小町のひとりごと

夢酔藤山

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……焦がれし日々(6)

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 このときわたしは全く知らなかったのですが、宮様は幾度となく太政大臣藤原良房へ書状を送りつけていたようです。

 失意の弟帝を慰めるべく歌会を催したい。
 願わくば行幸の儀よろしく取り計らいたく願いたい。

 あの藤原良房が、これしきのささやかな願いを承知するわけがありません。
 いまの宮様には、露ほどの政治的野心などございません。それなのに、波風を立てさせず、如何なることへも猜疑の念を傾けるとは、なんとも了見の狭い男なのでしょうね。
 結局、宮様の尊き御心は、ついに実現することが叶いませんでした。
「残念である」
 宮様は俯いておりました。
 慰めるのが在原業平でよかった。あの麗しき御方ならば、失意の宮様をどれほど慰めることが適いましたことか。
 弟宮様の閉塞感。
 皇后多美子さまの失意。
 すべては歌会ひとつで洗われる筈などございません。それでも人の心は、ささやかなことで、平らかな心地を得られるもの。
 宮様の無念は、大きかったのです。
 そのときのわたしは、歌を創ることだけに夢中で、宮様の失意には少しも気づきませんでした。歌会がなくなったことに残念を口にするのも、誰かの心情を想ってのことではありませんでした。浅ましき独り善がりの念が、この口より言葉を発したのです。
 同時にわたしは考えました。
 歌会がなくなろうとも、わたしは歌を世に放つ術を模索していたからです。
 ああ、わたしは、歌のこととなると、何もかも、他人の機微を気にしなくなる、変な体質なのです。
 宮様は都の権力者に失望し、隠棲を決心しておられたようでした。
 そんな宮様の悲しみ憤りを慰めていたのが、ああ、なんとしたことでしょう、妹の八百だったのです。宮様は取り立てて平凡でしかも素朴な妹に、魂の安らぎを見出してしまったのです。
 歌に夢中だったわたしは、このことに、全く気づいていませんでした。
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