奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_23

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 川沿いの、満開を過ぎた桜並木の下のベンチで他愛ない話を語らう四人―――
 夕暮れの少し肌寒く感じる風が四人の頬を撫で流れて行くと、ハヤテはチラリとスマホの時間を見て、
「ヒカリ、送って行くからそろそろ帰ろう」
「えぇ~まだ良いじゃないかぁ~」
 不満タラタラのヒカリであったが、ハヤテは小さなため息を吐き、
「自分の体の事を考えろ。もうスグ飯の時間だ。規則正しい生活を送らないと、二人に会えなくなるんだぞ」
「むぅ~分かったよぉ~」
 渋々立ち上がり、
「ゴメンね、二人とも。また明日ねぇ」
 サクラとツバサも立ち上がり、
「うん。また明日」
「ハイ。また明日でぇす!」
 笑顔で手を振り、ハヤテとヒカリを見送った。
 夕暮れのオレンジ色に染まる道を、二つ並んだ長く伸びる影と共に遠ざかって行くハヤテとヒカリ。
 寄り添う様に並び歩く二人の背に、
(いいなぁ……)
 素直にそう思い、見つめていると、
「良いですよねぇ」
 心を見透かされた様なツバサの声に、一瞬ドキリとして振り向くと、
「サクラさんも、そう思いませんか?」
「あ、う、うん。そうだよねぇ」
 笑って誤魔化し、
(びっくりしたぁ……)
 内心ドキドキしていると、既にハヤテとヒカリの姿は視界から消えていたが、ツバサはヒカリ達が歩いて行った方を見つめ、
「……変わってないなぁ……」
 ポツリと呟いた笑顔の声の中に、サクラは微かな寂しさの色を見て、自身の中にも同じ色の感情がある事に気付き、
(何だろう……この感じ……)
 微かな胸の痛みに手を当てた。

 ツバサと分かれたサクラは川添いから住宅密集地域へと入って行き、自室のあるアパートの前に辿り着いた。
 錆の目立つ階段を、コンコンと軽やかな音をたてて上がり、手狭な渡たり廊下を奥へと進むと、隣部屋の廊下に面した小窓から、料理中であった年配女性が顔を覗かせ、
「お隣ちゃん、お帰り~。学校かえりかい?」
「どっ、どうもです!」
 緊張した面持ちで、笑顔を引きつらせながら頭を下げるサクラ。
 女の子の一人暮らしである事から、何かと気に掛けてくれる女性ではあったが、人付き合いに慣れていないサクラにとっては有り難い反面、緊張してしまう場面でもあった。
 しかし今時珍しい肝っ玉母さん風のオーラを放つ女性は、サクラの緊張などどこ吹く風、
「家の部屋の前にある子供達の自転車、通るのに邪魔だったら蹴飛ばしてくれて構わないからねぇ! 端に寄せろって言っても、聞きやしないだよぉ」
「アハハハ。だ、大丈夫ですからぁ」
 もう一度頭を下げ、お茶を濁して通り過ぎようとすると、
「お隣ちゃん、何か良いことでもあったのかい?」
「え?」
 思わず足を止め、振り返るサクラに、
「妙に嬉しそうな顔をしてるからさ」
「へ、ヘンな顔してましたかぁ!?」
 気を遣って、遠回しに何か指摘してくれたのかと思い慌てると、女性はニッと歯を見せ笑顔で、
「いやぁ。ここに来た時より、ずっ~と良い顔してるよぉ」
「!」
 ハッとするサクラ。
 このアパートで独り暮らしを始めた頃、実家から逃げ出し、これからお金も含めて、自分一人のチカラで生きて行かなければならないと思うプレッシャーから、毎日心が重かった。
 しかしヒカリとハヤテ、そしてツバサと出会い、むしろ今は心が軽くなっているのに気が付いた。
(ヒカリちゃん達のお陰だぁ♪)
 サクラは憂いない笑顔を隣室女性に向け、三度目の頭を下げると、跳ねる様に部屋へと駆け込んだ。
 玄関扉を閉めて寄り掛かると、
(たげ(とても)嬉しいじゃぁぁあぁぁぁぁああぁぁ!)
 叫びたくなる歓呼の声を懸命に堪えつつ、喜びを抑えきれないサクラは満面の笑みでその場で足踏みした。
(早く明日に、ならねべぇかぁ(ならないかなぁ)!)
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