奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

文字の大きさ
85 / 88

続章_83

しおりを挟む
 その日の放課後―――
 機材を乗せた台車を押すハヤテ達四人。
 新津屋から渡されたメモを頼りに、新部室へと向かっていた。
「えぇ~と……教室棟の三階……体育館への渡り廊下と反対側の……一番奥……」
 今年入学したハヤテ達は知る由も無いのだが、新津屋が言っていたように、少子化に伴い生徒数が減少して余裕教室が出来てしまった為、教室棟は部屋割りを見直し、一年生から三年生の教室を一階から二階までに収め、空いた三階の教室は、準備室や物置として使用していた。
 初めて立ち入る三階はひと気が無く、閑散とし、静寂が支配していた。
 時折遠くから、部活動に励む生徒たちの掛け声や、演奏の音などが聞こえて来る。
 生者のいない教室の前を幾つか通り過ぎ、指定された、突き当たりの教室の前に立つハヤテ達。
「何か……端に追いやられた感が否めませんであります……」
 困惑した表情を浮かべるツバサ。
 そこは正に端。
 非常階段もなく、廊下の窓から眺める景色は遮る物が何も無い。
 ある意味絶景。
 サクラは窓から階下を眺め、
(外に出るのが、ちょっと大変そう……)
 心の中でツバサと同様に不満を抱いていたが、念願であった部室を手に入れた事と秤にかけ、
(贅沢を言い出したらキリがないよねぇ)
 そう思い直すと、振り返ってひと気の無い、閑散とした廊下を眺め、
「人がいなくて、私は良いかなぁ~」
 するとツバサも、
「それもそうでありますねぇ」
 笑顔を見せ、二人が笑い合っていると、ヒカリが満面の笑顔でテンション高く、
「良いじゃない! ボク達、これで正真正銘、一国一城の主だよ! ねぇ、ハーくん!」
「ハーくん言うな。まぁ、確かに、そうとも言えるけどなぁ」
 ハヤテも何か思うところがあるのか、含んだ笑顔を見せつつ、
「とにかく早速入ってみようぜ」
 鍵を開け、引き戸を開けた途端、
「「「「ゴホッ! ゴホゴホッ!」」」」
 埃がもうもうと立ち上り、ハヤテ達は激しく咳き込んだ。
 いったい、いつから使われていない教室なのか。
「ゴホッゴホッ! ひ、ヒカリ大丈夫かぁ! こ、コイツは掃除が先だなぁ!」
 咳き込みながら、涙目で教室の窓を開けるハヤテ。
「ゴホッゴホッ! だ、大丈夫だよぉ!」
 部屋の灯りを点けるヒカリ。
 室内は使っていない机やイスの他に、彫像やら看板など、何だか分からない埃を被った物だらけ。
「ゴホッゴホッ! 整理して、引き取ってもらった方が良いかもね、ゴホッ」
 涙目で室内を見回すと、ツバサも涙目で咳き込みながら、
「エホッエホッ! それじゃサクラさん、エホッ! 私たちはトイレの用具入れから、エホッ! とりあえず掃除に使えそうな物を持ってきましょう、エホホッ!」
「ケホッケホッ! そ、そうだね、ツバサちゃん、ケホッ!」
 二人は埃まみれの教室を出ると、真反対の端にある女子トイレに向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...