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青木 森

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14_歪の章_2

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 一夜明け―――
 町の中を、散策と言う名の「偵察」をするコーギーとヴァイオレット。
 いつも通りの作り笑顔の後に続く、不服顔。
(何ゆえ王族であるあたくしが、橋のたもとで一夜を明かさなければなりませんですのぉ! これではまるで物乞いではありませんかぁ!)
 結局、野宿を強いられたことを根に持ち、ブツブツとボヤいていると、コーギーは変わらぬ作り笑いの顔して「ハハハ」と笑い、
「でも、今夜は泊まれるんじゃないですかぁ?」
「本当でございますですのぉ!?」
 身を乗り出すヴァイオレットに、
「周りを見て下さい」
「?」
「気付きませんか? 昨日は(夜で)分かりませんでしたが、貿易で財を成す町らしく、僕たちの様な異国の人間が普通にいますよ」
 言われて改めて周りを見回すと、
「本当でございますですわ……」
 肌の色の違いや、宗教の違いが分かる服装をした人々の姿がアチラコチラに見受けられ、
「この様子なら、昼なら換金所の場所を尋ねても、印象に残りにくいんじゃないですか?」
「ですわねぇ~」
 ホテルに泊まれそうな気配に、嬉しそうな顔。
(機嫌が治ったみたいですねぇ……)
 安堵して歩き始めたが、背後からヴァイオレットが続く気配が感じられず、
「ん?」
 立ち止まり振り返ると、癒された表情で頬を緩め、何かを見つめていた。
「平和な町でございますですわねぇ~」
「?」
「コスプレと言うんでございますですのぉ? 年端も行かない幼女が、ナースの制服を着て歩いていましたのでございますですのぉ」
「へぇ~気付きませんでした」
 周囲を見回すが、その様な幼女の姿はすでになく、
(子供がそんな格好で一人で出歩く事が出来るなんて……見た目以上に豊かな町のようですね……)
 誰に言うでもなく感心しつつ、
「それにしても……」
「それにしても?」
「肝心のクローザーに関する情報が、サッパリ見つかりませんねぇ~」
 するとヴァイオレットは「ふふん♪」と一笑い。
「焦っても仕方のない事でございますですわぁ。それに焦って馬脚を露しては、元も子もありませんでございますですわぁ」
「まあ、確かにそうですね。ですが……」
「ですが?」
「(騒ぎ飛び込み体質の)ヴァイオレットに正論で指摘されたのがちょっと……」
「どう言う意味でございますですのぉ!」
 心外そうに憤慨するヴァイオレットを、イタズラっぽく「ハハハ」と笑うコーギー。

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