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第一章 これは魔法ですか? いいえ、高度に発達した科学です。

no.015 昨日の敵は今日友に

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 コウタは負けた。こっぴどく負けた。翌朝普通に起きたとはいえ意識不明の重体に陥いったし、状況的にミスリルドラゴンから守ってもらった、という報告書が上がった。つまり、内面的にも外面的にもボコボコのボコの完膚なきまでに敗北したのだ。しかし、それはそれ。日頃ハークに転がされているせいか負けることに慣れている。悔しいは悔しいが、上には上がいることを既に知っているのだ。


「今朝は災難だったな。メニカがもう暴れるのなんの。躍起になって新兵器作るんだーとか言って追い出されたし」


 精密検査もそこそこに、コウタはハークから暇を与えられていた。束の間ではあるが、安らぎのひとときである。やかましいアシスタントはなにやらメニカと話すことやることがあるらしく、彼にとってはとても珍しい、たったひとりの時間だ。一応、給金も支給されているから休暇の自由度は高い。そんなこんなでギアズの繁華街【フロント】を、のんびり散策している。


「社会見学も兼ね来たけど……ホントに僕みたいなの多いな。色は違うけど」


 暫く散策したコウタの所感として、オートロイドがそこかしこにいるというものが真っ先に挙がる。店番をしているものや、警備をしているもの、おつかいをしているらしいものさえいる。人と機械の割合は半々といったところだ。


「……それにしては、やけに見られてる気がするけど。やっぱり規則性のない動きは目に付くのかな」


 見た目が似通っているオートロイドは沢山いるし、金属感剥き出しのオートロイドもいる。しかし視線は突き刺さる。何が違うのかとしばし観察してみると、なるほど確かに。彼らは自由な動きながら、そこには幾ばくかの規則性がある。


「そういえば、ナンパに気をつけてとかメニカが言ってたな。……どっか行こ」


 コウタは視線を避けるように歩いていく。むしろ沢山オートロイドがいるからこそコウタの不規則性、拭いきれない人間らしさが目立つのだ。無論彼はそれを隠そうとも取り繕おうともしていないので、目に付くのは至極当然ではあるのだが、問題はそこではなかった。


「……メニカに診察されてる時に似てるのは、気の所為じゃないよな」


 科学大国たるメカーナは玄人素人問わず、科学に関心のある人間がとても多い。故に、見た目とは裏腹に動きが人間くさいコウタへ好奇と興味の視線が集まる。人の多い繁華街となれば尚更だ。そしてメニカを見ればわかる通り、彼らは一様に知的探究に余念がなく、その為の躊躇もない。相手からすればフリーロイドでしかないコウタに、魔の手が掛かるのは時間の問題である。そして、その時間はもう来てしまっていた。


「そこのオートちゃん。新顔だね。どこ製? ワンオフ? てかリンクやってる? 無骨な見た目してるところを見ると軍用かな?」


 早速一名、チャラい口調のチャラい男がチャラくない内容でコウタに話しかけた。その後ろには取り巻きが二人、そのさらに後ろには出遅れたと悔しがるのが何人かいる。


「専属メカニックいる? なければ俺、立候補しちゃおっかなー?」
「おい抜け駆けずりぃぞ! オートちゃん、俺は?」
「ちょっと楽しいトコ……行かない?」


 言動以外、仕草見た目全てがチャラい。コウタはこんな科学のかの字も知らなそうなチャラ男たちが科学にどっぷりなのかと目と耳と、あと国風を疑った。


「メニカ・パーク」
「……は?」
「メニカ・パークが専属メカニックだよ」
「じゃあなに? あのゴリラのバケモンと変態の部下ってこと?」
「そうなるね」


 事実なので、全く否定するつもりはない。チャラ男の推察通り、ゴリラのバケモンと変態はコウタの上司である。


「ちっ、解散だ解散! こいつツバ付きだとよー!」
「けっ! じゃあこいつも実質ゴリラのバケモンじゃねぇか!」
「ぺっ! 変態のツバ付きとか公害だろもはや! 表歩くなや!」


 捨て台詞を吐きこの場を後にするナンパ師を見送り、コウタはとんでもないとこに籍を置いてしまったと再確認した。


「ひどい言われようだな僕の仲間」


 ――そう思っても否定はしない。だって自分もそう思ってるから。
 ナンパ騒動から数分して、コウタ路地裏にある小さなカフェに入った。ロイド用補給ステーションも兼ねている店らしい。


『いらっしゃいませ』
「……いらっしゃい」
『一名様、お好きな席にどうぞ』


 ドアを押し開けて中に入ると、からんころんとドアベルが鳴る。次いでメイドロイドの無機質な声と、壮年のマスターの落ち着いたな声に歓迎される。自分以外に客は一人もいない。店主も特に興味ありげな視線を向けては来ないし、ここなら一息つけそうだ。奥の席を選び、腰掛ける。オートロイド用の椅子なので決して柔らかくはないが、それでもようやくひと息つけたことに安堵し、長めのため息をつく。


『ご注文は如何なさいますか』
「あ、えと……人用のホットコーヒーで」
『かしこまりました』


 ――メイドオートロイドの光沢のある白めの外装を見て、やはり自分は他と違うのだと感じる。
 オートロイドは人に接することが多い場合、親近感を与えるため、たいてい外装には見た目柔らかな色の素材が使われている。コウタのような真っ黒な剥き出しはほとんど居ないのだ、


「……うまい」


 ――メニカに頼めば外出用の目立たない外装くらいは作ってくれそうではある。しかし、そもそも僕自身はこれからどうすべきなのか。メニカは強化用武装を作ると言っていたが。ユーリにボロ負けしたのは仕方ない。だけどそれを仕方ないで終わらせるつもりは、ゴリラにも変態たちにもないらしい。
 店内のインテリアをぼーっと眺めながら、コウタはそんな思考を巡らせる。しかしいくら考えても思考は巡るばかりで留まらない。過去に悔いることも、未来に怯えることも、実際に大した意味はない。結局はただ自らを追い詰めるだけだ。そんな彼をよそに、入店を告げる小気味よい音色が、からんころんと店内に響いた。


「……いらっしゃい」


 入ってきたのは銀色の髪をした少年だ。歳の頃は16から18で、身長は自分と同じくらい。どこか見覚えのある彼は、店内を一瞥し、唯一の客のコチラを見て一言。


「お、また会ったなコータ」


 コウタに世界の広さを叩きつけた張本人、雷の勇者ことユーリ・サンダースがそこにいた。


「まだ翌日なんですけど!?」


 突然の宿敵との遭遇に、椅子を勢いよくがたんと倒して立ちあがる。大きな音が店内に響き、店主の視線がちらと向けられるのも気にもしないまま、コウタは震える指でユーリを指さす。


「な、な、な……なんでここに!?」


 ようやく絞り出したツッコミはそれが精一杯だった。いつかリベンジを誓った相手が、打ちのめされたその翌日に現れたのだ。脳内はハテナで埋め尽くされた。


「まぁそう慌てるな。今日はオフだ」
「え、あ……だ、だまされないぞ! 今度こそ捕らえに来たとかそんなんかもしれない!」


 警戒マックスでコウタはそう返す。世界の英雄たる勇者に不遜な態度を取るなど友人等でない限り通常有り得ないのだが、コウタには殺されかけたという免罪符がある。媚びへつらうつもりは毛頭なかった。
 ――昨日の暴力的なまでの印象とはうって変わり、ユーリからは殺気も豪気も闘気も感じない。本当にあの苛烈で激烈な勇者と同一人物なのか、他人の空似ではないか。


「騙すも何もねぇよ。座っていいか?」
「い、いや……」
「座っていいか?」
「でも……」
「座っていいか?」
「ぐ……」


 有無を言わさぬ圧と言葉の前に、渋々相席を許可する。なにを考えているはわからないが、流石にこんな街中で暴れはしないだろう。


「ご注文は?」
「コータ、何頼んだ?」
「……ホットコーヒー。人用の」


 まるで友人のようなやり取りに猛烈な違和感を覚えながら、ユーリを観察する。昨日と同じ顔しておきながら、全く気配が違う。篭手が手袋に変わっているところも気になるが、そもそもなぜここにいる。


「同じものをもうひとつ。サトウマシマシホイップトルネードキャラメルブチコミで」
「なんて?」
「かしこまりました」


 店主はユーリの呪文に特に動じることも無くにこやかに注文を取ると、また厨房へ消えていった。それからしばらく、無言の時間が続く。


「……」


 正直なところ、拍子抜けした。と言うよりは毒気を抜かれたという方が正しいか。呪文の件は兎も角としても、やはりあの苛烈で激烈なイメージとはかけ離れている。向けてくる気迫……意思には特に強いストレスは感じない。本当に昨日と同一人物なのかと疑いたくなるくらい穏やかだ。


「お待たせしました。カロリーモンスターです」


 コウタの疑問を他所に飲み物が運ばれてくると、互いに無言でそれに口をつける。豊かな香りと深さのある心地よい苦味がいっぱいに広がる――的な食レポに思いを馳せ、沈黙の気まずさを誤魔化していた。そしてユーリが30センチほどあるホイップクリームを食べ尽くした頃、ついに耐えきれなくなった。


「…………随分と、甘党なんだね。そういやチョコの食べ過ぎで鼻血出たとか言ってたね」
「甘党っつーか病気でな」
「そりゃあ病気でしょうよ。主に頭の」
「ちがうちがう。雷心のせいで人より代謝が高くてな。こうでもしねぇとすぐ痩せちまうんだ。それと後で覚えとけよお前」


 ユーリは雷心症の副作用により、一日におよそ二万キロカロリーを基礎代謝で消費する。これは一般的な成人男性の十倍以上で、体脂肪に換算すると実に2.7キログラムにもなる。つまり、何もしなくとも一日に3キロ近く痩せてしまうのだ。故に食事は一日に八回、睡眠の時間を除き、およそ二時間おきに成人男性の一日の食事分を取っている。
 なおユーリの体脂肪率が5%を上回ることは基本的になく、服の下は気味が悪いくらい筋肉のエッジが立っている。


「……けどその割にはあんまり汗くさくないというか……むしろ塩素のにおいがほんのりする」
「鼻いいな。汗が電気分解されてるからな」
「雷の勇者だから?」
「……合ってはいるが、順番が逆だな。雷の勇者だからこうじゃなくて、俺はこうだから雷の勇者なんだ」


 そう言うユーリの表情はどこか険しい。まるでそれが忌むべきものであるかのように。なぜだかそれが、コウタにはとても悲しいことのように思えた。


「……せっかくだし聞かせてよ。今度君に一矢報いる為の参考にしたい」


 だからこそ、ここで聞かなければならないと思った。


「お前いい根性してんな。……面白い話じゃねぇぞ?」
「いいよ」


 コウタの決死の直球発言により、ユーリの顔が少しだけ穏やかになり、やがて口を開いた。


「前にも言ったが、雷心症っつってな。まぁ平たく言えば心臓が発電機になる病気だ」


 ユーリは先天的発電心房――通称電心症、又は雷心症という重い病気を患っている。
 簡潔に言えば、心臓が血液を送り迎える度に発電してしまうという病である。
 とりわけ彼の心臓は同患者のそれよりも非常に発電能力が非常に高く、最低でも毎秒二万キロジュールもの電気を生産している。
 そしてこの病の恐ろしい、もとい凄まじいところは、発症後およそ一年で発電を身体機能の一部としてしまうところである。つまり、身体は発電の為にエネルギーを求めるようになるのだ。これが異様に高い代謝の正体である。


「だからこうして気が狂いそうになるくらい甘いもんとか、薬を飲んだりしてなんとかしてる。これでもマシになった方だ。メカーナの科学力様様でな。今日だって検査のためにここ来た」
「じゃあ、僕をひっ捕らえに来たわけじゃないんだね」
「理由もないしな。まぁこの辺で気配感じたから見に来たってのはあるが」
「気配?」
「神器のな。お前……じゃねぇな。胸のやつだな。それの気配が何となくわかる」


 神器とは、件の隕石と共に外宇宙からやって来たとされる、別の惑星文明の技術がこめられたオーパーツ的存在である。それは武器だったり防具だったり器だったりと様々な形をしているが、一様に持つ者を選ぶ。エネルギーの波長や許容量が合わなければ持ち上がらず、そもそも触れることすら叶わないこともある。


「全部が全部わかるってわけじゃないが、適合者がいたり、起動してたりするとわかりやすい。たった一振りで国すら容易く滅ぼせる代物だしな。場所がわかるに越したことはない」
「……だからあんなに僕を警戒してたのか」
「そういうことだ。うまく使えよ。神器の所有権は『最初に持ち上げた者』にある」


 持ち上げると使うはこの場合ほぼ同義である。持ちさえ出来ればいずれ効果を発揮するからだ。


「確認されてるので15……だったか。お前のは申請されてないらしいから、何かワケがあるんだろう。俺もその意を汲む。他の奴からも勧誘を受けるときがあるかもしれんが、そんときは俺の名を出せ。なんとかなるはずだ」


 ユーリは帰投後、コウタのアークについて調べた。そしてそんな性能の神器は確認も登録もされていないとの結果が出た。これはつまり、何らかの意図がありこうしているのだと、彼は当たりをつけたのだ。


「なんでそんなに良くしてくれるのさ。何度でも言うけど昨日とはえらい違いじゃないか」
「良くしてるわけじゃねぇ。言ったろ、力は正しく使われるべきだって」


 そう言ってユーリはカロリーの液体を一気にあおる。その言葉はユーリ自身の勇者であることの信条で、自分に対する警告でもあり、言い聞かせる自戒でもあるのではないかと、コウタはなんとなくだがそう思った。
 コウタはなんとなく話題を逸らしたくなり、ふと思い浮かんだ疑問をぶつけた。


「そういえば、当たり前のようにやって来たから忘れてたけど、そもそもあそこって魔素が濃すぎるせいで普通の人間は生身じゃ立ち入れないんじゃなかったっけ」


 ユーリもシェリーも、ともに生身でやって来た。そこに今になって疑問が浮かんだ。しかし、それに対する答えはとても単純なものだった。


「俺らが普通の人間に思えるのか?」
「すごく納得した」


 普通の人間ならば死ぬ場所に居られるならば、それは普通の人間ではない。その単純な回答がものすごく腑に落ちる。ならハーク隊長もワンチャンあるのでは。


「まぁなんにせよ、今後活動するときは気を付けろよ。ちゃんと身分がわかるようエンブレムもつけろ。俺やシェリーみたいに優しい奴はそう居ねぇぞ」
「“優しい”って、この言語では”やばい”って意味なんだね」
「ぶっとばすぞ」

   
 先程の気まずい沈黙は何処へやら。ユーリが比較的フレンドリーで歳が近いのもあってか、コウタはいつものペースを取り戻していた。


「そういやあのときもやけに皮肉めいたセリフが多かったな。減らず口とはまさにこの事か」
「あんまり褒めないでよ」
「帰ったら聴覚のメンテナンスしてもらえよ」

  
 ユーリも皮肉たっぷりに返す。普段こういう友同士のようなやり取りは、ろくにしないものだから、むしろコウタのこれを楽しんでさえいた。


「くっくくく……」
「急に笑わないでよ。こわい」
「おいコータよ。俺ろくに友達居ねぇんだ。今日からダチな」


 差し出された手は警戒でも攻撃でもなく、単なる友好の証だ。まるで友達はこうやってつくるのだと言わんばかりに自然に、当然のように、微塵のためらいもなくユーリはコウタに対し、友になってくれと言ってのけた。


「……よく殺しかけた相手にそれ言えるね。まぁいいけど。よろしくユーリ」
「おう。よろしくな」


 コウタも友人と言えるのはメニカくらいで、特に断る理由もなく、ふたりはがしりと握手を交わした。ある意味で人間を辞めた男どうしの奇妙な友情の爆誕である。


「そういえば、裏切り者って――」


 それを遮るように、コウタに通信が入った。


「はい、こちらコウタ」
『コウタさん、スクランブルですよ!』


 発信者はアミスで、メニカも近くにいるのか、なにやらどたばたと慌ただしい音が聞こえる。


「僕のつかの間のお休みはどうなるんですか?」
『また今度らしいです! 詳しい話はジェットの中で!』
「僕一応重傷者扱いなはずなんだけどこの職場ブラック過ぎませんか?」
『いいから早くしてください! 第三格納庫まで!』

  
 有無を言わさず、コウタの休暇は消え去った。


「え、と……じゃあ、僕行くよ。ご馳走様でした。お会計を――」
「いいぜ、払っとく」
「あ、ありがとうユーリ」 
「またなコータ」


 ――ユーリに見送られ、店を後にする。また今度の休みに来ようと思えるくらいには居心地が良かった。惜しむらくはナンパロードを通らなければならないところだが。まぁどうにでもなるさ。だって友達が出来たんだから。
 ルンルン気分で車道を爆走し、コウタはものの数分でG3所有の格納庫までたどり着いた。


「あ、コータくんやっと来た! もう行くよ!」
「行くってどこにさ。あと何の用で……」
「説明はあと! いいから乗って!」


 メニカに急かされるまま、コウタはG3所有の超音速ジェット【ブルースワロー】に乗り込む。


『たっだいまでーす!』
「うわびっくりした!」
『やっぱりコウタさんの中は違いますねぇ。実家のような安心感があります』
「あぁ、束の間の平穏が……」
「コータくん、海外旅行だよ! ほら横に積んでるの運び込んで!」
「とうぶん遠出したくなかったんだけどな……」


 がくりと肩を落としながら指示された荷物を運び込むと、のそりと巨人がジェットから出てきた。


「そう言うなコータ。世の中には理不尽が往々にしてある」
「隊長も出るんですか? じゃあ尚更僕要らないのでは」
「今回は全員出動だ。メニカもな。休暇中のメンバーも何人か呼ぶが……来るかはわからん」
「そんな一斉出動だなんて、本当に何があったんですか?」


 割と重要そうなミスリル鉱山の調査すら単騎だった。単純に考えてこれはそれ以上の難度でそれ以上に重要な任務だと推察できる。そしてそれは、予想を裏切らないものだった。


「神器が発見された。お前の【アーク】やユーリ・サンダースの【ヤールングレイブ】と同じようなな。つまりどういう事かわかるか?」
「僕のアイデンティティが薄まる……ってのは冗談でその拳を下ろすのは辞めていただきましょうか。勇者が生まれるとかですか?」
「それはまだ後だ。まず国家間の諍いが起きる」


 神器は持ち上げられたならば、それの所有権は持ち上げた者に属する。しかしその限りではないならば、基本的に勇者だけで構成された組織【円卓】が管理する。そうなってしまえば適合者はほぼ見つからない。故にヤツらが動く前に動く必要がある。


「戦争を止めるんですね。徳のためにもやっちゃりますよ僕」


 力を正しく使うのを模索しているコウタにとって、争いを止めるというのは実にわかりやすいモチベーションだ。なにせ確実に善い事だ。しかし、そんな甘い考えは捨て置けとばかりにハークはそれを正面から否定する。


「違う」


 ごきりごきりと腕を鳴らし、肩を鳴らし、首を鳴らす。ハークはいつになく楽しそうで、にやりと口角を上げていた。


「俺達が獲る」


 ――戦争。その行為は徳とは程遠い。人類が優秀すぎるが故に生まれてしまった、最も忌むべき、最も愚かで、かつ最も有用な交渉術。仮に神が居て、見られているのならば、今まで積んだ徳は容易く消し飛ぶことになるだろう。これから自ら戦火に飛び込むのだから。
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