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5.愁嘆の大地の章-27
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「追おう!」
「うん!」
駆け出るヤマトとジセ。
血相を変え、最下層へと走る艦長。
(早まるんじゃないぞ、オリビア君!)
階段を飛ぶ様に駆け下り、営倉前の見張りのクルーに、
「彼女は! 彼女はどうした! オリビア君はァ!」
「どっ、どうされたんですか艦長、そんなに血相を、」
「いいから彼女は無事なのかァ!」
「はぁ。静かなモンで物音一つ、」
「今スグ開けるんだ!」
「え? あっ、は、はい!」
艦長の勢いに戸惑いつつ扉を開け、
「「「「!!」」」」
全員驚き言葉を失った。
仄暗い室内で床に横たわり、絶命するオリビア。
服毒したと思われる彼女は、苦しみから裾を乱さない様にとの配慮からなのか、着ていた上着でスカートの上から両膝を縛り、静かに横たえていた。
そして傍らには、自身の血文字で短く、
『I’m spy. Sorry.』
それは艦長へ宛てた「スパイとして処理して欲しい」との、遠回しのメッセージであった。
しかし秘められた事情を知らないクルーは激しい嫌悪と怒りを露わ、
「やっぱりコイツ、スパイだったのかァ!」
唾棄する様に吐き捨て、
「副長たちを呼んできます!」
駆け出して行った。
薄暗い営倉でひっそりと、たった一人で息絶えたオリビアの傍らに艦長は屈み、震える両手でそっと抱き上げた。
悲痛な表情でヤマトにすがるジゼ。
ヤマトは沈痛な表情でジゼを抱き支え、
「オリビアさんは「子供達の裏切り者」になるより、「ガルシアの裏切り者」になる事を選んだんですね……」
帽子のつばで顔の隠れる艦長は肩を震わせ、
「どうしてだ……他に……他に選択肢はあった筈……何故……何故答えを見つけるまで待ってくれなかったのだ……」
大きな背中は泣いていた。
潜入工作員とは、いつ素性が知れて捕まり、背後関係を調べる為に拷問を受けるとも知れない兵士である。
そんな彼女が、取り調べを受ける以前に自害する方法は幾つも心得ていた筈であり、まして彼女は船医。誰よりも薬品に通じ、誰よりも身近に多量の薬品があり、人体についても詳しかった。
収監するに当たり、その事実は念頭に置くべき事であり、見過ごされた全ての条件が、総じて彼女を不幸へと追いやってしまったのである。
彼女の苦悩は計り知れず、のしかかる重苦に耐え兼ねた事も要因の一つであったと思われるが、それ以上にイサミ達が真実を知り、心に深い傷を負う事を避ける為、オリビアは全ての罪を黙して背負い、奥歯に仕込んだ毒を飲み込んだ事は容易に想像出来る。
今となっては真意を問う事は不可能であるが、「スパイとして処理して欲しい」と言う遠回しの遺言が、全てを物語っていた。
「うん!」
駆け出るヤマトとジセ。
血相を変え、最下層へと走る艦長。
(早まるんじゃないぞ、オリビア君!)
階段を飛ぶ様に駆け下り、営倉前の見張りのクルーに、
「彼女は! 彼女はどうした! オリビア君はァ!」
「どっ、どうされたんですか艦長、そんなに血相を、」
「いいから彼女は無事なのかァ!」
「はぁ。静かなモンで物音一つ、」
「今スグ開けるんだ!」
「え? あっ、は、はい!」
艦長の勢いに戸惑いつつ扉を開け、
「「「「!!」」」」
全員驚き言葉を失った。
仄暗い室内で床に横たわり、絶命するオリビア。
服毒したと思われる彼女は、苦しみから裾を乱さない様にとの配慮からなのか、着ていた上着でスカートの上から両膝を縛り、静かに横たえていた。
そして傍らには、自身の血文字で短く、
『I’m spy. Sorry.』
それは艦長へ宛てた「スパイとして処理して欲しい」との、遠回しのメッセージであった。
しかし秘められた事情を知らないクルーは激しい嫌悪と怒りを露わ、
「やっぱりコイツ、スパイだったのかァ!」
唾棄する様に吐き捨て、
「副長たちを呼んできます!」
駆け出して行った。
薄暗い営倉でひっそりと、たった一人で息絶えたオリビアの傍らに艦長は屈み、震える両手でそっと抱き上げた。
悲痛な表情でヤマトにすがるジゼ。
ヤマトは沈痛な表情でジゼを抱き支え、
「オリビアさんは「子供達の裏切り者」になるより、「ガルシアの裏切り者」になる事を選んだんですね……」
帽子のつばで顔の隠れる艦長は肩を震わせ、
「どうしてだ……他に……他に選択肢はあった筈……何故……何故答えを見つけるまで待ってくれなかったのだ……」
大きな背中は泣いていた。
潜入工作員とは、いつ素性が知れて捕まり、背後関係を調べる為に拷問を受けるとも知れない兵士である。
そんな彼女が、取り調べを受ける以前に自害する方法は幾つも心得ていた筈であり、まして彼女は船医。誰よりも薬品に通じ、誰よりも身近に多量の薬品があり、人体についても詳しかった。
収監するに当たり、その事実は念頭に置くべき事であり、見過ごされた全ての条件が、総じて彼女を不幸へと追いやってしまったのである。
彼女の苦悩は計り知れず、のしかかる重苦に耐え兼ねた事も要因の一つであったと思われるが、それ以上にイサミ達が真実を知り、心に深い傷を負う事を避ける為、オリビアは全ての罪を黙して背負い、奥歯に仕込んだ毒を飲み込んだ事は容易に想像出来る。
今となっては真意を問う事は不可能であるが、「スパイとして処理して欲しい」と言う遠回しの遺言が、全てを物語っていた。
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