3 / 88
続章_1
しおりを挟む
東京都二十三区外の某市。
暖かな春の陽射しが眠りに就いていた生き物達に、優しく目覚めを促がす四月。
満開の桜並木が淡いピンク色で彩る川沿いを、腰までありそうな栗毛をキラキラたなびかせた一人の制服少女が、息を切らせて駆け抜ける。
少女は春の訪れを待ちわびていたのか様に、幼さの残る顔に満面の笑みを浮かべ、
(わたくしこと九山(くやま)サクラは、今年から東京で一人暮しを始めます! 今日から華の女子高生であります!)
少女は登校中の生徒達の間を駆け、アーチ型の正門の下をくぐる。
場面は教室内へと移り、サクラは初のホームルームで、これから共に学ぶクラスメイト達を前に明朗闊達、明るく歯切れよく、元気に自己紹介。
(地元中学の人が多いみたいだけど、自己紹介でアピールは完璧ぃ! 初日から友達もできて、これなら友達百人も夢じゃない! なんてねぇ♪)
休憩時間になり、新たに出来たクラスメイト達と屈託なく笑い合うサクラ。
で、あったが……
その楽し気な青春の一ページは、静止画の様にピタリと止まり、
「はぁ~~~」
暗く、長く尾を引くため息と共にバリッと音を立て、真っ二つに引き裂かれた。
「馬鹿でねぇが……日記さぁウソ書いで……」
地方特有の訛りを感じる、仄暗い少女の声。
声の少女は暗い室内で、何の飾り気も無い電気スタンドの灯りの下、手にした日記の破った一ページ目をため息交じりに見つめた。
サクラの高校生活初日の華々しいデビューは、日記の一ページ目に綴られた、彼女の妄想であった。
どこの事務所から持って来たか分からない様な、何の飾り気も無い年代物のスチール机とセットの事務イスに座る、ちゃんちゃんこ 姿の少女。机に上には写真立てに入った、公園などの何枚かの風景写真。
ごわついた「おかっぱ黒髪」に眼鏡をかけ、世の中を憂いた様な、仄暗い目をした彼女こそが「九山サクラ」の真の姿である。
(入学式なんて……二週間も前の話でねぇがぁ……)
クシャクシャに丸められ、足下のゴミ箱に投げ捨てられる、麗しき高校生活初日。
サクラは東北の過疎化の進む「とある村」から、親族間の揉め事から逃れる為に単身上京し、生計は高校生活を送りながら、バイトで立てるつもりでいた。
しかし不慣れな都会生活と、まだ見ぬクラスメイト達との高校生活に不安を覚え、そこから発生したストレスの為か、よりによって入学初日から一週間インフルエンザで休学を余儀なくされ、地元中学出身者ばかりの中、友達作りに完全に出遅れる形となってしまった。
そんな彼女にとって幸運であったのは、教室内の雰囲気である。
良く言えば裏表のない、明け透けない性格のクラス担任女性教諭である「上越 トキ」の気質の影響か、クラス内の雰囲気は非常に明るく、クラスメイト達は遅ればせながら登校した彼女を、温かく迎い入れてくれた。
とは言え一週間も経てば、仲良しグループは構築された後。
余所者でもあり、出遅れたサクラに、容易に入り込む余地など残されていなかったが、このクラスならばサクラから積極的に関わりを持とうとすれば、受け入れてもらえる筈である。
しかし彼女の「引っ込み思案な性格」と、「方言が出て馬鹿にされるかも知れない」と言うコンプレックスが気後れさせ、自ら「お一人様ポジション」を確立してしまった。
だが、彼女が他人との接触を避けるのは、性格からだけではない。
何より、彼女が地元を出る起因を作った「とある理由」が人との関わりを遠ざけさせ、新天地として東京を選んだ理由も「他者との関係が希薄だ」と言われるが故であった。
と、言っても、まだ十代の女の子である。
如何な理由があるにせよ、他の生徒達が他愛ない話に花を咲かせている姿を横目で見れば、友達が欲しいと思うのは当然であり、サクラは「他人とかかわりを持ちたくない気持ち」と「友達が欲しい気持ち」の狭間で葛藤し、日記の上に突っ伏した。
(こたら(こんなに)悩むなら、学校さ行きたくねなぁ(行きたくないな)……)
そんな思いが一瞬脳裏をよぎると慌てて起き上がって、首を横に振り、
「けっぱれ(頑張れ)わ(私)! ちゃんと卒業ばして、あの人達さ見返すんだじぁ!」
薄暗い部屋で鼻息荒く、自らを鼓舞するサクラであった。
暖かな春の陽射しが眠りに就いていた生き物達に、優しく目覚めを促がす四月。
満開の桜並木が淡いピンク色で彩る川沿いを、腰までありそうな栗毛をキラキラたなびかせた一人の制服少女が、息を切らせて駆け抜ける。
少女は春の訪れを待ちわびていたのか様に、幼さの残る顔に満面の笑みを浮かべ、
(わたくしこと九山(くやま)サクラは、今年から東京で一人暮しを始めます! 今日から華の女子高生であります!)
少女は登校中の生徒達の間を駆け、アーチ型の正門の下をくぐる。
場面は教室内へと移り、サクラは初のホームルームで、これから共に学ぶクラスメイト達を前に明朗闊達、明るく歯切れよく、元気に自己紹介。
(地元中学の人が多いみたいだけど、自己紹介でアピールは完璧ぃ! 初日から友達もできて、これなら友達百人も夢じゃない! なんてねぇ♪)
休憩時間になり、新たに出来たクラスメイト達と屈託なく笑い合うサクラ。
で、あったが……
その楽し気な青春の一ページは、静止画の様にピタリと止まり、
「はぁ~~~」
暗く、長く尾を引くため息と共にバリッと音を立て、真っ二つに引き裂かれた。
「馬鹿でねぇが……日記さぁウソ書いで……」
地方特有の訛りを感じる、仄暗い少女の声。
声の少女は暗い室内で、何の飾り気も無い電気スタンドの灯りの下、手にした日記の破った一ページ目をため息交じりに見つめた。
サクラの高校生活初日の華々しいデビューは、日記の一ページ目に綴られた、彼女の妄想であった。
どこの事務所から持って来たか分からない様な、何の飾り気も無い年代物のスチール机とセットの事務イスに座る、ちゃんちゃんこ 姿の少女。机に上には写真立てに入った、公園などの何枚かの風景写真。
ごわついた「おかっぱ黒髪」に眼鏡をかけ、世の中を憂いた様な、仄暗い目をした彼女こそが「九山サクラ」の真の姿である。
(入学式なんて……二週間も前の話でねぇがぁ……)
クシャクシャに丸められ、足下のゴミ箱に投げ捨てられる、麗しき高校生活初日。
サクラは東北の過疎化の進む「とある村」から、親族間の揉め事から逃れる為に単身上京し、生計は高校生活を送りながら、バイトで立てるつもりでいた。
しかし不慣れな都会生活と、まだ見ぬクラスメイト達との高校生活に不安を覚え、そこから発生したストレスの為か、よりによって入学初日から一週間インフルエンザで休学を余儀なくされ、地元中学出身者ばかりの中、友達作りに完全に出遅れる形となってしまった。
そんな彼女にとって幸運であったのは、教室内の雰囲気である。
良く言えば裏表のない、明け透けない性格のクラス担任女性教諭である「上越 トキ」の気質の影響か、クラス内の雰囲気は非常に明るく、クラスメイト達は遅ればせながら登校した彼女を、温かく迎い入れてくれた。
とは言え一週間も経てば、仲良しグループは構築された後。
余所者でもあり、出遅れたサクラに、容易に入り込む余地など残されていなかったが、このクラスならばサクラから積極的に関わりを持とうとすれば、受け入れてもらえる筈である。
しかし彼女の「引っ込み思案な性格」と、「方言が出て馬鹿にされるかも知れない」と言うコンプレックスが気後れさせ、自ら「お一人様ポジション」を確立してしまった。
だが、彼女が他人との接触を避けるのは、性格からだけではない。
何より、彼女が地元を出る起因を作った「とある理由」が人との関わりを遠ざけさせ、新天地として東京を選んだ理由も「他者との関係が希薄だ」と言われるが故であった。
と、言っても、まだ十代の女の子である。
如何な理由があるにせよ、他の生徒達が他愛ない話に花を咲かせている姿を横目で見れば、友達が欲しいと思うのは当然であり、サクラは「他人とかかわりを持ちたくない気持ち」と「友達が欲しい気持ち」の狭間で葛藤し、日記の上に突っ伏した。
(こたら(こんなに)悩むなら、学校さ行きたくねなぁ(行きたくないな)……)
そんな思いが一瞬脳裏をよぎると慌てて起き上がって、首を横に振り、
「けっぱれ(頑張れ)わ(私)! ちゃんと卒業ばして、あの人達さ見返すんだじぁ!」
薄暗い部屋で鼻息荒く、自らを鼓舞するサクラであった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる