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青木 森

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8.朋友の章_20

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 同時刻、ガーディアン本部―――
 ルーカスの下に、先発隊が集めた捜査資料の第二報が届けられていた。
「隊長、先発隊の第二報です」
 いつも通り、凛然とした表情で、資料がまとめられたタブレットを自席のルーカスに差し出すクロエ。
「……うむ」
 言葉の一部に、眉の端が微かに反応するルーカスであったが、一先ず受け取り内容を確認。
 その毅然とした佇まいに、クロエは、、
(隊長ぉおぉ、今日も、りっ、凛々しいぃぃいぃぃぃぃ~~~)
 顔には出さず、心の中で萌え萌え。しかし表面上、口調と凛然たる表情は病的に変えず、
「やはり第三者が介在していたようです。男の名前は『ヘンリー』としか分からず、画像も不鮮明で、」
 まで言いかけると、
「!」
 資料を見ていたルーカスが、驚きの表情でガタリと立ち上がった。
「た、隊長ぉ? 如何なされましたか?」
「直ちに現地へ行く」
「えぇ!?」
「少尉、隊員の中で信頼のおける者を十名厳選し、貴官も同行せよォ」
「わ、分かりました隊長! 直ちに隊を編成し、現地へ直行する用意を致します!」
 敬礼し、復唱するクロエ。すぐさま部屋を出て、
(あんなに取り乱した隊長を初めて見た……「隊長と呼ぶな」と、ツッコんでくれなかった……)
 一抹の不安と、「お約束無し」に若干の寂しさを覚えていた。

 時を同じく、自警団本部の執務室―――
 戻ったアレックスは苛立ち露わ、ドカリとソファーに座り、
(クソッ! あのババァを追い出すための算段はリアンと取り付けたが、実行するきっかけがねぇ!) 
 無意に放つイライラに、幹部達は誰も近づけずにいた。
(は、早く、早くしねぇと俺等が殺されちまう!)
 陣取るソファーで苛立ちを募らせていると、扉の向こうから、
『ババァ、テメェ何しに来やがったぁ!』
『下がりな三下ァ! 脳天ぶちまけたいのかァい!』
 威勢の良いメラニー婆ちゃんの怒声が響くと、扉がバァンと跳ね開き、
「アレックス! この落とし前、どうつけてくれんだァい!」
 コーギー達を従えたメラニー婆ちゃんがライフル銃を手に、、引きずって来たアントンをアレックスの前に放り投げた。
(コイツは都合が良い……)
 心の内でニヤリと笑うアレックス。
「ウチの若いのが、何かしたんですか?」
 薄笑いを浮かべると、
「この馬鹿が! 家に火を点けようとしやがったのさぁ!」
 ライターとガソリンの入った小瓶をテーブルの上に投げ置いたが、アレックスはひょうひょうと、
「俺達は市民を守る『自警団』ですよぉ。そんなウチのメンバーが、放火なんてする筈がないじゃないですかぁ」
「アタシが嘘を言ってるってのかぁい!?」
「いえいえ、滅相も無い。元々この町を仕切っていたマフィアのボスの奥方が、そんなチンケな嘘をつくなんて、思ってやしませんよ」
 ニヤつくアレックスに同調する様に、ケタケタと笑いだす幹部達。
 アントンは守られていると思い、
「団長ぉおぉぉおおぉぉ!」
 半泣きで、アレックスの座るソファーの背に走って隠れた。
「上等じゃないかい!」
 鬼の形相で一瞥くれるメラニー婆ちゃん。
「次は容赦しないからねぇ!」
 ライフル銃を肩に担ぎ、背を向け、
「コーギー、ヴァイオレット、エラ! 帰るよぉ!」
 三人を連れ立ち、帰路に就こうとした。
 するとアレックスが不敵な笑みを浮かべ、
「そぅそぅ、これは敬意を表した忠告なのですがねぇ」
「?」
 足を止め振り返ると、
「昔気質のマファイを支持する住人達は、この町にはもう居ない。俺達は市民を守る自警団ですが……他は、どぅですかねぇ?」
「どう言う意味だぁい」
 睨むメラニー婆ちゃん。
「さぁ?」
 アレックスは惚け顔で、
「お客人のお帰りだぁ! オマエ等! 粗相のない様になァ!」
「「「「「「ハァイ!」」」」」」
 幹部達はメラニー婆ちゃん達に「部屋から出ろ」と、あしらう様に促すと、小馬鹿にした笑みを浮かべて扉を閉めた。
 閉ざされた扉を、不安げに見つめるエラ。
「どう言う意味なんでしょう……?」
「知ったこっちゃないねぇ! すっ惚けやがって腹立たしいったらないよぉ! 帰ったら気晴らしに一杯飲むから、アンタ達も付き合いな!」
 笑い飛ばして歩き出すメラニー婆ちゃんの背を、ヴァイオレットは「ふふふ」と笑い、
「御婆様って、極妻だったんですわねぇ」
「ごくつまぁ? 何だいそりゃ?」
「ヴァイオレットが好きでよく見ていた、ジャパニーズマフィアの映画に出ていた、マファイの奥さんの事ですよ」
「へぇ~ソイツは興味深いねぇ~。語呂の響きも、強そうな響きじゃないかぁい」
 満更でもない笑みを浮かべると、
「『ジャパニー』って、どの辺の町? 国? ですかぁ?」
 キョトン顔のエラ。
「『ジャパン』だよ。なんだいエラ、アンタそんな事も知らないのかぁい? まったく近頃の若いモンはぁ」
 和気あいあいと、自警団本部から出て行くメラニー婆ちゃん達。
 その姿を、窓から見下ろすアレックスの手には、携帯電話が。

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