41 / 41
結
あなめ小町
しおりを挟む
わたしの魂魄(こんぱく)は彷徨っている……死してなお未練に縛られるわたしの業は、ああ、なんと深きことか。もう見知る者たちすべてが死に絶えたにも関わらず、肉体もないわたしの魂魄だけが、風に晒され陽と月の光だけに照らされる。
声を聞いて……わたしが小野小町。
されど生けとし全ての耳には、わたしの声は一切届かない。
人が人が往来する地の傍らに、無造作に転がるのは髑髏。ええ、ええ、そうですとも、わたしの苔生す髑髏(しゃれこうべ)です。
春は草木に覆われ、夏は苔に包まれ、秋は枯れ葉に囲まれて、冬は雪の底に沈む……。ああ、だけど、わたしの魂魄は未だ去ることなく留まっている。
誰か、誰か、わたしを救って欲しい。
わたしが男を手玉にしたのは、それほどの罪と仰せちや。
死してなお荒野に捨てられる罰に興じる程の罪か。
死したなら彼岸へ渡り、懐かしき宮様にお会いしたいというに、それさえも叶わぬと仰せちや。
ああ、これこそ深草少将平義宜というその御方の呪いと申されるか。千年も万年も、孤独で震えよと申されるか。
わたしの生けとし刻の半分は、あなたさまへの贖罪の放浪。浮かれし刻は瞬く間の出来事というに、その贖罪の刻では足りぬと申されますのか。名のみこの世に残し、身の栄華も捨てたこのわたしに対する怨念は、まだまだ足りぬと申されるのですか。
さりとて、ああ、寂しい……寂しい。
薄の穂が、丁度髑髏の目の穴から生えて、風にそよぐのです。死したにも関わらず、わたしの目はその都度に、あな痛し、泪も涸れし瞳が痛くて堪りません。
あなめ、あなめ。
あな目が痛しと、わたしは泣き叫ぶのに、誰一人耳を傾けてはくれません。
ねえ、そこの若いお坊さん。どうかわたしの目から、この薄を抜いて下さいな。後生にござります、ねえ、ねえ、ねえ。
この独り言が、ああ、いつまで続くのでしょう。
千年も、万年も、わたしは独り、独り言の無間地獄。
了
声を聞いて……わたしが小野小町。
されど生けとし全ての耳には、わたしの声は一切届かない。
人が人が往来する地の傍らに、無造作に転がるのは髑髏。ええ、ええ、そうですとも、わたしの苔生す髑髏(しゃれこうべ)です。
春は草木に覆われ、夏は苔に包まれ、秋は枯れ葉に囲まれて、冬は雪の底に沈む……。ああ、だけど、わたしの魂魄は未だ去ることなく留まっている。
誰か、誰か、わたしを救って欲しい。
わたしが男を手玉にしたのは、それほどの罪と仰せちや。
死してなお荒野に捨てられる罰に興じる程の罪か。
死したなら彼岸へ渡り、懐かしき宮様にお会いしたいというに、それさえも叶わぬと仰せちや。
ああ、これこそ深草少将平義宜というその御方の呪いと申されるか。千年も万年も、孤独で震えよと申されるか。
わたしの生けとし刻の半分は、あなたさまへの贖罪の放浪。浮かれし刻は瞬く間の出来事というに、その贖罪の刻では足りぬと申されますのか。名のみこの世に残し、身の栄華も捨てたこのわたしに対する怨念は、まだまだ足りぬと申されるのですか。
さりとて、ああ、寂しい……寂しい。
薄の穂が、丁度髑髏の目の穴から生えて、風にそよぐのです。死したにも関わらず、わたしの目はその都度に、あな痛し、泪も涸れし瞳が痛くて堪りません。
あなめ、あなめ。
あな目が痛しと、わたしは泣き叫ぶのに、誰一人耳を傾けてはくれません。
ねえ、そこの若いお坊さん。どうかわたしの目から、この薄を抜いて下さいな。後生にござります、ねえ、ねえ、ねえ。
この独り言が、ああ、いつまで続くのでしょう。
千年も、万年も、わたしは独り、独り言の無間地獄。
了
11
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる