猫舌ということ。

結愛

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出会い

第39話

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電車が動き出しても各々スマホをいじっていた。
たまに根津姉妹の話し声が俊くんを挟んで右隣から聞こえる。
僕はというと匠からのLIMEを返そうとLIMEのアプリを開いたはいいものの
匠のメッセージが長かったら読むだけで時間使いそうだしと思い、アプリの並ぶホームへ戻る。
並ぶアプリの中で一際禍々しい黒ベースに赤い血文字のように書かれた
意味がわかると怖い話のアプリを開いた。この意味がわかると怖い話のアプリは
意味がわかると怖い短編小説のようなものを読んで「どこが怖いでしょう?」という
クイズ形式のアプリなので、その答えを考えながら過ごしていた。
2、3回駅に止まったあとだろうか。すぐ隣の俊くんに少し動きがあったかと思えば
「あ、僕次なんで」
と言ってシートを立つ。
「あ、そうなんだ」
まだ駅には着いていなかったため
僕と妃馬さんの間、今まで俊くんが座っていたシートの前で吊り革に掴まり立っていた。
「でもあれだね。俊くん最悪終電逃しても徒歩で帰れる範囲なんだね」
そう笑って言うと
「たしかにそうですね。お酒飲めるようになって飲み会多くなっても
あの駅でなら終電逃すまで飲めますね」
そう笑って返してくれた。電車の扉の上の小さなモニターには
「こちら側の扉が開きます」と表示されていた。
「今日はありがとうございました。大学でもよろしくお願いします」
そう言う俊くんに
「うん。こちらこそありがとう。
たぶん鹿島がゲームに誘うだろうから、ごめんだけど付き合ってあげてね」
そう「鹿島が迷惑かけるね」と少し苦笑いのような表情で言うと
「あ、いえ、楽しみにしてます」
そう僕に言ったあと
「根津先輩も姫冬ちゃんもありがとうございました」
今度は根津姉妹に挨拶をする。
「うん。こちらこそありがとうね」
「楽しかったねー!」
「授業姫冬と同じときは監視お願いね?」
妃馬さんの言葉に俊くんはキョトンとする。
「ほら、姫冬寝るかもしれないし、最悪サボるかもしれないから」
そう言うと納得したように
「あぁ~」
と言った。姫冬ちゃんは
「お姉ちゃん!」
と妃馬さんを睨んだあと俊くんを指指し
「俊くんも納得しない!」
と少し怒ったような表情を作り言う。
「ごめんごめん」
と笑う俊くん。そんなやり取りをしていると
間もなく電車の速度が落ち始め、僕たちが座っているシートと反対側の扉が開き
「じゃあ、失礼します」
と軽く頭を下げホーム出る俊くんに
「うん、じゃあまた!気をつけてねー!」
そう言って手を振る。チラッと右側を見ると根津姉妹も手を振っていた。
手の振り方1つ取っても個性が出るなぁ~と根津姉妹を見て思った。
アナウンスの後、扉が閉まりまたゆっくりと電車が動き出した。
電車内が空いてるということもあり、俊くんが座っていた位置が空いていたが
あえて詰めて座ろうとは思わず、根津姉妹と僕の間には1つ空席が生まれた。
そして相も変わらず僕はスマホで意味がわかると怖い話を読み、答えを考え
右隣からはたまに根津姉妹の話し声が聞こえていた。
意味がわかると怖い話を読み、答えを考えながらも
駅名のアナウンスが聞こえる度に意識をそちらに少し傾けていた。
そのお陰でそのアナウンスを逃すことはなかった。
次が根津姉妹の降りる駅。妃馬さんが
「怜夢さん」
と右肩をトントンと軽く叩いてきた。
きっと僕がスマホに夢中で気づかないだろうと思ったのだろう。
「はい?」
と自分の中では、わざとらしかったかな。と思う返事をする。
「私たち次なので」
その言葉を聞き、一瞬で考えた。
そして僕はそれを実行に移した。僕は扉の上の小さなモニターを見て
「あっ」
と声を漏らす。妃馬さんが「?」という顔をする。
「僕も次で降ります」
また「?」という顔をする妃馬さんに
「小説読んでたら降りる駅過ぎちゃいまして」
苦笑いで「やっちゃった」感を出す。
「大丈夫なんですか?」
心配してくれる妃馬さんに対し
「ご心配おかけしてすいません。
でも歩いて帰れる距離なんで酔い覚ましついでに歩いて帰ります」
そう言うと
「そうですか。良かった」
と安心した様子だった。そんなことを話している間に電車の速度は落ち
話が一段落したところでちょうど扉が開いた。
根津姉妹が先にホームに降り、僕もその背中を追うようにホームへ降りた。
その後も僕は根津姉妹の背中を追うようにして改札から外に出た。
券売機周辺の天井を支える太い柱のところで僕は少し止まりスマホをいじる。
正確に言うとスマホでマップアプリを開き、自分の家へのルートを検索する。
「どうでした?大丈夫でした?」
そうまた心配そうに聞く妃馬さんに
「あ、はい。だいたい40分くらいで着くそうなので」
そう言うとまた安心した表情になる。
そしてまた僕は根津姉妹の背中を追い、歩き始めた。
「怜夢さんもこっちなんですね」
「はい。さっきチラッっと見たらこっち方向だったので」
「なんかお姉ちゃん嬉しいそう?」
後ろの僕に振り返るようにして話していた妃馬さんは
こちらを見たまま、左側の姫冬ちゃんににじり寄り脇腹の辺りに軽くエルボーを入れた。
「うぐっ」
っと痛そうな声を上げる。
「嬉しいというかちょっと安心です」
そう僕に笑顔を向ける妃馬さん。

良かった。

僕は電車に乗る前、妃馬さんが最寄り駅から
どれくらい時間が掛かるかを聞いたときからこのことを考えていた。
余計なお世話かもしれないが0時過ぎまで僕たちに付き合わせた女性を
女性2人だけで帰らせるのは、申し訳ない気持ちと心配な気持ちがあった。
なので妃馬さんに、最寄り駅からどれくらい掛かるのか。
そして2人とも同じ家に帰る。と聞いたところで決めた。家まで送ろうと。
迷惑かもしれない。気持ち悪いかもしれない。
そう思われたとしても根津姉妹が無事家に帰れるならお安いものだ。
電車の中でも意味がわかると怖い話を読みながらもしっかりとアナウンスを聞き
本来自分の降りる駅のアナウンスも聞き、過ぎているのも実は知っていた。
そして改札を出てマップで自分の家までのルートを検索した。
これは本当だ。そして家までの所要時間が40分程度なのも本当だ。
しかしルートが根津姉妹と同じ方向だというのは嘘だ。
本当は駅沿いに進み、本来の自分の最寄り駅の近くに出て、そこからいつ通りの帰路を進む。
これで40分程度だ。しかし今、根津姉妹の背中を追っている。
はたして根津姉妹の実家まで行ったとき本来の所要時間40分からプラス何分だろうか。
そう思うのと同時に

これは正々堂々としたストーカーでは?

とも思った。しばらくは車道の横の歩道を3人で歩いていた。時間も時間だからだろう。
車通りが少ない。たまに過ぎ去る「空車」の文字を出したタクシー。
車通りも人通りも少なく、遠くから近づいて来るタクシーの走る音が
遠くからでもよく聞こえた。たまにトラックや普通の乗用車も通り過ぎた。
駅から5分程度、10分は経っていないだろうくらいのときに
「私たちここで曲がりますけど」
と妃馬さんが曲がり角で立ち止まり振り返り僕に言う。僕は少し考えた。
曲がる方向は通り過ぎた僕の駅の方向とは逆だ。
妃馬さんもそれは恐らくわかっているだろうから
「あ、僕もこっちです」というのは気持ち悪さに拍車をかけ
「不審」というステータスもプラスされてしまう。なので僕は
「妃馬さんたちあとどれくらいで家ですか?」
と聞いた。
「今駅からここまで歩いた分と同じくらいですかね?」
どうやらあと半分くらいらしい。
「送ります」
もうストレートに言った。
「いえ、もうすぐだし、怜夢さん遠くなっちゃうので」
案の定遠慮する妃馬さんに
「もうすぐならなおさら。どうせ乗り過ごしたんだし
ちょっとくらい距離伸びようが平気です」
もう気持ち悪さのパラメーターがどうなろうと知ったことじゃない。と思い
思い切って言った。心に住む住民の一部、心の奥底に住んでいる住人は
「本当は嫌われたくない」と思っているようだったが
僕はそれに気づいていないようで気づいていた。
ただそれに気づかないフリをしてやり過ごした。
返事を待っていると姫冬ちゃんが妃馬さんになにやら耳打ちをしている。
かと思ったら妃馬さんがまた姫冬ちゃんの脇腹辺りにエルボーをかましていた。
そしてまた「うぐっ」っと痛そうな声を出す姫冬ちゃん。
さっき見た光景が別角度で再放送されていた。
「じゃあ、お願いしても良いですか?」
そう言う妃馬さん。僕は
「はい。嫌じゃなければ喜んで」
と冗談混じりに言ったが内心ではガッツポーズをしていた。
心の中の住人も皆「わーい」と言っている気がした。
「いや、全然!全然!嫌なわけはないんです。じゃあお願いします」
とペコリとお辞儀をする妃馬さんに
「はい、喜んで」
と僕もお辞儀をし返す。2人で同時に顔を上げ、顔を見合わせて笑った。
そしてまた3人で歩き出した。道中は3人で他愛もない話をして笑って歩いた。
するとあっという間に根津姉妹の実家に着いたらしく2人が立ち止まる。
「家着きましたので」
とマンションを指指し妃馬さんが言う。
エントランスはそこそこ大きくエントランスのライトが煌々と輝いていた。
「あ、じゃあ、また大学で?いや、ゲームが先かなぁ~」
そう少し冗談混じりで言うと
「大学のほうが先ですかね?ゲームまだ買ってないので」
「あ、たしかに。それもそうですね」
そう言って3人で笑った。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「私こそありがとうございました」
「私も楽しかったー!ありがとうございましたー!」
そう言った後
「では」
と言い背中を向け帰り道を歩き出そうとしたとき
「怜夢さん!」
と名前を呼ばれて振り返るのを途中で止め
「はい?」
と言いながら妃馬さんのほうに向き直る。
「あとでLIMEします!」
と無邪気な笑顔で言い
「送ってくれてありがとうございました。怜夢さん、お気をつけて」
とペコリとお辞儀をし、先にエントランスに向かっていた姫冬ちゃんを小走りで追いかけ
2人でエントランスに入っていった。エントランス内でバッグの中に鍵を探す妃馬さんと
妃馬さんになにか話しかけている妃馬さんの姿があった。
その様子を見た後、振り返り今来た道を引き返し始めた。
春独特の空気の香り。たまに通る車の走る音。一番近くで聞こえる自分の足音。
たまにアスファルトと靴の間にある小石を踏む感覚が靴を通じて靴下を穿いた足の裏に感じる。
その小石を靴の裏で踏み、小石とアスファルトが擦れる音が小さいながらもしっかり聞こえる。
冬よりは重いけど、夏よりは澄んだ空気を照らす街灯。そんな中、先程の妃馬さんの

「あとでLIMEします!」

という言葉とその後の無邪気な笑顔がフラッシュバックする。
平然な顔をしていたが、妃馬さんのその言葉を受けたとき
妃馬さんの方向から春風がブワーっと吹いたような謎の衝撃を受けた。
冬が過ぎ、花や緑が鮮やかに色付き始めたように
その一瞬だけ辺りが明るく照らされ、色鮮やかになったようにも感じた。
そんな妃馬さんの言葉をい受けた一瞬だけど長く感じた時を思い出し、後頭部の辺りの掻く。
一度立ち止まり、春独特の香りと春の空気を鼻から目一杯吸い込む。
そして空に向かって鼻から息を吐き出し、帰り道を歩き出した。
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