奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_1

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 東京都二十三区外の某市。
 暖かな春の陽射しが眠りに就いていた生き物達に、優しく目覚めを促がす四月。
 満開の桜並木が淡いピンク色で彩る川沿いを、腰までありそうな栗毛をキラキラたなびかせた一人の制服少女が、息を切らせて駆け抜ける。
 少女は春の訪れを待ちわびていたのか様に、幼さの残る顔に満面の笑みを浮かべ、
(わたくしこと九山(くやま)サクラは、今年から東京で一人暮しを始めます! 今日から華の女子高生であります!)
 少女は登校中の生徒達の間を駆け、アーチ型の正門の下をくぐる。
 場面は教室内へと移り、サクラは初のホームルームで、これから共に学ぶクラスメイト達を前に明朗闊達、明るく歯切れよく、元気に自己紹介。
(地元中学の人が多いみたいだけど、自己紹介でアピールは完璧ぃ! 初日から友達もできて、これなら友達百人も夢じゃない! なんてねぇ♪)
 休憩時間になり、新たに出来たクラスメイト達と屈託なく笑い合うサクラ。
 で、あったが……
 その楽し気な青春の一ページは、静止画の様にピタリと止まり、
「はぁ~~~」
 暗く、長く尾を引くため息と共にバリッと音を立て、真っ二つに引き裂かれた。
「馬鹿でねぇが……日記さぁウソ書いで……」
 地方特有の訛りを感じる、仄暗い少女の声。
 声の少女は暗い室内で、何の飾り気も無い電気スタンドの灯りの下、手にした日記の破った一ページ目をため息交じりに見つめた。
 サクラの高校生活初日の華々しいデビューは、日記の一ページ目に綴られた、彼女の妄想であった。
 どこの事務所から持って来たか分からない様な、何の飾り気も無い年代物のスチール机とセットの事務イスに座る、ちゃんちゃんこ 姿の少女。机に上には写真立てに入った、公園などの何枚かの風景写真。
 ごわついた「おかっぱ黒髪」に眼鏡をかけ、世の中を憂いた様な、仄暗い目をした彼女こそが「九山サクラ」の真の姿である。
(入学式なんて……二週間も前の話でねぇがぁ……)
 クシャクシャに丸められ、足下のゴミ箱に投げ捨てられる、麗しき高校生活初日。

 サクラは東北の過疎化の進む「とある村」から、親族間の揉め事から逃れる為に単身上京し、生計は高校生活を送りながら、バイトで立てるつもりでいた。
 しかし不慣れな都会生活と、まだ見ぬクラスメイト達との高校生活に不安を覚え、そこから発生したストレスの為か、よりによって入学初日から一週間インフルエンザで休学を余儀なくされ、地元中学出身者ばかりの中、友達作りに完全に出遅れる形となってしまった。
 そんな彼女にとって幸運であったのは、教室内の雰囲気である。
 良く言えば裏表のない、明け透けない性格のクラス担任女性教諭である「上越 トキ」の気質の影響か、クラス内の雰囲気は非常に明るく、クラスメイト達は遅ればせながら登校した彼女を、温かく迎い入れてくれた。
 とは言え一週間も経てば、仲良しグループは構築された後。
 余所者でもあり、出遅れたサクラに、容易に入り込む余地など残されていなかったが、このクラスならばサクラから積極的に関わりを持とうとすれば、受け入れてもらえる筈である。
 しかし彼女の「引っ込み思案な性格」と、「方言が出て馬鹿にされるかも知れない」と言うコンプレックスが気後れさせ、自ら「お一人様ポジション」を確立してしまった。
 だが、彼女が他人との接触を避けるのは、性格からだけではない。
 何より、彼女が地元を出る起因を作った「とある理由」が人との関わりを遠ざけさせ、新天地として東京を選んだ理由も「他者との関係が希薄だ」と言われるが故であった。
 と、言っても、まだ十代の女の子である。
 如何な理由があるにせよ、他の生徒達が他愛ない話に花を咲かせている姿を横目で見れば、友達が欲しいと思うのは当然であり、サクラは「他人とかかわりを持ちたくない気持ち」と「友達が欲しい気持ち」の狭間で葛藤し、日記の上に突っ伏した。
(こたら(こんなに)悩むなら、学校さ行きたくねなぁ(行きたくないな)……)
 そんな思いが一瞬脳裏をよぎると慌てて起き上がって、首を横に振り、
「けっぱれ(頑張れ)わ(私)! ちゃんと卒業ばして、あの人達さ見返すんだじぁ!」
 薄暗い部屋で鼻息荒く、自らを鼓舞するサクラであった。

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