奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_82

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 一夜明けた昼休み―――
 台車をゴロゴロ言わせながら、学校の廊下を歩くハヤテ達。
 四人がそれぞれ押す台車の上には、保健室で保管されていた写真部の機材一式が乗せられていた。
 新任の養護教諭に保健室へ呼び出されたハヤテ達は、機材の引き取りを言い渡されたのである。
 養護教諭曰く、
『保健室は衛生を保たないといけないから、屋外活動の多い写真部員に部室にされて出入りされると困るの』
 との事で、顧問も失った写真部は、すげなく保健室から追い出されたのであった。
「アイ先生が急に辞めちゃったんだから、ちょっと位、待ってくれたって良いのにねぇ~」
 不満たらたらのヒカリに、
「まったくでありますよぉ~」
 同調して憤慨するツバサ。
 そもそもが裏技的に、強引に保健室を使っていたのは写真部であり、やり場のない不満をぶつけるが如く新任養護教諭に憤る二人の会話を、
「あははは……」
 サクラは笑って聞き流し、
「それでハヤテくん、これからどうするのぉ? 一旦教室に戻る?」
 すると先頭を行くハヤテが振り返り、
「流石にこれだけの機材を持って、教室に行く訳にはいかないからなぁ。一先ず、こんな事になった責任を取ってもらいに行くかぁ」
「「「責任?」」」
 首を傾げる三人娘を連れハヤテがやって来たのは、生徒会室であった。
「新津屋先輩、失礼しまぁす!」
 当てつけの様に、返答を待たずにいきなり扉を開けるハヤテであったが、扉が開くなり、
「ハッハッハッ! 写真部諸君よく来たねぇ、新しい副会長を紹介しようぉ! 有明ツバメ(ありあけつばめ)君だ!」
 新津屋は「待ってました」と言わんばかり、一人の女子生徒を指し示した。
 女子生徒はホンワカした笑みを浮かべて立ち上がり、
「えぇ~~~とぉ~~~さぁんねぇんのぉ~有ぃ明ぇツぅバぁメぇ~でぇ~~~すぅ」
 「アイモード」を彷彿とさせるおっとり加減。いや、それ以上か。
((((昨日の今日で、もう新しい人ぉ!?))))
 サクラ達がギョッとすると、察した新津屋がいつも通りの満面の作り笑顔のまま、
「生徒会運営を滞らせては生徒諸氏に迷惑が掛かるので、急ぎ人選したのだよぉ。そして、」
「そんな事はどうでも良いんスけどぉ」
 ハヤテは長引きそうな話を切って落とし、
(そんな話ってぇ……)
 困惑笑いを浮かべるツバメを尻目に、
「俺達、生徒会のゴタゴタのあおりを受けてこんな事になったんスよ?」
 保健室から追い出された機材たちを見せ、
「このままじゃ廃部になるんで、顧問と活動場所を何とかしてもらえないスかねぇ?」
 責める様な顔をしたが、新津屋はいつも通りの満面の作り笑顔のまま、
「ハッハッハッ。確かに「生徒会」は、君達「写真部」に迷惑をかけはしたが、それと「東(ひがし)アイ」教諭が辞めた話とは別問題ではないのかねぇ?」
「うっ……」
 痛い所を突かれるハヤテ。
 明かす事が出来ない裏の事情から言えばハヤテの言う通りであるが、表の事情のみで言えば新津屋の言う通りである。
「…………」
 隠された事実をつまびらかにする訳にはいかず、ハヤテが二の句を告げずにいると、ヒカリがすかさず、
「会長さん、何とかしておくれよぉ! コンテストの提出期限も迫って来てて、時間も無いんだよぉ!」
 フォローの泣き落とし。
 すると新津屋は「ハッハッハッ」とひと笑い、
「私としても協力を惜しむつもりはないのだが、あいにく部室棟に空き部屋が無いのだよ」
「そんなぁ~」
 ヒカリが落胆を露わにすると、千穂がスッと手を上げ、いつも通りの無表情で、
「会長、例の部屋なら空いてる」
「ん?」
 新津屋は一瞬考え、千穂が言わんとしている何かしらの意図を察し、
「ハッハッハッ! なるほどぉ! 確かに「あの部屋」は空いているなぁ!」
 高笑いを一つ上げ、
「実は少子化の影響で生徒数が減少していて、空き教室があるのだよ。部室棟でなくても構わなければ、」
 言い切るより先、ヒカリ達は笑顔を見合わせ、
「活動出来るなら、どこだって構わないよぉ!」
「ハッハッハッ! ならば交渉成立だ!」 
 新津屋は懐から用紙を出すと、自らサラサラと何事か書き、
「早速、教室の使用許可申請用紙に記載してもらえるかね!」
 ペンと一緒に、ヒカリの前に差し出した。
 ヒカリが書き易い様にと、用紙上部を抑える新津屋。
 用紙上部の申請部活名記入欄には、今しがた新津屋が書いたと思われる『写真部』との記入が既にあり、ヒカリは残りの「申請理由」などの項目を書いて埋めた。
 書き終わるや否や、新津屋は用紙を素早く懐にしまい、
「迷惑を掛けたお詫びと言ってはなんだが、顧問についても生徒会が責任を持って何とかしようではないか!」
 何故、今まで提案しなかったのか、不思議なくらいの至れり尽くせり。
 しかしヒカリとツバサは気にする素振りも見せず、笑顔満面、最高の喜びでハイタッチ。
 求められたサクラも笑顔でハイタッチ。照れ臭そうにハイタッチを拒むハヤテを笑顔で見つめたが、
(ヒカリちゃんに、用紙を書くように言った時の会長さんの声の色……何だったんだろ……)
 内心では一抹の不安を感じていた。
 嘘をついている声の色ではないし、写真部の事を考えた発言である事も間違いないのだが、その色達の奥に、一言では言い表せない色を一瞬だけ垣間見た気がした。
(南先輩が警察に捕まった時に、小声で掛けた声の色と似ていたような……)
 部室と顧問の確保の確約を素直に喜べずにいると、不安を察したハヤテが自然な流れで新津屋に背を向け小声で、
(サクラ、どうかしたか?)
「あ……」
 抱いた不安を口にしかけたが、
「「「「「ハッハッハッ!」」」」」
 新津屋、千穂、ツバメと一緒に、新津屋の笑いマネをする楽しそうなヒカリとツバサの姿が目に留まり、
(考え過ぎ、だよね……)
 そう思い直し、
「ううん。何でもない!」
 余計な心配を掛けまいと、精一杯の笑顔を見せた。
「そうか」
 安堵した笑みを返すハヤテ。
 昼休みも終わりに近づき、ハヤテ達は一先ず機材一式を生徒会室で預かってもらい、教室へと戻った。

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