奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_11

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 しばし後―――
 西日で赤く照らされた、築年数を感じさせる昭和風、木造二階建アパート。
 二階の玄関扉の前にせり出した、渡り廊下の様な通路の端がサクラの部屋である。
 しかし外階段は片側にしか無く、サクラは階段を上がって、通路の突き当りまで行かねばならず、不便さを感じる位置にある部屋ではあったが、年季が入り、元々安い家賃のこのアパートの中において場所の悪さから一際安く、一人で生計を立てなければならないサクラにとっては、不便さと差し引いても有難い物件であった。
 元は鮮やかな青い色であったろう錆だらけの外階段を、サクラは軽やかな足取りで上がり、自室の扉を開け、
「ただいまぁ~」
 西日の差し込む薄暗い室内へ、返事が返えらぬと知りながら挨拶をすると、扉を閉めた。
 一人暮らしであるにもかかわらず、靴を脱ぎ揃え置くサクラ。
 軟禁生活を送っていたとは言え、育ちの良さが窺える。
 物悲しい空気を醸し出す、西日に照らされた六畳一間に入るサクラであったが、その表情には一人暮らしの孤独から来る悲壮感は見受けられず、むしろ心なし以前より穏やかに思える表情で、サクラはおもむろに、机の横のゴミ箱の中から昨日破り捨てた日記の一ページを拾い上げ、丁寧に広げてシワを伸ばすと、
「ごめんね」
 小さく笑って、元のページに透明テープで貼り戻した。
 貼り戻したヨレたページを見つめ、ヒカリとの会話を思い出すサクラ。
    ※          ※          ※
「ハーくんはね、物と話せる能力を持ってるんだ。仕組みは分からないけど」
「どんな物でも!?」
「物質はダメだって言ってた。えぇ~と、粉々になったコップとか、人で言う「大ケガして死んじゃった」みたいな物とは話せないんだって。で、そのハーくんが言うには、サクラちゃんの持ち物達がみんな怒ってたから手助けしたんだって。それだけじゃないクセに、ホント照れ屋で、素直じゃないんだぁ」
「じゃあ、私のチカラの事も?」
「うん。でもどんなチカラかまでは、教えてくれなかった」
「そう……」
「「他ならぬボクが聞いてるんだから、良いじゃないかって」言ったら、「そう言う問題じゃない」って。まったくケチなんだから。そう言えばハーくんから伝言で、「文房具達が怒ってるから破った日記を直しとけ」って、どう言う意味?」
 ギョッとするサクラ。
 ヒカリの顔色を窺うように、
「内容とかって聞いて……」
「ないよ。知ってても教えてくれないし。って言うか、破り捨てたくなる日記って、何を書いてたの?」
「あはははは……ナイショ……」
 笑って誤魔化すサクラ。
    ※          ※          ※
 笑みを浮かべ、直した日記を見つめるサクラ。
 鉛筆を手に取ると妄想文章に大きくバツを書き、代わりにページの一番下に、一文を書き加えて鉛筆を置き、
「さて、晩御飯にしよ♪」
 明るい口調でシンクに向かって行った。
 書き加えられた一文は、
『今日初めて、本物の友達ができました』
  鼻歌まじりの上機嫌で夕食の支度を始めるサクラであったが、そんな彼女の部屋の様子を、物陰からうかがう一人の影が。

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