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青木 森

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14_歪の章_3

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 数時間後―――
 二人の姿は港に隣接した公園に停車する、移動販売を行うワゴン車の前にあった。
 商談でこの地を訪れた業者のフリをして町行く人から換金所の場所を聞き出した二人は無事に現地通貨を手に入れ、情報収集の為、町を熟知しているであろうワゴン販売の店員に目をつけたのである。
「こんにちはです」
 人当たりの良い笑顔で車内を覗き込むコーギー。
 すると、中のキッチンで仕込みをしていた若い黒人男性が愛想のよい笑顔を上げ、
「いらっしゃい、お姉……お兄ぃさん?」
「あははは、よく間違われるんですよぉ。「お兄さん」が正解でぇす」
「ゴメンゴメン、あんまりにも美形だったんで、迷っちゃったよ」
 バツが悪そうな笑顔を見せる店員に、コーギーは変わらぬ笑顔で、
「慣れてますから、気になさらないで下さい」
「アハハハ、悪いねぇ。にしても……」
 後ろに控えるヴァイオレットにチラリと視線を送り、
「彼女さんかい? 二人とも見ない顔だね?」
「商談で来たんです。因みに彼女では、」
 作り笑顔のまま否定しようとすると、ヴァイオレットが背後からガバッと腕に抱き付き、
「そうでございますですわぁ!」
「えぇ!? ヴァイオレット、ちょっとぉ、」
 慌てて話のつじつまを合わせようとすると、
「アハハハハ! 彼女連れで商談なんて、お兄さん見かけによらず「出来る漢」なんだねぇ!」
 愉快そうに笑い、ヴァイオレットはまるで自分の事の様に、
「当然でございますですわ!」
 その自慢げな姿に、店員の男性は更に大笑い、
「なかなか(大変)な彼女さんだねぇ、お兄さん!」
「ははは……どうも……」
 苦笑いで応えるコーギーと、
「ん?? どう言う意味で、ございますですの?」
 首を傾げるヴァイオレット。
 すると店員は「ヤブヘビにならないうちに」と笑いながらお茶を濁す様に、
「それでぇお兄さん、注文は何にする?」
 コーギーは会話に間が出来ない様にすかさず、
「初めてなので、おススメの一番と二番をください」
「はいよぅ!」
 ヴァイオレットが話のネタにされた事を気付かせない様に阿吽の呼吸。
 気付かれて「ヘソでも曲げられたら面倒だ」と、二人は判断したのである。
 日本刀の様な細長い包丁を取り出す店員。接客口でひと際存在感を放っていた、縦五十センチほどの茶色い木の幹の様な物をそぎ落とし始めた。
「あ、あたくし、木の皮など食べられないでございますですわよぉ!?」
 ギョッとするヴァイオレットを、店員は愉快そうに「ワハハ」と笑い、
「お姉さん、ケバブを知らないのかぁい?」
「け、けばぶぅ?」
「これはドネルって言って、ヒツジ肉の塊なんだ」
「こっ、こんなに巨大なヒツジがおりますのぉ!? いったい、どの部位ですのぉおぉ!?」
「アハハハハ! 彼女さんはリアクションが新鮮で面白いねぇ!」
「ははは……どうも……」
 惜しげもなく披露する天然ぶりに、もはや苦笑いするしかないコーギー。
「コイツはね、お姉さん、特性調味料に漬け込んだ肉を広げて串刺しにた塊なんだ。うまいんだぜぇ~」
「ですのぉ~(現代には)様々な食べ物があるのでございますですわねぇ~」
 感心している間に、
「ハイぉ、初ケバブおまちぃ!」
 ヴァイオレット手元に完成したケバブサンドが乗せられた。
 半円形のパン生地の様な物に切れ目が入れてあり、そこに千切りの野菜や、削ぎ落した羊肉が挟まれ、その上には、ピンクがかったソースがかけられていた。
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