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ソラッド王国には、中央に位置する王都・パドリセンの他に、東西南北に都が置かれている。
北の都・リバリフト。
東の都・ソルティー。
南の都・ビスカス。
西の都・アンディーク。
昔からの伝統で、その領土を統治するのは高位の爵位を持つ貴族の子息と決まっている。
王都・王家の長男ラビラ王子。
北の都・王家の次男ロミナ第2王子。
東の都・公爵家の長男ロッキー卿。
南の都・公爵家の次男グレー卿。
西の都・公爵家の三男デミアン卿。
私の行き先は西の都、アンディーク。
現在の王都はパドリセンに置かれているが、30年ほど前までは、このアンディークに王都が置かれていた。
旧王都アンディークは現王都パドリセンとの長きに渡る争いに敗れたことをきっかけに、王都の権利を奪われ、さらに領土の多くをパドリセンと他都3つに譲渡させられた過去がある。
今では、「落ちぶれた都」と呼ばれている。
「同じ国の都なのに、異国のように感じます」
紅茶を持って来たソフィーが、窓の外を見ながらそう呟いた。
「そうですね」
旧都ということだけあって、懐かしさを感じさせる街並みが印象的で、以前の私なら見入っていただろう。
建築様式や建物の配置が昔ながらで、パドリセンとはまるっきり違う。
パドリセンとの違いといえば……
「アンディークの民がやせ細って見えるのは気のせいでしょうか?」
「私もそう思いました」
そして、民の瞳には希望が宿っていない。
「民も街もそうですが……」
「ええ、活気を感じることができません」
落ちぶれた都、その言葉の意味がよくわかった気がする。
全てにおいて過去のような水準を保てていない。
建破損や倒壊寸前な建物が多く、地面の土も腐りかけている部分があり、所々異臭が漂う場所もあり、街全体が腐敗し始めている。
「それにしても……」
アンディーク、今の私にそっくりだ。
私ほど、アンディークに似合う貴族は他にいないだろう。
「ソフィー、私たちはどこに向かっているの?宿場はもう通り過ぎてしまったけど」
「デミアン卿の邸宅に向かっています。侯爵様から宿場に向かう前に、1度挨拶に迎えと仰せつかってます」
「たしか、デミアン邸を抜けた先には旧王宮があるんですよね?」
「そうです。旧王宮はこの国の歴史的建造物。王家の血筋が代々受け継いできた聖地」
「デミアン邸はその聖地を守る、門番のようなもの……。私たちとは、無縁の場所だけど」
「今日は爵位の高い人に会ってばかり……
そうでしたね、それが私の務め……」
侯爵家令嬢、そんな肩書きがあったことを思い出す。
私に用意された宿場の家賃相場は、アンディークの中では安い部類に入るようだ。
これからは、私の生活も庶民と同じような生活に変わる。
*
邸宅につくと、綺麗に整列した使用人たちが、正門前で、ローズたち一行の到着を待っていた。
迎え入れられることが久しぶりで、一瞬戸惑ってしまったが、すぐに顔を引きしめた。
面白いことに、体が勝手に動いた。
習慣化された動きは、どんな状況でも自然と出てしまうようだ。
「お待ちしておりました、ローズ様」
待っていた案内役が私たちを邸内に案内する。
歓迎やおもてなしを受けた後、デミアン卿の待つ部屋に通された。
国王、お父様、デミアン卿。
部屋に入っるのは3回目だったが、デミアン卿の部屋には私を萎縮させる冷たい雰囲気はなかった。
「お初にお目にかかります、ピアール侯爵家令嬢、ピアール・ローズです」
「お待ちしていました」
デミアン卿は立ち上がり私の挨拶を受けた。
彫刻のように整った輪郭に、灰黄色の髪。
長めの前髪が薄紅色の瞳をところどころ隠していても、その美貌が曇ることはない。
顔全体が正確に見えなくても、誰もが目を奪われる、そんな存在感だった。
「ロバート侯爵家のロバート・デミアンです」
デミアン卿が近づくにつれ、その肉体に備わった厚みに気づく。
噂どおり、人目を引く容姿に、騎士らしさを兼ね備えているのはであるのは間違いないが、パドリセンで散々見てきた、近寄り難いオーラを放つ騎士のような存在感はなかった。
「到着が夜遅くなってしまい申し訳ありません」
「謝らないでください。無事に到着されてなによりです」
今まで会ってきたどの貴族よりも落ち着いた雰囲気をまとっていることに、私は驚いた。
「今回は、休養のためにいらしたと聞いています」
「はい、この頃体調を崩すことが多くて……」
休養。
お父様はよく考えたようだ……
「ゆっくりお休み下さい、何か必要なものがおありでしたら、使用人にお伝えください」
使用人?
私は宿場で生活するというのに、どうしてデミアン卿の使用人を……
「ローズ様御一行を、旧王宮に案内してあげなさい」
私たちの中で、デミアン卿の言葉を直ちに理解できたものはいなかった。
理解に時間を要した。
「旧王宮?!
どうして私が……」
侯爵家の人間が、旧王宮に住むなど、前例もないありえない話だ。
旧王宮に入れる人間は、王家の人間か公爵家の人間くらいのはず。
「旧王宮でしばらく生活させてあげて欲しいとお願いをされまして」
「お願いですか、一体どなたが……」
お父様?まさか、お父様がそんな計らいをしてくれるはずがない。
でもそれ以外考えられない。
「王妃様からでした」
「ゆっくりお休みください」
「王妃様?!」
北の都・リバリフト。
東の都・ソルティー。
南の都・ビスカス。
西の都・アンディーク。
昔からの伝統で、その領土を統治するのは高位の爵位を持つ貴族の子息と決まっている。
王都・王家の長男ラビラ王子。
北の都・王家の次男ロミナ第2王子。
東の都・公爵家の長男ロッキー卿。
南の都・公爵家の次男グレー卿。
西の都・公爵家の三男デミアン卿。
私の行き先は西の都、アンディーク。
現在の王都はパドリセンに置かれているが、30年ほど前までは、このアンディークに王都が置かれていた。
旧王都アンディークは現王都パドリセンとの長きに渡る争いに敗れたことをきっかけに、王都の権利を奪われ、さらに領土の多くをパドリセンと他都3つに譲渡させられた過去がある。
今では、「落ちぶれた都」と呼ばれている。
「同じ国の都なのに、異国のように感じます」
紅茶を持って来たソフィーが、窓の外を見ながらそう呟いた。
「そうですね」
旧都ということだけあって、懐かしさを感じさせる街並みが印象的で、以前の私なら見入っていただろう。
建築様式や建物の配置が昔ながらで、パドリセンとはまるっきり違う。
パドリセンとの違いといえば……
「アンディークの民がやせ細って見えるのは気のせいでしょうか?」
「私もそう思いました」
そして、民の瞳には希望が宿っていない。
「民も街もそうですが……」
「ええ、活気を感じることができません」
落ちぶれた都、その言葉の意味がよくわかった気がする。
全てにおいて過去のような水準を保てていない。
建破損や倒壊寸前な建物が多く、地面の土も腐りかけている部分があり、所々異臭が漂う場所もあり、街全体が腐敗し始めている。
「それにしても……」
アンディーク、今の私にそっくりだ。
私ほど、アンディークに似合う貴族は他にいないだろう。
「ソフィー、私たちはどこに向かっているの?宿場はもう通り過ぎてしまったけど」
「デミアン卿の邸宅に向かっています。侯爵様から宿場に向かう前に、1度挨拶に迎えと仰せつかってます」
「たしか、デミアン邸を抜けた先には旧王宮があるんですよね?」
「そうです。旧王宮はこの国の歴史的建造物。王家の血筋が代々受け継いできた聖地」
「デミアン邸はその聖地を守る、門番のようなもの……。私たちとは、無縁の場所だけど」
「今日は爵位の高い人に会ってばかり……
そうでしたね、それが私の務め……」
侯爵家令嬢、そんな肩書きがあったことを思い出す。
私に用意された宿場の家賃相場は、アンディークの中では安い部類に入るようだ。
これからは、私の生活も庶民と同じような生活に変わる。
*
邸宅につくと、綺麗に整列した使用人たちが、正門前で、ローズたち一行の到着を待っていた。
迎え入れられることが久しぶりで、一瞬戸惑ってしまったが、すぐに顔を引きしめた。
面白いことに、体が勝手に動いた。
習慣化された動きは、どんな状況でも自然と出てしまうようだ。
「お待ちしておりました、ローズ様」
待っていた案内役が私たちを邸内に案内する。
歓迎やおもてなしを受けた後、デミアン卿の待つ部屋に通された。
国王、お父様、デミアン卿。
部屋に入っるのは3回目だったが、デミアン卿の部屋には私を萎縮させる冷たい雰囲気はなかった。
「お初にお目にかかります、ピアール侯爵家令嬢、ピアール・ローズです」
「お待ちしていました」
デミアン卿は立ち上がり私の挨拶を受けた。
彫刻のように整った輪郭に、灰黄色の髪。
長めの前髪が薄紅色の瞳をところどころ隠していても、その美貌が曇ることはない。
顔全体が正確に見えなくても、誰もが目を奪われる、そんな存在感だった。
「ロバート侯爵家のロバート・デミアンです」
デミアン卿が近づくにつれ、その肉体に備わった厚みに気づく。
噂どおり、人目を引く容姿に、騎士らしさを兼ね備えているのはであるのは間違いないが、パドリセンで散々見てきた、近寄り難いオーラを放つ騎士のような存在感はなかった。
「到着が夜遅くなってしまい申し訳ありません」
「謝らないでください。無事に到着されてなによりです」
今まで会ってきたどの貴族よりも落ち着いた雰囲気をまとっていることに、私は驚いた。
「今回は、休養のためにいらしたと聞いています」
「はい、この頃体調を崩すことが多くて……」
休養。
お父様はよく考えたようだ……
「ゆっくりお休み下さい、何か必要なものがおありでしたら、使用人にお伝えください」
使用人?
私は宿場で生活するというのに、どうしてデミアン卿の使用人を……
「ローズ様御一行を、旧王宮に案内してあげなさい」
私たちの中で、デミアン卿の言葉を直ちに理解できたものはいなかった。
理解に時間を要した。
「旧王宮?!
どうして私が……」
侯爵家の人間が、旧王宮に住むなど、前例もないありえない話だ。
旧王宮に入れる人間は、王家の人間か公爵家の人間くらいのはず。
「旧王宮でしばらく生活させてあげて欲しいとお願いをされまして」
「お願いですか、一体どなたが……」
お父様?まさか、お父様がそんな計らいをしてくれるはずがない。
でもそれ以外考えられない。
「王妃様からでした」
「ゆっくりお休みください」
「王妃様?!」
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