閻魔の庁

夢酔藤山

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良相帖

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               一



 政治の重石が去ると、権力構図が急変するのが、古今東西人の世の常である。朝廷勢力は、このとき大きくふたつに大別された。
 すべての原因は、嵯峨上皇にあった。
 かつて薬子の乱により兄・平城上皇を抹殺したことで、嵯峨上皇は弟・淳和天皇に皇位を譲った。淳和天皇は嵯峨上皇の子を皇太子にすることで恩義に応えようとした。それがのちに仁明天皇となる。仁明天皇は淳和天皇の子を皇太子にして、更に恩義に報いた。
 つまり嵯峨・淳和という、二系統の天皇サロンが、知らず知らずのうちに出来てしまったのである。帝はそれで満足かもしれないが、その禄を食む臣下は二分化して、いつしか権力を睨み合うようになっていった。


  大納言    藤原愛発
  中納言    藤原吉野
  参議春宮大夫 文室秋津
  春宮坊帯刀  伴 健岑
  但馬権守   橘 逸勢
  (淳和天皇系統派の主要公卿)

  大納言    橘 氏公
  中納言    藤原良房
  参議左衛門督 源  信
  治部卿美作守 源  弘
  (嵯峨上皇系統派の主要公卿)


 このときひとつの策謀を描いていたのが、藤原良房である。良房は言葉巧みに嵯峨上皇后・檀林皇后橘嘉智子に接近して
「己の血統の皇位継承確立」
の意思を探り出した。
 その意思を代行することで朝廷の勢力を掌握しようと考えたのである。
 現在皇位にある仁明天皇は、嵯峨上皇と檀林皇后の間に生まれた第二皇子である。そして皇太子は淳和上皇の子・恒貞親王。もし皇太子を嵯峨系統に一本化できたら……さぞや檀林皇后もそう願っていただろう。
 その確立のため、良房は糸を引いた。ついでに敵対する派閥も一掃する計画であった。
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