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5.愁嘆の大地の章-28
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オリビアが自ら命を絶った次の日の早朝―――
洋上で投錨するガルシア改の、誰もいない後部上甲板に姿を現す二人のクルー。
二人の肩には天秤棒でも担ぐ様に、白い布で覆われた何かが担がれ、
「面倒くせぇ~なぁ~」
「仕方ねぇ~だろぉ~俺らがババくじ引いちまったんだからよぉ~」
舷側の柵の手前まで来ると、二人は呼吸を揃え、
「「そらぁよ!」」
担いでいた何かを海へ放り投げ、上がる水柱に向かい、
「失せろ裏切者ぉ!」
「俺等は死ぬとこだったんだぞォ!」
不愉快そうに吐き捨てるなり背を向け、そそくさと艦内に戻って行った。
次第に遠ざかる話し声。
静かになる上甲板と、波間を漂う白布。
中身は、葬儀も、死に化粧さえしてもらえず、罪人として遺棄されたオリビアの亡骸である。
先日の戦闘で、一歩違えば全員戦死していたかもしれない原因を作った張本人の死であるから、事情を知らないクルー達の怒りも、最もとは言えるのだが。
物陰から、そっと姿を現す艦長、ヤマト、ジゼ、イサミ、トシゾウ、ソウシ。
そしてオリビアの真実を聞いたマリア、ナクア、ジャック。
死の真相はオリビアの遺志を尊重し、イサミ達三人には伏せられたままである。
しばし浮かんでいた白布は、イサミ達の姿を見届けたかの様に、ゆっくりと沈み始める。
暗い海の底へと、ゆっくり消え逝く白布を、涙も見せずジッと見つめるイサミ、トシゾウ、ソウシ。
しかしトシゾウ、ソウシは、オリビアに二度と会う事が叶わない事実を改めて思い知らされ、スパイであったと知りつつ大粒の涙を溢れさせ、届かぬ海へ、海へと懸命に手を伸ばし、
「おりびあぁーーー」
「おりびあぁーーー」
大人の事情など関係ない。
彼等にとって、彼女と過ごした時間こそが真実であり、全てであった。
しかし泣きじゃくる弟二人に対し、イサミは涙一つ浮かべる事無く、
「なかないの! オリビアはスパイなの! ガルシアの「テキ」だったんだからぁ!」
海の底を睨みつけると、
ガァン!
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
集まる視線の先、
「ケッ!」
ジャックが不機嫌に床を蹴り飛ばし、
「気に入らね! 気に入らねぇ! あぁ気に入らねぇーーーーーー!」
オリビアに、この様な悲しい決断を強いた張本人達は藪の中。本当の話をイサミ達にする訳にはいかない上に、罪人としてのオリビアの死を以ての幕引きに、苛立ち露わに奥歯をギリギリと噛み締めると、ヤマトが努めて平静に、
「落着け、ジャック」
苛立つ気持ちはジャックと同じであったが、子供達がオリビアの死に違和感を感じてしまう事を恐れ、強く自制を促した。
「ケッ!」
腹立たし気に横を向くジャック。
その横顔は、「言われなくても分かってる」と言っていた。
皆が一様に、顔には出さないモノの、腸(はらわた)が煮えくり返る思いで波間を見つめていると、
「かんちょう」
イサミが子供らしからぬ、凛然とした表情で振り返り、
「?」
「オリビアは「にんむ」でしんだの?」
「「「「「「!」」」」」」
兵士の眼をしたイサミに、ヤマト達は絶句した。
洋上で投錨するガルシア改の、誰もいない後部上甲板に姿を現す二人のクルー。
二人の肩には天秤棒でも担ぐ様に、白い布で覆われた何かが担がれ、
「面倒くせぇ~なぁ~」
「仕方ねぇ~だろぉ~俺らがババくじ引いちまったんだからよぉ~」
舷側の柵の手前まで来ると、二人は呼吸を揃え、
「「そらぁよ!」」
担いでいた何かを海へ放り投げ、上がる水柱に向かい、
「失せろ裏切者ぉ!」
「俺等は死ぬとこだったんだぞォ!」
不愉快そうに吐き捨てるなり背を向け、そそくさと艦内に戻って行った。
次第に遠ざかる話し声。
静かになる上甲板と、波間を漂う白布。
中身は、葬儀も、死に化粧さえしてもらえず、罪人として遺棄されたオリビアの亡骸である。
先日の戦闘で、一歩違えば全員戦死していたかもしれない原因を作った張本人の死であるから、事情を知らないクルー達の怒りも、最もとは言えるのだが。
物陰から、そっと姿を現す艦長、ヤマト、ジゼ、イサミ、トシゾウ、ソウシ。
そしてオリビアの真実を聞いたマリア、ナクア、ジャック。
死の真相はオリビアの遺志を尊重し、イサミ達三人には伏せられたままである。
しばし浮かんでいた白布は、イサミ達の姿を見届けたかの様に、ゆっくりと沈み始める。
暗い海の底へと、ゆっくり消え逝く白布を、涙も見せずジッと見つめるイサミ、トシゾウ、ソウシ。
しかしトシゾウ、ソウシは、オリビアに二度と会う事が叶わない事実を改めて思い知らされ、スパイであったと知りつつ大粒の涙を溢れさせ、届かぬ海へ、海へと懸命に手を伸ばし、
「おりびあぁーーー」
「おりびあぁーーー」
大人の事情など関係ない。
彼等にとって、彼女と過ごした時間こそが真実であり、全てであった。
しかし泣きじゃくる弟二人に対し、イサミは涙一つ浮かべる事無く、
「なかないの! オリビアはスパイなの! ガルシアの「テキ」だったんだからぁ!」
海の底を睨みつけると、
ガァン!
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
集まる視線の先、
「ケッ!」
ジャックが不機嫌に床を蹴り飛ばし、
「気に入らね! 気に入らねぇ! あぁ気に入らねぇーーーーーー!」
オリビアに、この様な悲しい決断を強いた張本人達は藪の中。本当の話をイサミ達にする訳にはいかない上に、罪人としてのオリビアの死を以ての幕引きに、苛立ち露わに奥歯をギリギリと噛み締めると、ヤマトが努めて平静に、
「落着け、ジャック」
苛立つ気持ちはジャックと同じであったが、子供達がオリビアの死に違和感を感じてしまう事を恐れ、強く自制を促した。
「ケッ!」
腹立たし気に横を向くジャック。
その横顔は、「言われなくても分かってる」と言っていた。
皆が一様に、顔には出さないモノの、腸(はらわた)が煮えくり返る思いで波間を見つめていると、
「かんちょう」
イサミが子供らしからぬ、凛然とした表情で振り返り、
「?」
「オリビアは「にんむ」でしんだの?」
「「「「「「!」」」」」」
兵士の眼をしたイサミに、ヤマト達は絶句した。
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