出した。
 賊徒の後を追うが如く、破れた窓から転がるように。

 次の瞬間、黒き球は床に接触。

 水で満たされた風船でも破裂するように「パァン」と音を立て弾けると、高濃度に圧縮されていた物が一斉開放、それは黒きモヤであり、辺りを一瞬にして黒で覆い尽くし、
「「!」」
 二人が逃げ出した窓から外へも溢れ出した。

 奇跡的に辛うじて外へ逃れる事まで成し遂げたアブダであったが、体はもはや限界。
 
 疲労と痛みの蓄積により屋敷から十分な距離を確保する前、
(くっ……)
 遂に膝を地に付けてしまったが、背後のおぞましき気配に、

『こっ、この気配はよもやぁあ!』

 青ざめ振り返った。

 感じたのは、
《地世のチカラ》
 そして見通すことの出来ぬ黒煙の中に見たのは不気味に浮かぶ、赤黒い二つの眼。
 
 その眼の主は幼女と男児を見据えるが如く鋭い眼光を放ち、過剰に荒い鼻息と、地鳴りを伴う踏み音を立て、黒煙の闇から徐々に姿を現した。

 愕然とした表情でソレから目が離せぬアブダが、
(あぁ、アヤツ等ぁあぁ何と言う物まで持ち込んだのじゃぁあぁ……)
 覚えたのは、不可避の死。

 現れたのは獣型の巨大な合成獣であり、地球で言うところのミノタウロスに近い。
 それも単体ではなく、続々と。
 体躯差を補う戦い方の模索など無意味、無価値に思わせる、思考を停止させるに十分な群れであった。

(てぇ、敵対している相手とは言え周囲に及ぶ被害も考えず、同じ天世人にここまでするじゃとぉ……)

 迫る踏み音に、絶望感に、満身創痍の体が過分に下を向かせたが、
(ここで諦めるワケにはいかぬのじゃ!)
 自身の弱気を叱り、心を奮い立たせた。

 彼女の背には「守るべき存在」が居たから。

 見た目が幼女の小さな背より、更に小さく丸まって震える男児。
 その姿を肩越しにチラリと見た彼女は、徐々に迫る合成獣たちをきつく睨み、

『死なせるワケにはいかぬのじゃ!』

 咆哮してナイフを手に応戦の構え。
 未だ衰えぬ戦いの気概を見せ付けたが、

「!」

 膝がガクリと折れ、地に付きそうに揺れた。
 慌てて態勢を立て直すアブダ。

(かぁっ、体が言うことを聞かぬのじゃと?!)

 実戦経験が乏しくも「持ち前の身体能力」で賊徒六人を辛うじて退けた彼女であったが、全身傷だらけの体は、

(こ、ここまで凌いでおきながらじゃとぉ!?)

 諦めより悔しさが。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冤罪で断罪されたら、魔王の娘に生まれ変わりました〜今度はやりたい放題します

みおな
ファンタジー
 王国の公爵令嬢として、王太子殿下の婚約者として、私なりに頑張っていたつもりでした。  それなのに、聖女とやらに公爵令嬢の座も婚約者の座も奪われて、冤罪で処刑されました。  死んだはずの私が目覚めたのは・・・

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

処理中です...