奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_78

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 加津佐が再びスマートフォンに手を掛けると、それまで沈黙を貫いていたハヤテが小さな笑みを浮かべ、
「なるほどなぁ」
 スマートフォンを取り上げた。
「なっ、何をする東ハヤテ!」
 血相を変え取り返そうとすると、ハヤテはそれをジェスチャーで制し、奪ったスマートフォンをツバサに渡した。
「すみませんねぇ、南先輩。ハヤトを警察に渡す前に、する事が出来たんでねぇ」
「なん、だとぉ?」
「初めからおかしいと思ってたんですよぉ。ストーカー行為をするのに、わざわざ学校の制服を着て、地元の住民達に目撃されていたのが。まるで印象付けようとしているみたいだ」
「東ハヤテ……貴様何が言いたい?」
 加津佐が怪訝な顔をすると、ハヤテはフッと小さく笑い、
「ハヤトの言っている事が本当で、陰でほくそ笑んでる真犯人がいるって話ですよ」
「「「「「!」」」」」
 驚く加津佐、新津屋、千穂、ミズホ、そして囚われのままのハヤト。
 ハヤテはチラリとサクラを見、
「間違いないな、サクラ」
「うん。豊葦原くんは、嘘を言ってないよ」
 サクラに本心を見抜く能力がある事を知らない人間からすれば、何の根拠も感じられない一言であるが、数々の罪状を並べられ、あまつさえ殺人未遂まで付与され窮地に立つハヤトは、地獄に仏を見たかの様な表情でサクラを見上げ、
「九山サクラぁ~」
 緩んだ笑みを浮かべたが、サクラは怒りの表情で奥歯をギリリと鳴らし、
「だからってアパートを放火した事実は変わらないし、貴方を許した訳じゃない!」
 見下ろすと、ハヤトは返す言葉なく視線を落とした。
 すると警察への通報を何度も阻害された加津佐が目を血走らせて立腹し、
「いい加減にしろォ! 口先だけなら、どうとでも言えるだろォ! なら東ハヤテぇ! 貴様の言うところの真犯人は誰だと言うのだ!」
 詰問に、ハヤテは口元に微かな笑みを浮かべ、人差し指をスッと上げた。
 一人の人物を指し示し、ピタリと止まる人差し指。
「アンタですよ、『南加津佐』先輩」
「な!?」
「「「「!」」」」
 度肝を抜かれた驚き顔をする加津佐と、新津屋、千穂、ミズホ、ハヤト。
 真っ直ぐ見据えるハヤテの目は、笑みを浮かべた口元とは対照的に、大切な仲間達を傷つけられた事に対する怒りに満ち満ちていた。
 しかし「クセ者の新津屋」の片腕である彼女は堂に入ったもの。一瞬驚きはしたものの、
「何を馬鹿な事を言っている、東ハヤテ! そもそも私には動機がない!」
 すげ無く一蹴したが、ハヤテは追撃の手を緩めず、
「新津屋先輩を生徒会会長に返り咲かせる為ですよ!」
「なっ!?」
「それと親の権力を傘に、新津屋先輩を会長職から引きずり降ろした『豊葦原一族』に対する報復。男子の制服を着て行ったストーカー行為は、背格好の近い『豊葦原ハヤト』を犯人に仕立てる為のお膳立てだったんですよねぇ」
「そんなあやふやな憶測で、私を真犯人にするつもりなのか! 私が会長に迷惑が掛かる、警察沙汰など冒す筈がないだろうォ!」
 怯んだ様子も見せず反論する加津佐を、ジッと睨む様に見つめていたサクラであったが、おもむろに、
「南先輩、今嘘をついた」
「な!?」
 不意を突かれ、驚き振り返った加津佐は、真っ直ぐ見据えるサクラと目が合った。
 その何もかも見透かした様な、今にも吸い込まれてしまいそうな瞳に、
(な、何なのだ……九山サクラの……この眼は!?)
 初めてうろたえる加津佐であったが、
「だ、黙れ黙れぇ九山サクラ! 先程から根も葉もない! そもそも証拠はあるのか!」
 絡みつく疑惑を振りほどくかのように言い放つと、ハヤテは落ち着いた口調で加津佐を見据え、
「だったら逆に聞きますがねぇ、先輩。さっきアイ先生を襲撃した犯人がハヤトだと言ってましたが……その証拠はどこにあるんスか?」
「何を言っている、東ハヤテ! ボタンは男子生徒の物で、しかも一連の事件に、写真部に遺恨を持つ豊葦原ハヤトが関わっているとなれば容易に関連付け出来る話であろう!」
「なんで「男子生徒のボタン」の事を知ってるんスか、先輩?」
「!?」
「俺は新津屋先輩に『ストーカーが落としていった、この学校の制服のボタンがある』としか伝えてませんよ?」
「そ、それは類推したのだよ! 言ったであろう? 『一連の事件に豊葦原ハヤトが関わっているとなれば容易に関連付け出来る話』と!」
「確かに……」
 ハヤテはヒカリ、サクラ、ツバサにアイコンタクトを送り、三人が頷き返したのを確認すると口元に微かな笑みを浮かべて、加津佐を改めて見据え、
「なら最後に一つ聞きますが、南先輩」
「な、なんだ!」
「どうしてアイ先生が襲撃された事を知ってるんですか?」
「!」
「アイ先生は警察沙汰になるのを嫌い、この話は伏せていたんですよ。だからアイ先生が襲撃を受けた話は写真部部員と、襲撃者本人しか知らない話の筈なんスけどねぇ」
「そ、それ、それは…………」
 落ち着きなく視線が泳ぐと、ツバサが「トドメ」と言わんばかり、
「お望みの証拠の品も手に入ったですよ!」
 加津佐のスマートフォンを高々掲げた。
 ハヤテと加津佐が問答している間に、ツバサは自身のタブレットと加津佐のスマートフォンを有線接続して中のデータを解析していたのである。
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